オンラインならではの利点を活かして

地下鉄の総合指令所や駅務管理所の視察、車両基地での車両検査の体験等対面必須で準備をしていた今年度の課題別研修「都市鉄道事業者レベルアップ研修」。オンラインという制約のある環境下で、参加者が有益だったと感じられる内容を提供するためにどういう工夫ができるのか・・・・試行錯誤の結果、できあがったものは・・・?

2022年3月3日

研修員が作成した動画を使った学び

 今回の研修には、フィリピン、ベトナム、バングラデシュの3ヶ国から10名の研修員が参加しました。オンラインであっても、研修員が主体的に楽しく参加でき、且つ異なる国から参加した研修員間と日本側の講師陣が互いに学び合える機会となるよう、本研修の主要協力機関である横浜市交通局と共に、研修開始の8ヶ月前から協議を重ねて研修内容を決めていきました。
 対面からオンラインに研修手法を変えただけでは参加意欲を高められないという危機感から、オンラインならではの利点を活かせるような仕掛けを模索した結果、研修員が作成した動画を使った講義を取り入れることにしました。

①フィリピンの研修員が提出した動画の1シーン(車両基地の様子)

②横浜市交通局で準備した動画の1シーン(車両基地の様子)

 研修員には事前に「駅での感染症対策」「ホームや駅事務所の様子」「車両基地の状況」「作業場の整理整頓法や看板等の注意書き」等各国の鉄道車両の維持管理や駅の様子が把握できるような複数のテーマを提示し、スマートフォン等で3分程度の短い動画数本を撮影して研修開始前までに提出するよう依頼しました。その結果、字幕や音楽、アニメーションを取り入れたもの等、日本側関係者の想定を越えた視聴者が飽きずに視聴できるように工夫を凝らした動画が提出され、各国の状況がよく理解できる興味深い視覚教材となりました。
 一方、横浜市交通局も、「列車検査」「脱線復旧訓練」「点呼及び作業前ミーティング」等、複数の日本の鉄道事業者が行っている日常業務が分かる動画を事前に準備してくださり、それらを見せながら講義を行いました。

 動画を見て、各国の状況をより理解した後に意見交換や質疑応答の時間を持つことで、双方向の活発な講義が実現しました。

ソフトウェアを使った演習

 研修員が能動的に研修へ参加するためには、演習を取り入れることも有効だと考えた我々は、
公益財団法人鉄道総合技術研究所が開発した「指差喚呼*1のエラー防止効果体感ソフトSIM Error」
を使った実習を加えました。
 研修員には、事前にソフトウェアをインストールの上、当日は、各自のパソコンで操作をしてもらい、演習を実施しました。講師の指示についていけず操作に時間がかかる研修員も数名おり、数多くの課題にはチャレンジできなかったものの、「指差なし」と「指差あり」それぞれのケースで課題に取り組んだ際のエラー結果を各自で確認することができました。研修員全員が指差をしたときに、エラーが減ることを体感でき、「指差喚呼の有効性」を体感することができました。
 日本では、運転士や駅係員だけでなく建設現場などでも多用されている指差喚呼ですが、開発途上国ではほとんど導入されていません。
 この演習を通じて指差喚呼の効果を実感した研修員からは、研修終了後に、このソフトウェアを使った演習を自分たちの職場の教育研修に組み込みたいとの表明が相次ぎ、その反響の大きさに驚くと共に、オンライン研修で演習を取り入れる重要性を改めて実感しました。

*1:確認や操作を行う対象を指差し対象の状態や実行しようとする操作内容を発生する確認方法(公益財団法人鉄道総合技術研究所のHPより)

オンライン研修の行きつく先は   

 研修内容以外にも、研修員が参加しやすい環境整備にも工夫しました。研修員は通常業務を行いつつ研修に参加することから、2週間に1回の研修実施とし、業務スケジュールと調整しやすいように配慮しました。また、一つの講義にかける時間は最長でも30分とし、休憩時間を小まめに入れて集中力を保てるようにしました。その工夫が功を奏したのか、出席率は100%となり、研修員からも参加しやすかったと好評でした。

 現在のコロナウィルスの感染状況では、オンラインでの研修はしばらく継続されることが見込まれます。今回実施した研修を通じて感じた確かな手ごたえを、次年度以降の研修にも存分に活かし、更に満足度の高い、魅力ある研修に磨きをかけていきたいと思います。