エチオピア 質の高い教育へ 「理数科教育アセスメント能力強化」研修レポート

エチオピアより17名の研修員が来日、日本の理数科教育制度や教育評価について研修を行いました。

まずは学校教材と試験問題の作成から

(左から)デサレン・テショムさん、豊間根則道さん、ディラモ・オトールさん

皆さんは、エチオピアと聞いてどんなことを思い浮かべますか? 干ばつや飢餓など深刻な食糧問題に苦しむ国を連想する人も少なくないでしょう。しかし、今やエチオピアは海外からの投資が急増し、それに伴い大きく経済成長を遂げている国のひとつなのです。人口が増え、産業構造が従来の農業から工業へと大きく変化する中、これらの産業を担っていく優秀な人材をいかに多く育てるかが、重要な課題となっています。
  その取り組みの一環として、エチオピア政府は、JICAと共同で2014年より「理数科教育アセスメント能力強化プロジェクト」を実施しております。プロジェクトでは、理数科教育の質向上を目的として、生徒の学力を的確に把握するための試験問題開発やカリキュラムに沿った教材の開発に取り組んでいます。また、これらと並行して、JICAはエチオピア人のプロジェクト関係者を日本に受け入れ、学校や出版社などを視察させ、日本の理数科教育制度や教育評価についての技術研修を行っています。
  今回は、技術研修に参加した2名の研修員と日本人のコースリーダーにエチオピアの理数科教育の現状と本研修で学んだことについてお聞きしました。

暗記型の学習方法は改善すべき

牛久第一中学校の理科の授業見学

本研修コースリーダーの豊間根則道(とよまねのりみち)さんは、エチオピアの教育現状について初等科教育の就学率が改善されてきている一方で、教育の質がいまだ低く、卒業試験などでの成績の伸び悩みが課題であると考えています。その原因として、年間のカリキュラムと実際の学習内容、試験問題の内容などに一貫性がないことを挙げます。
  また、暗記を主とした教え方にも問題があるとし、特に、理数科教育においては、「1年生から繰り返し基本を学び、考える力をつける土台を築くことが何より大切だ」と考え、エチオピアの理数科教育の質の改善に取り組まれています。

日本の教育環境をぜひ参考にしたい

東京学芸大学での講義(教員養成課程について)

研修員で教育省の局長であるディラモ・オトールさん、理数科開発センターの生物学研究員であるデサレン・テショムさんに本研修で学んだことや日本の印象についてお伺いしました。                                            
「日本とエチオピアの大きな違いは、まず教職員になるための制度が異なること。日本では、大学の4年間で教員になるための勉強をし、最終的に教員資格試験を受けますが、エチオピアでは4年制大学を卒業したのち、さらに教員になるための学校へ入り直さなければならないため、時間とお金がかかります。また、日本には教育委員会をはじめ、教育の現場を支えるさまざまな関係者が存在します。例えば学校(教職員)、家庭、地域社会、企業団体など、互いがそれぞれの分野で協力し合いながら教育に関わっています。エチオピアでは、学校や教育に関することすべてが国の責任といった考えが強く、ひとつひとつの問題に対して速やかに対処することが難しいのが現状です。今後のエチオピアの教育のために、日本の手法を積極的に学んで、より良いシステムを構築していきたいと考えます。」とエチオピアの将来を見据えたお2人の熱い思いを伝えてくださいました。
  25年前のエチオピアでは、大学に通う人が年間6,000人に満たなかったようです。それが近年の目覚ましい経済成長と人口増加で、年間100,000人を超えるまでになりました。就学率が増える一方、これからは教育の質を向上させ、国の産業を担う若い世代を育てていくことを目指しています。それには近道は存在せず、基本の積み重ねが何よりも大切なのでしょう。

JICA東京 人間開発課 宮本寿美、境勝一郎 (2016年5月)