HIV感染症拡大抑制に取り組む日本のリーダーシップ

JICA東京では毎年、国立感染症研究所の協力の下、HIV感染症拡大抑制において重大なポイントとなる国々の感染症研究専門家を対象に、「サーベイランスを含むHIV対策のための検査技術・実験室マネジメント」研修を実施しています。

HIV感染症拡大抑制に取り組む日本のリーダーシップ

実習の様子

今年は、ボツワナ、ケニア、リベリア、スワジランド、ミャンマー、スリランカから10名の専門家が来日し、1ヵ月間にわたる研修プログラムに参加しました。本研修は、「それぞれの国・地域に合わせたHIVウイルスの感染動向を調査監視(サーベイランス)できる人材を育成すること」、そのために各研修員が「検査や診療に必要な技術と知識、医療機関の管理マネジメント方法を習得すること」を大きな目標としています。また、本研修のコースリーダーである村上氏(国立感染症研究所 エイズ研究センター)は、「本研修で学んだことを自国で広めてほしい。そして多国間のコミュニケーション・情報交換も深め、HIV感染拡大の抑制に役立ててほしい」と話します。

本研修は90年代から20年以上続いており、長年の研究成果と実績に裏付けられた最先端の技術や方法論が学べるプログラムは世界でも稀です。また、「本研修が、アジアの中の日本で実施されているという、地域性も重要です」と、同研究所エイズ研究センター・センター長の俣野氏は語ります。アジアにおけるHIV感染者数・感染率は、アフリカに比べれれば低いものの、人口が多く過密で人の移動も活発であることから、今後感染の拡大が懸念されています。「HIV対策において、アジアの中でのコントロールは非常に重要です。その中で、技術的な面も含め、リーダーシップを取れる国は、現在日本をおいてほかにありません」(俣野氏)

スワジランドやボツワナでは15歳から49歳における有病率が25%以上

HIV高感染率地域 unaids.org

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の発表によると、世界にはHIVの感染者がおよそ3,670万人存在するといわれています(2015年時点)。過去15年間でHIV対策は飛躍的な進歩を遂げ、2015年の新規HIV感染者数は210万人と、2000年の310万人からは30%以上も減少しています。しかし、これはあくまでも、検査を受けHIV陽性が判明した感染者の数であり、実際の感染者数はまったく未知なところです。

最も対応を急がなければならないのはアフリカ。全世界のHIV感染者3,670万人の70%近く、およそ2,700万人がアフリカ大陸に存在します。感染率が高いスワジランドやボツワナでは、15歳から49歳における有病率が25%以上。多くの人の命が脅かされ、重大な保健問題であるのはもちろんのこと、HIV/エイズは国の発展を阻害し、貧困の要因となっています。

5Sは医療の現場でも有効

ボツワナの研修員、タイニーさん

本研修が有意義なのは、「HIVウイルス診断のためのDNA解析の手法」、「血清検査においてウイルス量を検知する技術」、「HIVウイルスの薬物耐性を検査する技術」などといった、各医療機関の現場において非常に有効な技術を実習できたということです。ボツワナのタイニーさんは、「研修で得た知識・技術・経験を、母国の研究所が行っているカリキュラムにも取り入れ、人材の育成に取り組みたい」と、帰国後のアクションプランを語っていました。しかし一方で、治療の現場においては、「これらは日本でこそ可能であり、各々の国で実践するには、人材、設備環境、資材、資金など、不足しているものが多すぎる」という意見も多く聞かれました。

その中でも、すぐに実践が可能なこととして、研修員の多くが挙げていたのは、日本の保健医療施設の運営管理手法として用いられている「5S-カイゼン-包括的品質アプローチ」です。5Sとは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」を表しており、職場環境、業務内容の向上のためのツールです。単なる病院の美化運動ではありません。ムダを省き、既存の資源を最大に活用し、保健医療施設の健全な運営管理を継続的に徹底することによって、各機関の従事者の思考やモチベーションが発達し、保健医療サービスの質は段階的に向上します。また院内外の感染の抑制やバイオセキュリティーの面においても非常に有効です。

また、ケニアのムエニさんは、「日本におけるHIVウイルス感染状況の調査技法・管理能力は素晴らしい。このように信頼性のあるデータ収集が自国でもできれば、国や行政機関がHIV対策の予算や方針を打ち立てるの非常に役に立つ」と語っていました。

HIV/エイズ対策—世界中が協力し合って取り組むべき重大な課題

ケニアの研修員、ムエニさん

UNAIDSは、2030年までにHIV/エイズの流行を終息させる目標の達成のため、2020年までに「90-90-90ターゲット」を実現させる計画を掲げています。世界中のHIV陽性者の90%が自らの感染を知り、そのうちの90%がHIV治療を受け、さらにそのうちの90%が治療によって体内のウイルス量を低く抑えられるようになる─そのためには、先進国と同等の医療体制が世界中に普及することが不可欠になります。

HIV/エイズ対策は、世界中が協力し合って取り組むべき重大な課題です。だからこそ、あらゆる人々が声を上げ、今再び、この問題に対する社会全体の関心を高めるべきです。本研修がその一役を担うこと、研修員の今後の活躍を期待します。

JICA東京人間開発課 高橋依子 (2016年7月)