貴重な水道水を確実に、安定して供給するために!漏水の無い配管技術オンライン研修!

課題別研修「上水道施設技術総合:水道基本計画設計(A)」では、水漏れの無い水道管技術について、オンラインでの施工演習にチャレンジしました!

2022年2月8日

オンラインでも伝えたい! 

 私たちの生活に欠かすことのできない「水」。
2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)ゴール6は、2030年までにすべての人の水と衛生へのアクセスを確保することを目的としています。一方、多くの開発途上国では、依然として、水源の不足や汚染問題のほか、上水道施設等インフラの脆弱さ、人材不足等による維持管理の困難さ、適切な料金を徴収できないことにより補助金無しでは独立した経営が困難、といった様々な課題があります。
 その中で大きな課題の1つに挙げられるのは、無収水対策であり、水源から蛇口まで、安定して水を届けられていない、ということです。無収水とは、水道事業体が生産した水のうち、漏水や盗水等の影響で料金を徴収できない水量のことであり、水を無駄なく利用者の元まで運ぶことは、利用者の生活を支えることは勿論、水道事業体にとっても、適切な水道料金徴収のために欠かすことのできない要素です。
 昨年度から本研修のプログラムリーダーを務めている公益社団法人 日本水道協会の鈴木千明さんは、こう語ります。「無収水対策の中で、今回の施工演習研修では漏水防止に焦点を当てました。水道管からの漏水は、川の水や地下水を飲める水にするために投じた人件費、電力費や薬品費などを水と共に地中に捨てることと同じ状況です。また、漏水は、道路陥没などの事故や漏水の穴やヒビから入り込む汚染物質が原因で水質汚染を引き起こすことがあります。もし、漏水を止めることができれば、その分の水を水道が整備されていない地域へ供給することもできます。しかし、現在世界でトップクラスの漏水の少なさを誇る日本の水道も、長い間、地道に漏水の削減に努めてきた歴史があります。この経験の中で開発や改良を重ねてきた水道管や部材、培ってきた施工技術を研修員に見てもらい、自国と比較することで、漏水の状況を改善するための大きなヒントとなると共に日本製品の優位性を理解することができたと思います。」

課題別研修「上水道施設技術総合:水道基本計画設計(A)」プログラムリーダーの鈴木千明さん

 鈴木さんは、横浜市水道局で、浄水場から水道管路の維持管理まで35年以上の勤務経験を持つエンジニアでもあり、JICA専門家としても、タイ、パキスタン、ルワンダ、サウジアラビアなど、多くの技術プロジェクトで無収水削減の技術移転に取り組んでこられました。
「無収水対策」といっても、無収水率の低減に向けた技術的方策のほか、日本における規制や構造、自治体における実務、健全な水道事業経営の基本等、切り口は様々にあります。研修では、講義を通じて「無収水対策」への理解を多角的に深めるとともに、日本の水道管路の技術を伝える、オンラインでの施工演習を実施しました。

施工演習プログラムの概要

課題別研修「上水道施設技術総合:水道基本計画設計(A)」全体のカリキュラム

工程①融着を強固にするため、ポリエチレン水道管の融着面を削り、新しい面を露出する。さらにその後、融着面に不純物が付かないよう、丁寧に清掃(拭き取り等)を行う。

水道管同士のつなぎ目となる部材を取付け、電気融着を行っている様子。

水の通り道をつくるため、つなぎ目部分の内部をくりぬく。管を取り付けた先が、家庭に水を引き込むための管と繋がる。
“サドル”については、最下部を参照。

施工演習は、8日間の研修カリキュラムの6日目に、日本の水道管路メーカーである、株式会社クボタケミックス、水道管路の部材メーカーである前澤給装工業株式会社のご協力を得て実施しました。
 この講義では、耐震性に強いポリエチレン製水道管を用い、電気の熱を使って管同士を接合する技術(以下、「電気融着」。)の施工演習を行いました。
 配水時点で起こる水漏れの主な要因の1つに、水道管同士のつなぎ目からの漏水があります。一方、電気の熱で溶かして結合することにより一体化したポリエチレン管同士は、管のつなぎ目からの漏水が生じない仕組みです。この「電気融着」は、簡単な工程で、安定した施工品質が得られることが特徴です。ライブ配信された施工の様子を、研修員たちは真剣に見入っていました。

オンラインでも効果的に伝える研修を目指して   

研修中はクイズを取り入れて実施。研修を楽しむ研修員たち。チャット欄も活気が溢れた

 オンライン施工演習では、研修員の皆さんの集中力を持続させ、効果的に伝わるよう工夫を凝らしました。
「クイズに関する回答や、Q&Aの質問の多さに私たち発表者も手ごたえを感じました。今は研修員さんが日本に来られない分、オンラインで、どうやったら日本の水道を伝えられるか悩みました。その一つの仕掛けが、施工クイズでした。2か月前に予行演習を行いましたが、その時はあまりうまくいかず(苦笑)。でも本番で手ごたえのある研修になったのは、前澤給装工業さんをはじめ、たくさんの人が身を乗り出してアイデアを出して協力してくれたおかげです。」
 こう語るのは、オンラインでの施工演習プログラムに企画段階からご協力くださった、株式会社クボタケミックスの加藤 新さんです。青年海外協力隊時代に教師をされていたご経験もあり、研修員の皆さんが、集中して楽しく参加できる構成を検討してくださりました。  

施工演習を監督してくださった、前澤給装工業株式会社東京支店の関口 革太郎さんは、水道事業の研修において、現地の状況を正しく理解したうえで技術を伝えてゆくことの重要さを強調されます。「水道には、町に水を配る配水管の他に、その管から、各家庭へ給水する給水装置が必要不可欠です。途上国で安定的に水を運ぶためには、この給水装置の高性能化も喫緊の課題です。また、安定供給した水道水に対して、水道料金を従量的に課金、徴収する事で、途上国の水道の持続化が可能となります。日本の規格や製品を、そのまま途上国に押し付けるのではなく、現地のニーズを見極め、途上国向けにそれをアレンジして提供する事が、これからの我が国に求められる貢献の形であり、弊社として、国内で培ってきた技術を、遺憾なく発揮できれば光栄です。」

研修事業の挑戦は続く    

【画像】 コロナ禍をきっかけに、課題別研修では、試行錯誤を繰り返しながらもオンライン研修のコンテンツを進化すべく取り組んでいます。今後も、安全な水を安定して届ける日本の水道事業の知見や技術を、専門分野の皆様のお力をお借りしながら、継続して伝えてゆきたいと思います。それと同時に、課題別研修を通じて、様々な課題に直面している開発途上国の方々と相互に情報を交換し、議論を積み重ねることは、日本の水道技術やビジネス発展の機会にも繋がります。今回の経験を活かして、今後もより有意義な研修の企画に努めてまいりたいと思います。



<事業・研修概要>
研修名:「上水道施設技術総合:水道基本計画設計(A)」
実施期間:2021年11月8日~11月18日
参加国:レバノン、カンボジア、ラオス、東ティモール、マーシャル、ペルー、ルワンダ
参加数:11名
研修委託先:公益財団法人日本水道協会(JWWA)