【報告】長期研修 卒業奮闘記

2018年11月2日

東京工業大学 科学技術創成研究院 先導原子力研究所 (木倉 宏成 准教授)
San Shwin (ミャンマー)

JICAの長期研修員は、2012年頃から徐々に増え始め、2014年から急激に増大しました。 この背景には、日本の開発途上国支援が大型インフラ案件のいわゆる箱モノから、人材育成等のソフト面への支援へとシフトしていることがあげられます。

この人材育成プログラムとして、東南アジア域内の社会の発展のため、主に教員の研究・教育能力を高める事により、課名大学の研究・教育能力の向上を支援するSEED-Netプログラムの研修生として、2015年9月に東京工業大学の博士課程で学ぶために来日し、当初予定では2018年9月に卒業を迎える予定であったものの、卒業要件である英語試験に合格出来ず、一旦は満期退学(必要な要件を満たしたら、卒業試験を受けられる状態。) となり、3カ月遅れて12月に卒業することになったミャンマー教育省、ヤンゴン大学物理学部のSan Shwinさんに研修員生活を振り返って貰いました。

東京工業大学では先導原子力研究所という最先端の研究室へ所属されていましたが、どのような研究をされていたのが簡単に教えて下さい。

私の研究は、複雑な配管システムにおける流体流動現象の研究です。 工場や原子力発電所等の冷却水配管システムは非常に複雑で、直管と曲管で構成されています。 流体がコンパクトな曲菅を通るとき、逆向きの流れが曲部下流領域で生じます。 逆向きの流れはパイプ壁に負荷を与えて薄くするので、パイプラインの破損事故につながる可能性があります。 パイプラインシステムの安全目的のために、コンパクトな配管システムにおける流体流動現象の研究は重要です。 私の研究の主な目的は、曲管の下流の流動現象を調べることです。

難しい研究をされていたようですね。 ミャンマーでは未だ原子力発電の施設は無かったと思いますが、この研究はどのように役立つのでしょう。

原子力に限らず、配管を利用して液体や気体等を流す時にどのような影響があるかを知る事で、配管のメンテナンス時期や交換のタイミングを導き出す事が可能になります。

なるほど、応用可能な分野は広範囲に及ぶという事ですね。

【画像】残念ながらミャンマーには未だ原子力発電施設はありません。 そして私はミャンマーの将来的な原子力発電の為に今ここに来ているのではありません。 ミャンマーは長らく軍事政権下にありました、その時代に多くの優秀な研究者は我が国から脱出しました。 今我が国の大学には指導的役割を担う中堅以上の指導者が不足しています。 そしてそのポジションを担う目的で我々は学んでいます。

研究中の苦労や発見について教えて下さい。

ミャンマーの研究者と日本の研究者とにはとても大きな差があります。 それは一般的には数学的基礎学問や各種のシステムの扱い方です。 私の場合には、それらに加えて英語が課題となりました。

私は日本へ来て早々に指導教官から、基礎学力が足りないと言われました。 ミャンマーでは私は大学の教員ですが、私の知識は日本では大学生レベルだと評価されました。 そんな私に3年間という限られた期間で博士課程を終わらせるために、教授達とJICAの担当者が私の勉強の進捗を監督することになりました。 2カ月毎に進捗状況を報告し、研究の進捗を確認されるのは私にとってストレスになりましたが、それだけ期待されているという事だと考えて研究に取り組みました。 その甲斐あって学術誌への論文も順調に掲載することが出来ました。

加えて、私は来日してすぐに指導教官から所属する研究室では、英語検定機関での合格点基準が定められていて、それ以上の成績を取ることが卒業要件の一つであると聞かされました。

来日した頃は、合格点の半分程度の成績で、研究の合間に勉強を続けましたが、当初の期限内に卒業要件を満たすことは出来ませんでした。 プログラムの終了と共に一旦帰国し、自国で試験を受けて合格したので、再来日して卒業試験を受け、ようやく合格して卒業することが出来ました。

ミャンマーでは実験に必要な器具が不足している為、自分の理論を検証する方法がありません。 しかしながら私は先生の指導の下、代替品で研究機材を作る方法や技術を学びました。 高価な器具を使わなくても、発想の転換や検証方法を変更する等、様々な方法で実験が出来る事を学びました。
教授や研究室の仲間達そしてJICAのスタッフに感謝しています。

研修期間中、一番の思い出は何ですか。

【画像】2017年3月にJICAの「広島平和プログラム」へ参加したことです。 このプログラムは、第二次世界大戦で原爆により被害を受けた広島を二泊三日で訪れ、原爆の脅威とその悲惨さを知り、広島復興の過程を学ぶことが目的です。

敗戦国の日本が戦後に飛躍的な発展を遂げた理由を部分的にですが知ることが出来て、とても勉強になりました。 JICAのプログラムで来日している他の大学の仲間や、ミャンマーから来ている仲間とも一緒に過ごせたことが素晴らしい思い出です。

あなたにとって日本での長期研修は、どのように役立ちそうですか。

日本は工業先進国です。 ですが我々は工業技術を学びに来たのではありません。 先進的な大学の研究室で何が学べるのかを知り、どのように研究を行うのか、その着眼点や研究手法、論文の書き方や発表テクニック等、我々が教えて貰えなかった学び方を学びました。 これらの知識はミャンマーへ戻り、私が学生達に指導する事で近代的な学びのシステム作りに役立つと思います。

我々はあなたが自国で活躍される事を望んでいます。 ご協力ありがとうございました。

<報告者> 長期研修課 2018年11月