日本の水産業から学ぶ〜モルディブ国別研修「水産セクター開発計画策定能力向上研修」〜

モルディブの漁業農業省の5名が来日。
講義の他、魚市場、マグロ養殖場、漁船等の視察を通して、日本の漁業や養殖、付加価値向上などについて学びました。

モルディブについてご存じですか?

 「モルディブ」という国について、みなさんご存じですか?モルディブは、インドとスリランカの南西に位置する海洋国家です。インド洋上9万km²に渡る、およそ1,190の島々で構成されています。
 モルディブと聞いて“青い海”“白い砂浜”そして“リゾートホテル”を思い浮かべる方も多いように、国内経済の第一の産業は観光業です。観光業は実質GDPの25%を占めていますが、自然災害や原油価格の変動等の外部要因の影響を受けやすく、観光業に頼るだけでは国内経済は安定しません。
 観光業に次ぐ第二の産業は漁業です。なんと年間の一人当たり水産物消費量は世界一で、また総輸出額の98%を水産物が占めています。食料の安全保障と外貨獲得の観点から持続的な水産資源利用の重要性は高く、漁業の振興と管理が大きな課題とされています。

研修員の来日

初日のオリエンテーション

 これらの背景から、JICAは2014年から水産資源が持続的かつ効率的に利用されること目的とした「持続的漁業のための水産セクターマスタープラン策定プロジェクト」の活動を行っています。その活動の一環として、今回モルディブから水産部門に従事する漁業農業省の5名の研修員が来日しました。
 2週間にわたる研修では、日本の水産行政や漁業管理等についての講義を受けた他、各地の水産セクターの視察を行いました。

三崎漁港・佐島漁港の視察

-60℃超低温冷凍庫を体感

生け簀の様子を視察

 研修3日目は三崎と佐島漁港への視察を行いました。活気ある卸売市場の様子を視察したのち、水産加工場の視察を行いました。その後、漁業会社を視察し、漁船や活餌を活け込んでいる生け簀を見学しました。
三崎の卸売市場では主にメバチマグロの取引が行われており、何十尾ものマグロが陳列され、次々と競りに掛けられていく様子に研修員は圧倒されていました。また、水産加工場では超低温冷凍庫内の-60℃の世界も体感しました。
 カツオ一本釣り漁業で利用する活餌の生残率を向上させることは、モルディブ水産業において大きな課題となっています。日本の漁業現場で実際に行われている活餌の丁寧な取り扱い技術を視察できたことは、研修員にとって大変参考になりました。

 *1 活餌:生かしたまま利用する釣り餌のこと。カツオ一本釣りではカタクチイワシ等を撒き餌として利用するが、船内で長期間生かしておくことには特殊な技術が必要。

長崎県への研修旅行

カツオ一本釣り漁船にて

長崎県総合水産試験場を視察

 研修後半には、2泊3日で長崎県に研修旅行に行きました。初日は長崎県の水産業や、マグロ漁業の管理制度、県産品のブランド化などの講義を通して地方の水産行政の取組みについての理解を深めました。翌日はカツオ一本釣り漁船や魚市場、漁港の視察、水産試験場やマグロ養殖場の視察を行いました。
 カツオ一本釣り漁業は、伝統的にモルディブで行われてきている漁業であり、重要な文化とも言えるものです。また、世界中で主流となっているまき網漁業に比べて乱獲につながりにくく、環境に優しく持続可能な漁業としても注目されています。日本の一本釣り漁業はその漁労技術のみならず活餌の有効利用技術もまた先進的であり、日本の最先端技術の結晶とも言える漁船の視察ができたことは今回の研修の大きな成果のひとつとなりました。

研修を振り返って

研修最終日、修了証を手に記念撮影

 本研修を振り返って、漁業の管理方法や、漁獲物への付加価値向上方法、未だ自国で課題が多く残る一本釣り漁業の漁船や活餌の保存技術について現場で学べたことが大変有意義であったと、研修員は感想を述ています。また、学んだことの多くは自国にも適用可能ではないか、と今後のモルディブの漁業振興と管理の政策を立案していくに当たって大きな参考になったようです。
 今後研修員たちは自国に戻ったのち、モルディブでの水産セクター開発計画策定について政策的立場から立案していくことを目指します。今回の研修で学んだ多くのことが今後のマスタープラン策定に活かされることでしょう。
JICA東京 産業開発・公共政策課 高澤 明子 (2015年7月)