水道行政・経営を途上国のパートナーとともに考える〜課題別研修「水道管理行政及び水道事業経営」〜

2015年11月、バングラデシュ、カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、ネパール、フィリピン、スリランカ、タイ、ベトナムから合計13名の水道分野の行政官/エンジニアが来日し、JICAは課題別研修「水道管理行政及び水道事業経営」を実施した。この研修は、JICAが公益社団法人国際厚生事業団(Japan International Corporation of Welfare Services、以下JICWELS)に委託し実施しているもので、途上国の経営幹部を主な対象とし、日本の水道経営・水道行政の経験とノウハウを伝えている。

日本の常識が世界の常識ではない

グループワークの様子

当研修の大きな特徴の一つは、日本の各水道事業体からも10名の職員が派遣され、将来的な海外業務に向けて海外の参加者とともに学ぶ合同研修の形式が採られていることである。そのため、計5回のグループワークが企画され、途上国の経営幹部と日本の水道事業体の職員が積極的に意見交換を行っている。

山口岳夫さん

当研修のコースリーダーを務めているJICWELS水道技術参与の山口岳夫さんは当研修の意義について「このコースには途上国の幹部級が多く参加しています。彼らの影響力は強く、日本で質の高い研修を提供し、親日家になってもらうことで、その後の日本の海外事業にも良い影響が出てくる可能性もあります。また日本の水道事業体の方々がこの研修に参加することで、日本の常識が世界の常識ではなく、日本のシステムが唯一の理想形でもないということを理解してもらうことが重要ではないかと考えています。例えば、日本の水資源管理はいくつもの省庁が共管していますが、途上国では水資源開発から上下水道管理を一つの省庁が所管しており合理的なケースも見られます。対等な立場で謙虚に学び合うという姿勢がまずは大事と考えています。」と語る。

研修員から専門家へ〜合同研修参加者のその後

園田圭佑さん(写真右)

2009年から開始された当合同研修は、今年度で7回目を迎えるが、研修講師の一人であるさいたま市水道局経営企画係主任の園田圭佑さんも2010年に当合同研修に参加したOBである。園田さんはその後、ラオスにJICA専門家として派遣され、現地で技術指導を行っている。園田さんは合同研修参加当時を振り返り「本研修には水道行政から水道事業体まで、職位としては幹部級と言っても事業全体のマネジメントをする方から各部署を統括する方まで、出身国の違いというだけでない多様なバックグラウンドを持つ研修員が集まっており、それぞれの課題について議論するための引出しが自身にいかに少ないかを痛感させられました。一人前の専門家となるためには、日々の業務から知識・技術を高めることはもちろん、他部署や他水道事業体との交流機会を積極的に持ち、本研修のような学びの場も最大限に利用して能力を高める必要性があると、本研修を通じて強く意識するようになりました。また我々の世代は、現在国際協力の最前線で活躍されている諸先輩方が日本経済の成長期に行ってきた水道普及事業における経験が不足しているため、このような分野に対してより意識して能力を高めていかなければなりません。そして今後は、事業体の垣根を越えた連携もますます重要になると考えています。」とコメントした。

施設説明を行う塚田秀樹さん

海外・日本合わせて合計23名の参加者は、2週間をかけて、日本の水道行政の歴史、公衆衛生の歴史、水安全計画、水道経営、水道の国際規格やアセットマネジメントの講義を受け、関係者で活発な意見交換を行うとともに、東京都水道局の各水道施設を視察し、日本の技術を学んだ。訪問先の一つである東京水道局・梶野浄水所では2014年の合同研修の参加者である東京都水道局・立川給水管理事務所施設課・課長代理の塚田秀樹さんが、地下水の浄水処理システムについて参加者に説明を行った。塚田さんは研修の受け入れについて「東京都水道局には大規模な施設だけではなく、小規模でも質の高い浄水施設があります。こうした施設を海外の方にも見ていただき、自国の水道事業へのヒントを得ていただけたらと思います。視察を受け入れる側としては、海外の様々な国の方に施設の案内や質疑応答などで対応していくことで、私たちが日常的に維持管理している施設がどのような特徴、強みがあるのかということを客観的に考えるいい機会になっています。また、私は前年度の合同研修に参加させていただいたことによって、海外の水道事情を身近に感じることができ、個人的に英語の勉強をするきっかけにもなりました。」と語る。

途上国のパートナーと共に考えていくということ

タイからの参加者(中央)と意見交換する西山祐史さん(右端)

今回福岡市水道局から参加した西山祐史さんは今回の研修を振り返り「日本と途上国とで問題が異なることは理解できたが、どのように途上国の問題にアプローチしていくのかということを今後しっかり考えていかなければと感じました。また専門家として現地で活動するためには途上国の経営トップの方々と意見交換していく必要もあります。そのための知識や経験を今後どのように蓄積していくかが課題であり、国内で人脈を築いていく必要性も感じています。」とコメントした。

閉会式で挨拶するAnsarさん

13名の海外からの参加者は、2週間に及び東京での講義と現場視察に参加した後、それぞれの参加者が帰国後に取り組むべき課題とその対応方針をまとめたインプルーブメントプランを作成・発表した。
11月20日、最終日の修了式で参加者代表として挨拶したスリランカ上下水道委員会・委員長のKuddoos Alahudeen Ansarさんは「日本のODAは今回のような行政・経営面の本邦研修のみならず、さまざまな協力を通じ、途上国の安全な水の供給に大きく貢献していると思う。今回の研修では特に漏水対策について日本の経験から得るものが多かったので帰国後に早速取り組んでいきたい。また日本人のホスピタリティ、勤勉さ、礼節を重んじる点にも強く感銘を受けたし、日本の文化視察や日本人参加者と率直に意見交換するユニークな機会も得ることができ深く感謝している。」と述べた。

閉会式後に撮影した全関係者による集合写真

JICAはさまざまな関係機関からの協力を得ながら、毎年1,000を超える研修コースを実施し、1万人を超える研修員を受け入れています。
その中でも、水資源分野の研修コースは開発途上国から最も人気の高いコースの一つです。我々JICAは今後も日本の水道行政・経営のノウハウや高い水道技術を開発途上国に伝えることで世界の水問題、ひいては開発途上国・地域の平和と安定に貢献していきます。また、今回の合同研修のように、対等なビジネスパートナーとして途上国の問題を同じ目線でとらえ、解決方法を共に模索し、創造していきたいと考えます。
来日した参加者が日本での経験を自国の経済・社会の発展に生かすとともに、日本の良き理解者、日本の友人となり、自国で活躍していくこと、これら一つ一つの積み重ねが日本の財産になると考えています。これらを旨として、引き続き、研修の現場と参加者一人一人を大切にした技術協力を展開していきます。

(2015年11月)