インドネシア警察官の見た交番:「インドネシア警察行政比較セミナー」(その2)

前回ご紹介したとおり、インドネシア警察への包括的な支援プロジェクトはすでに8年目に入り、インドネシア警察も日本の交番などを手本に、地域に根をおろした、頼られる警察へと成長しつつあります。この改革の動きが進む中で本年10月8日に来日したのが、「市民警察活動促進プロジェクトフェーズ2」の一部である本邦研修「インドネシア警察行政比較セミナー」の研修員24名。彼らは国土がいくつもの島に分かれるインドネシアの各地から選抜された、大尉または少佐の階級(軍隊から分離した後も階級は軍隊式)を持つ幹部警察官たちです。

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、警官の電話応対を見る研修員たち。

それぞれがインドネシア警察の将来を担うエリート警察官たちの34日間の日本滞在の目的は、警察庁での講義や地方における警察活動の視察を通じて日本・インドネシア両国の警察制度の違いを肌で感じ、参考にすべき事例・自国に当てはめるための手法などを考察すること。中でもハイライトとも言うべき地方警察活動の体験実習では、24人を3人ずつの小グループに分かれ、北海道、茨城、福岡の3道県8箇所で活動しました。

地方の警察署や交番、駐在所で日本の警察に触れたインドネシアのお巡りさんたちの反応は最初の驚きや戸惑いから感嘆、さらには自分ならこのように母国に取り入れたいという熱意へと変化していきました。軍隊組織から分かれただけに命令遵守を旨としてきたインドネシアの警官たちにとっては、事件現場などで自己裁量で動くこともカルチャーショックのひとつ。また、ミニパトにも鑑識機材を積んでいて事件発生後すぐに鑑識を行えるというのも新鮮な驚きでした。こういったことから、現場での即応能力強化が始まるというのが良く理解できたようです。

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住民の声を聞く様子をメモを取りながら熱心に見聞する。

消防署との情報共有や地元自警団、交通安全協会などとの連携も、現場即応能力を高めつつ、かつ住民ニーズに応え信頼関係を築くにはどうしたら良いのか、大きな参考になったということです。他にも警察学校を出たての新人警察官が管区内で揉め事があったのを一人でてきぱきと処理するのを見ては、その能力の高さ、プロ意識にも感心しています。

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警察大学校で行われたアクションプラン発表会で成果を発表する。

警邏活動から交番での日誌作成、住民宅への立ち寄りなど日本のお巡りさんの日常に朝から晩まで密着し、研修員同士の討論を繰り返しながら24名は貪欲に知識の吸収に当たりました。東京で再び一堂に会しては、異なったグループとそれぞれの見たこと、吸収した情報の交換をしています。

その集大成は、帰国後に自分の所轄警察署で実施すべき改革プランと、それを部下に伝える命令書という形で「アクションプラン」として発表されました。もちろん、日本のシステムをそのまま取り入れるだけではだめ。多民族多言語といった日本とかなり異なる文化的、歴史的背景を考慮して自国に最適なプランを作らなければなりません。

たとえば日本と比べて圧倒的に農村人口の多いインドネシアでは交番より駐在所を増やすべきという考えや、地域によっては複数の言語が話され、識字率も日本と異なるインドネシアでは、漫画やイラストを多用した広報用パンフレットを作りたいなど、自国の事情に即した具体的なアイディアがアクションプラン発表会では次々に語られました。

日本の警察活動に触発されたインドネシアのお巡りさんたちのこれら研修成果がどのような形でインドネシアに根付いてゆくのか、今後の展開が大いに期待されます。


JICA東京 井上達昭