戦争の前後にあるものを知る —JICA出前講座×修学旅行—

戦争って過去のもの? 遠いもの? 東京都立大泉高等学校では、長崎修学旅行での平和学習の事前学習として、5名の講師による出前講座を実施しました。

2022年1月17日

なぜ、出前講座を?  

東京都立大泉高等学校の2年生は、1月に長崎修学旅行を予定しています。その前に、JICA出前講座を通じて、協力隊経験者・JICA職員が各地域でみてきた「平和」にまつわる生の話を聞きたい、と出前講座の申し込みがありました。
なぜ、出前講座を? そこからどんな学びが?
同校の玉腰朱里先生に、お話を伺いました。

——長崎での修学旅行では、どんなことを学ぶのでしょう? なぜ事前学習にJICA出前講座をとりいれたのですか?

玉腰先生:
 修学旅行の中心になるのは、もちろん平和学習。原爆資料館の見学や、語り部さんによる被爆体験講話などを通して、戦争の悲惨さや平和の尊さを学習します。
 この平和学習をより「自分事」として受け止めるためには、どんなことができるだろう……そう考えあぐねていた時に知ったのが、JICA出前講座です。途上国で、現地の人々と現場の課題解決に向き合ってきた経験者の話に、戦争の悲惨さを過去のものにしない、未来の「平和」へのヒントがあるのではないか、と思いました。そこで9月に開催されたオンライン座談会(出前講座の講師と学校教員での会)に参加して、講師の方々に事前学習の構想をお話しし、協力隊経験者がどのように協力いただけるのか様々な助言をいただきました。
 その結果、一見「長崎」や「第二次世界大戦」からは離れているような「途上国での国際協力経験」に、今私たちが「戦争に前後にあるもの」を考えるためのヒントがある、と分かり、事前学習の一環として11月にJICA出前講座を受けることになりました。

——出前講座では、講師(協力隊経験者等)にどのような講義をリクエストしたのでしょう?
玉腰先生:
 テーマは、「戦争の前後にあるもの」。
 「国際協力経験」と一口にいっても、講師の方々の活動内容や地域により、お話し頂けることがさまざまある、ということがオンライン座談会で分かったので、生徒が関心を抱いた5つの切り口を「戦争の前後にあるもの」としてお話しいただきました。

 5つの切り口というのは「貧困」、「難民」、「宗教」、「和解・受容」、「社会参加」。
それぞれに関する国際協力現場経験をお話しいただける講師5名をお招きし、お話をうかがい、生徒たちが問いかけて……という双方向型の講座を企画しました。
 このようにして、一見、戦争と全く関係がない日々を送っているようにも感じられる現代日本の高校生が、戦争と自分たちの繋がりに気付くための機会を目指しました。

当日は、どのような学びがあったのでしょう? 

——おっしゃる通り、「国際協力経験」と一口に言っても、その内容は様々です。5つの切り口からどんな話が聞けましたか?

玉腰先生:
 当日は、クラスを5分割して、①貧困、②難民、③宗教、④和解・受容、⑤社会参加の5つのテーマに分かれて、お話を伺いました。

「①貧困」のテーマでは、ネパールでシニア海外ボランティアをされていた方の民族衣装やネパールクイズで盛り上がったあと、宗教や教育の問題が複雑に絡まり合ったネパールの現状について経験を教えていただきました。

「②難民」のテーマでは、平和構築に関わるJICA職員として活躍される方より、日本における難民支援の実態を教えていただきました。後半の質疑応答では、「大切なことは、“同じ人間”として接すること」という印象的な言葉をいただきました。

様々な地域で出会った『宗教』について語る協力隊経験者


車座になって学びをシェアする大泉高校生

日本の高校生がなかなか学ぶ機会がない「③宗教」のテーマでは、マレーシアやスーダンなどたくさんの国での経験を挙げながら、元青年海外協力隊員の方が話をしてくださいました。異宗教間で起こりうる戦争・紛争だけでなく、他者への寛容性を得た人々の事例も学ぶことができました。

