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フィリピンで薬物依存症者回復支援推進事業が開始

−薬物依存症者を救う「命のリレー」−

2009年06月12日

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開始式典の様子(前列の左から2人目が近藤理事長)

5月25日、フィリピンの首都マニラにあるマカティ・スポーツクラブで「マニラ市貧困層における薬物依存症者に対する回復支援推進事業」の開始式典が開催されました。この事業は、NGOやNPO等の団体とJICAが協働して実施する草の根技術協力事業(注)として、日本において薬物依存症者の支援を行うNPO法人アジア太平洋地域アディクション研究所(通称、アパリ)によって実施されます。実施期間は2009年5月〜2012年3月までの約3年間を予定。JICAが関わる活動として薬物依存症者の更生に取り組むのは、今回が初めてとなります。

フィリピンには現在、約200万人の薬物依存症者がいるといわれており、その多くは覚せい剤乱用者です。覚せい剤は、1グラムあたり約1,500ペソ(約3,000円)ですが、100ペソ(約200円)程度の小さな包装単位でも入手できるため、貧困層においても使用者が増加する原因の一つとなっています。しかし、回復プログラムを受けられる薬物依存症者は富裕層のみで、貧困層は放置されているのが実状です。その結果、貧困層はさらに薬物に手を染めてしまうという悪循環に陥っています。さらに、薬物乱用は本人だけの問題に留まらず、暴力、犯罪、家庭崩壊などの二次被害を生みだし、被害の連鎖につながることが考えられます。

そうしたフィリピンの貧困層の薬物依存症者の現状を改善するため、依存症者支援に従事するアパリは、草の根技術協力事業として「マニラ市貧困層における薬物依存症者に対する回復支援推進事業」をJICAに提案しました。JICAはこれまで、フィリピンにおける薬物取り締まり分野での協力の経験はあるものの、薬物依存症の回復に取り組んだ経験はなく、今回はアパリの提案により、薬物問題に対して、再発予防・回復という側面からの協力を展開することとなりました。

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リーダーとなるコアメンバーの面接風景

当プロジェクトを実施するアパリは、薬物依存症リハビリ施設「ダルク」を支援する組織として2000年に設立され、主に国内において予防・回復支援活動を行っています。ダルクとは、アパリの理事長である近藤恒夫氏が、自身の薬物依存症からの回復経験を基に、薬物依存症に苦しむ人々の支援のため、24年前に創設。民間の薬物依存症回復支援施設であり、現在全国に約50施設を数えます。近藤氏は今回のフィリピンでの事業においても、プロジェクトマネージャーとして直接現地で指導を行い、さらにダルクで薬物依存症から回復したスタッフもメンバーに加わります。

本事業の開始にあたり、近藤理事長は「この事業は、当事者をエンパワーメントすることで、助けられた人自身がその経験を次に伝えるという『命のリレー』だ。そして、人のため誰かのためでなく、自分の回復のためにやっていくのだ、というモチベーションが大切。回復のためのミーティングを行うグループは、『恨みとコーヒーカップ』があれば仲間は増えていくと考えている。もし、ミーティングの仲間同士で反りが合わなくなったら、分裂して、また新たに仲間を探してグループを作ればいい。そうやって参加人数が増えていくことで、助かる人も増えていく。こうした取り組みが、貧困層の中でどんどん広がっていくことを願っている」とコメントを寄せました。

事業では、マニラにおける薬物依存の現状を調査し、回復プログラムの核である薬物依存の当事者同士が自らの経験を語り合うグループミーティングを貧困地域で開催します。そして、誰にでも回復のチャンスがあるということを認識してもらうことで、貧困層の人々でも薬物依存から回復できるよう、ミーティングが継続できる環境を整えることをプロジェクトの目標とし、リーダーとなるコアメンバーの育成なども行います。


(注)日本のNGO、大学、地方自治体、公益法人の団体等がこれまでに培ってきた経験や技術を生かして企画した途上国への協力活動をJICAが支援し、共同で実施する事業。