「子どものセーフガーディング」がモンゴルで根付づいていくために 2

     〜アルハンガイ県の子ども保護専門家チーム〜

2017年6月19日

アルハンガイ県県庁所在地の第4地区(バグ)の子ども保護専門家チームとセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン職員。チームメンバーが警官以外すべて女性ということも珍しくない。
(C)Save the Children

草の根技術協力案件「モンゴルにおける要保護児童支援制度の改善及び強化支援事業」が始まってもうすぐ2年になります。そこで、2回に分けて、実施団体である公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンから進捗状況をご報告いたします。

各チームの主体性を尊重する

対応中の子ども保護のケースのうち、どのような要因が関係しているかを話し合っている様子(ハイルハン・ソム)
(C)Save the Children

 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、首都ウランバートル市、アルハンガイ県(首都から西に500キロ、県庁所在地まで車で約7時間)にあるバッツィンゲル・ソムとハイルハン・ソムという2つのソム(行政単位、日本の郡に相当)と1つのホローもしくはバグ(日本の村に相当)において、子どもの保護法で設置が義務付けられている「子ども保護専門家チーム(以下、専門家チーム)」の能力向上をサポートしています。
 アルハンガイ県の事業地である2つのソムは、県庁から車でそれぞれ片道約2時間と約4時間の場所に位置しています。また、各ソムには複数のバグが存在し、ソムの中心からバグの中心まで片道約2時間半かかる地域もあります。近年、モンゴルでは都市化が急速に進んでおり、ウランバートル市の人口が国の人口の約半数を占める一方、地方では10km四方に2,3世帯しか住んでいないなど、極端に人口密度が低いところもあります。このように、国土が広大なモンゴルでは、遠隔地の居住を理由に子どもや家族が必要な専門的な支援から孤立することがないよう、社会サービスと地理的条件を考慮することが重要です。

ハイルハン・ソムが作成した独自の啓発ポスター。子どもの権利について説明があり、相談先の電話番号も記されている。
(C)Save the Children

 今年の2月に2つのソムと県庁を拠点とする3つの専門家チームに対して、子どもたちを虐待やネグレクトなどから保護する業務の進め方について3日間の研修を実施しました。研修に参加したことにより、専門家チームメンバーの業務へのモチベーションがさらに高まったようです。ここでは、いくつかその事例をご紹介します。
 バッツィンゲル・ソムではソムの首長(以下、ガバナー)が自ら研修に参加したこともあり、研修後に専門家チームのメンバーを再構成し、より実践的な活動を実現するための見直しが図られました。また、独自の取り組みとして、課題を抱える家族に集まってもらい、直接話を聞いたり、どのように子育てに取り組んでいくかについて話し合うなどの活動も始まりました。
 また、ハイルハン・ソムのガバナーも保護を必要とする子どもへの支援にとても熱心です。専門家チームは、実態に即した予算案を提出し、その予算額の半分が2017年度の予算としてソムの議会により承認されました。しかしながら、県知事の最終承認が選挙の影響等により遅れており、予算執行ができません。この予算が承認されれば、予算が不足しがちな他地域の専門家チームにとって、大きな希望となることでしょう。
 また、独自に子どもの保護に関する啓発ポスターを作成し、行政の建物の入り口等に掲示したソムもあります。そこには、緊急連絡先として専門家チームメンバーに直接つながる携帯電話の番号が掲載されています。全国子どもホットラインとしてモンゴルでは電話番号の108番が割り当てられていますが、ポスターに掲載されている自分に身近な専門家に直接相談できることで、相談をしやすくなることが期待されます。地域全体が早い段階から、子どもや家族を支える取り組みが進むことが期待されます。
 この通り、ソムのレベルでは専門家チームへの働きかけも重要ですが、実はガバナーもキーパーソンです。ソムのリーダーであるガバナーの理解と協力によって、子どもや家庭を支えるさまざまな活動への機運が高まり、制度の改善へ向けた機運がさらに高まっていきます。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンもこれらの良い実践から学び、各地域の地理的条件や活動状況に応じたフォローアップとサポートをしていきたいと考えています。

山積する課題

バグ(村)の集会所。広大な平原にある。周囲には家一軒存在しない。
(C)Save the Children

 それでは、地方に暮らす子どもたちの虐待やネグレクトといった問題には、どのような要因が存在するでしょうか。今回の聞き取り調査から、要因は、実は都市部と概ね同じであることがわかりました。具体的には、1. 経済的な問題、2.配偶者間を中心とする近親者間の暴力、3.アルコール依存、4.子どもや保護者の障害、が主な要因です。一方細かく見ていくと、以下のとおり、地方に特徴的な課題も見えてきました。

1.ゾド(寒雪害)の家計への影響の拡大
モンゴルでは、2016年及び2017年と2年連続でゾド(寒雪害:極寒や豪雪に伴い家畜が十分に育たない、あるいは衰弱、死亡する被害が出る)が発生し、この災害の家計への影響は深刻です。ゾドの発生による家畜の死亡は、家畜を売って生計を立てている遊牧民にとって大きな経済的損失となっています。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは昨年4月から現在に至るまでゾドの影響を受けた遊牧民世帯に対してさまざまな支援を行っていますが、残念ながらその支援はいまだ限定的です。ハイルハン・ソムでセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが行った聞き取りによると、2015年には1,150世帯のうち80世帯が食料券(フード・スタンプ)を含む福祉的な手当を受給していましたが、2016年末の時点で1,123世帯のうち117世帯が受給しており、家計への影響は拡大していることが分かります。

2.遠隔地に住む遊牧民世帯の孤立
遊牧民は年の大半を2-3の世帯単位で生活していることが多いため、必然的に社会、人との交流も限られています。これは、家族内で課題を抱えるようになっても、早期にそれを発見することは困難であることを意味します。また、行政による、ソムの中心から遠く離れて住む遊牧民世帯への家庭訪問は一日かけての仕事となり、多くの時間や経費がかかるため、都市部と同じような支援を実施することは困難です。また、啓発イベントに参加してもらうのも至難の業です。このように、遠隔地への支援は乗り越えるべき課題が多く、子どもへの虐待やネグレクトの状況を改善するための特別な工夫が必要です。

3.親元を離れた子どもたちへの支援
遊牧民の子どもたちは小学校2年生ごろから、親元を離れ学校の寮から通学します。長期にわたる寮生活にも、いくつかの課題がみられました。例えば、経済的格差の問題、いじめ、非行の問題です。毎週末自宅へ戻ることができる子どももいますが、経済的理由から長期休暇にならないと親元へ帰れない子どもたちもいます。また寮へ入らず、近隣の親戚の家に下宿をしたり、年上の兄弟と子どもだけで生活をすることもあります。このような状況に対し、早期から子どもたちへ適切なサポートすることが求められます。

これからもこういった地方特有の事情にも配慮して、より現場の状況に見合った内容で、適切な子ども保護サービスが専門家チームによって提供されるよう、本事業を実施していければと考えています。



公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 
海外事業部 
紺野誠二