トンガ王国へのマイクログリッドシステムの導入

2015年3月19日

佐藤 秀一:現地駐在施工監理
八千代エンジニアリング株式会社
滞在期間:2014年9月〜2015年3月

2015年3月に無償資金協力(供与額15.7億円)にてマイクログリッドシステムと太陽光発電システムをバイニ(Vaini)地区に設置しましたので、その概要を紹介します。

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Vaini地区に設置された太陽光発電システム全景

1.トンガの電力事情

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パプア発電所全景

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発電所内のディーゼル発電機

トンガは172の小島からなる島礁国家で、最大の島である首都があるトンガタプ島でもその面積は日本の対馬と同等です。このトンガタプ島の電力供給は島に1カ所あるトンガ電力公社(Tonga Power Limited)のポプア(Popua)発電所に設置されているディーゼル発電機(合計最大出力:11MW)を主に、同発電所内に設置されているニュージーランドの支援で設置された1.3MWのマンママイ(Manma Mai)太陽光発電システムによってまかなわれています。
トンガタプ島の電力需要は、冬場の使用電力が少ない時期で4MW、夏場の使用電力が最大となる時期で8MWと使用量に大きな開きが有ります。またポプア発電所のディーゼル発電機の燃料の軽油は全て輸入されており、発電コストが非常に高いため、電気代は日本国内の約2.5倍から3倍近くとなっており、国の財政にとっても、顧客である一般のトンガ人にとっても大きな負担となっています。

2.トンガのこれからの電力事情について

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発電所内のディーゼル発電機用燃料タンク。壁面には削減目標が記されている。

トンガ政府は、温室効果ガスの排出抑制とエネルギー安全保障の向上という命題に対処するため、2020年までに電力供給の50%を再生可能エネルギーにてまかなう計画(トンガ・エネルギーロードマップ2010-2020)を策定しており、これに基づいた再生可能エネルギーの導入を進めています。
ただし、再生可能エネルギー(特に太陽光発電や風力発電)は自然条件で発電出力が左右されるため、エネルギーの安定供給という面で見れば、再生可能エネルギーのみを大量導入した際には電力品質が低下する(安定した品質の電力供給、電圧、周波数)懸念があり、この点に対処しながら進める必要があります。
そのような課題に対処するため、再生可能エネルギーを利用し、さらに、電力の安定供給を行なえるシステムであるマイクログリッドシステムを大洋州ではじめて導入することになりました。

3.今回の協力内容について

今回の無償資金協力のマイクログリッド導入計画では、バイニ地区に1.0MWの最大出力の太陽光発電システムを新設しました。この太陽光発電システムは、トゥポウ6世国王から、マタオエラア"MATA 'OE LA'A"(The Face of the Sun) と命名されました。
また、マイクログリッドシステムとして、11.3kWhのリチウムイオンキャパシターを含んだマイクログリッド制御システムと、11kVの受変電装置を設置しました。
さらに、ポプア発電所敷地内に設置されている既設のマンママイ太陽光発電システムの電力安定供給を目的に、バイニ地区と同容量の11.3kWhリチウムイオンキャパシターを含むマイクログリッド制御システム及び11kVの受変電装置を新設し、ポプア側の電力品質の維持も併せて行ない、トンガタプ島内の電力の安定供給を行なうシステムです。

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太陽電池アレー

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電気室外景

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電気室内のマイクログリッド制御装置

4.マイクログリッドシステムがないと何が問題なのか

トンガの電力は、ディーゼル発電機(最大出力約11MW)のほか、太陽光発電システムとしてポプア 地区に1.3MW、バイニ地区に1.0MWがあり、主のこのシステムから電力供給を行なっています。
しかしながら、太陽光発電システムは、突然の降雨や雲の移動等天候により、その出力が急変(低下)する事があります。その場合は既存のディーゼル発電機でその落ち込み分を補足する必要があるために、急激に出力を上げ電力供給を行ないますが、それには少し時間が掛ります。
例えば、最大需要電力量は夏場の日中で約8,0MW、最少は冬場で約4,0MWと言われており、太陽光発電の最大出力量の2.3MWからすると、それぞれ29%、58%を賄うことになりますが、急激な電力低下により大きな影響を与えることのないように制御する必要があり、それがマイクログリッドシステムとなります。
マイクログリッドシステムでは、リチウムイオンキャパシターを設置し、その充放電により、ディーゼル発電機の立ち上りまで、太陽光発電システムの出力を制御し、安定した品質の電力供給を補償するシステムとなります。

5.大洋州地域のモデルとして

今回のマイクログリッドシステムの導入により、トンガタプ島では夏場の日中の使用電力が最大時で約30%削減が可能となる事で、全量を輸入に頼っているディーゼル発電機の燃料費の削減にも寄与する事が可能となります。
また、太陽光発電システムは発電に伴って排出ガスを出さないクリーンなエネルギーですから、地球温暖化の原因となっているCO2の削減にも寄与しています。
資源のない島嶼国で、再生可能エネルギーを活用したマイクログリッドシステムの運用が、今後の大洋州地域での電力モデルとして広がっていくことを願っています。

6.トンガでの仕事

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11KVトランス盤据え付け工事

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太陽光発電システム検査状況

私が今回の現場へ赴任して来たのは土木工事がほぼ完了した昨年の9月初めでした。
これから今回のマイクログリッドシステムの核となる各種制御盤、系統連系を行うための高圧受電盤関係などの機器が日本から出荷されてサイトに搬入されてくる時期です。
今回納入されるマイクログリッドシステム制御盤等は電子機器で有るため、港からサイトまでの輸送や、サイトで電気室への搬入等非常に神経を使う作業の連続でした。
搬入、据付工事が終了してからは、電線の敷設、引込、各機器への接続、端末処理等を実施して、やっと機器が試運転出来る状態に持って行くまでは目が離せない時期でした。また、機器の据付、接続作業までは電気工事の方々の仕事でしたが、これからは機器を製作したメーカーの試験員の方々の出番で、今回のシステムでは各機器の製作会社の技術者の方々が来所され協同することになります。電気工事の方々を含めると一時期は最大で15名の日本人がこのプロジェクトに従事していました。
私の仕事はコンサルタントですので、直接作業を実施する訳ではありませんが、例えるとサッカーの主審の様に、選手の動きを良く見ながら、ファウルやタイムスケジュール通りに試合を進行させて行くように、各機器が入札図書に記載されている性能を満足している事を確認しながら工期通りに作業を進め、コントラクターの動きを良く見て指導する事が最も重要であると思います。
現在こうして工期通りに作業が全て完了し、引き渡しが出来るまで到達したことで、期間中に有った色々な事(不愉快な事も有りましたが)は全て"帳消し"になり、お釣りがきたぐらい感慨深いものがあります。
また、今回のマイクログリッドシステムはここ大洋州では初めての導入となるため、この設備を今後運用して行くトンガ電力公社(TPL)の保守を行っているスタッフの方々へのソフトコンポーネントの実施、OJTの実施等を通じて今後問題無く運用、保守を行えるように時間をかけて実施致しました。更に、インターネットの専用回線をトンガ側と日本の製造元間に設けた事で、リモートコントロールを構築し、日本側においても現状のシステムの運用状況を確認出来る状況も構築しました。

今回のマイクログリッドシステムが電力状況に厳しい、とりわけ燃料代がトンガ国の大きな負担になっているトンガの人々に"日本は良いシステムを設置してくれた"と思って頂ける事が、次の仕事への励みになります。

以上