「④和解・受容」のテーマでは、「異文化理解」や「多文化共生」をキーワードにお話しいただきました。自他の歴史や文化を学び、理解するために、「あきらめないこと!いろんな方法がある!」という言葉に励まされた生徒も多かったようです。

「⑤社会参加」では、自分らしさを大切にした社会参加の提案をいただきました。「社会参加」というと高校生には敷居が高く感じられますが、ボランティアのように、自らの意志で公共性の高い活動に参加することが、社会へ参加する第一歩だと勇気づけてもらえたようです。

 翌週には広いアリーナを使って、ジグソー学習の形式で、5テーマそれぞれの講演内容をシェアしました。
 どの講演も、「戦争」を学ぶ切り口を広げ、「平和貢献」のための視点に気付かせてもらえる内容だったため、5つの講演全体を知ることで、さらに自分の考えを深めることができました。


——5つそれぞれの学びを全体でわかちあったのですね! 実際に聞いた話は一つながらも、まさに学ぶ切り口が拡がり、視点が増える機会ですね。

5つの切り口から映し出された「あるべき」世界の姿について(公民の先生による事後学習)


玉腰先生:
 また、この日は公民科の先生から
「皆さん『だから』できること、皆さん『にしか』できないこと ~先週のJICAの先生のお話を受けて~」
という講話をいただきました。
 講話のなかでは、「戦争の前後にある」5テーマから映し出される、みんなが理想とする世界像の確認をするとともに、これらの理想を実現するために、若者に何ができるのか?と問いかけられました。
 現在の高校2年生は、来春から18歳成人の1期生となります。若者の考えを社会に示す「社会参加」の価値に気付くきっかけにもなったと思います。

 最後に生徒たちは、「戦争と、その前後にあるものについて自分が考えたこと」について、自分の考えをまとめました。

出前講座を受けた生徒の声

——生徒の方々は、出前講座を受けてどのような想いをいだかれたのでしょう?

玉腰先生:
 本当に様々な学びがあったようですが、一部を紹介します。

出前講座を通じて得た学び、学友から聞いた話から得た気づきでワークシートはびっしり!

①貧困:ストリートチルドレンは戦争が主な原因だと思っていたけれど、地震などでも多く発生したと聞いて、日本も他人事じゃないなと思った。今まで、ペットボトルキャップの回収とか古着回収とか、私一人が協力してもたいして変わらないと思っていたけれど、そういうささいなことでも参加しようと思った。

②難民:思っていたよりも、日本での受け入れ審査も難民の生活も厳しいのだとわかった。現時点では、日本の難民受け入れは十分だと言えないが、少しずつでも個々の考えや捉え方が変われば、もっと国も変わるのかもしれない。

③宗教:ネットで事前に調べたことは、間違っているわけではないけれど、やっぱりデータでしかなくて、足を運んでみないとわからないことがたくさんあるのだとわかった。日本語学習によって、他者の文化や差異への寛容さを得たというスーダンの方々の話を伺って、宗教を信仰している人々への考え方が変わったし、見直すべきだと感じた。

④和解・受容:単に「異文化理解」といっても難しい。しかし、他国の文化に関する背景を知って、まずは“聴く”姿勢が大切だと感じた。また、最後におっしゃった「いろんな方法がある。あきらめないこと。」というお話を聞いて、自分の目標ややりたいことも、諦めずにいろんな視点からアプローチできないか考えようと思った。

⑤社会参加:ボランティア、やってみようかなと思いました。社会に出るには、自分はまだ幼いんじゃないかと思っていましたが、決してそんなことはないし、若いからこそ吸収できるものがたくさんあるのではないかなと思いました。


——玉腰先生、JICAの出前講座に「平和学習のヒントがある!」という可能性をみつけてくださり、生徒が講座から学び気づいたことを広めたり、深めたりできる学習活動を準備・実践くださり、ありがとうございました! 今月の修学旅行で、さらに生徒の皆さまの学びが深まっていくことを願っております。

インタビュー協力:東京都立大泉高校・玉腰朱里教諭
報告者:市民参加協力第一課・八星真里子