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気候変動対策を通じて「国民総幸福量」を拡大

−ブータン政府主催のイベントを支援−

2009年12月15日

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基調講演を行うナド・リンチェン環境副大臣

現在、コペンハーゲンで開催中のCOP15のサイドイベントとして、12月11日、ブータン政府による「ブータンにおける気候変動プロジェクトを通じた国民総幸福量の拡大」と題するセミナーが開催されました。同セミナーの中で、JICAは、「LDC(後発開発途上国)におけるCDM促進と貧困削減への貢献」(注1)と題し、「ブータン地方電化プロジェクト」(注2)を題材に、その意義と具体的内容を報告しました。

国民総幸福量(Gross National Happiness:GNH)で名高いブータンでは、持続可能な開発を通じて国民の生活と福祉の向上を図っています。国としては温室効果ガスの排出はマイナス(排出量が吸収量を下回る)ですが、温暖化対策の重要性に配慮し、国土の5割以上を自然保護区に指定して森林を守り、電力も全量を再生可能エネルギーである水力発電により供給するなど、必ずしも経済的合理性の追求を最優先とはしない政策をとっています。

セミナーは、ブータンのナド・リンチェン環境副大臣による基調講演で幕を開け、続いて同国経済省エネルギー局から「地方電化プロジェクト」について、「僻地の住民へ電気を送ることにより生活の向上と貧困削減を図り、同時に灯油や薪の代わりに電気を使うことが二酸化炭素の排出抑制につながる」と、地方電化率向上と貧困削減、温暖化ガス排出抑制の関係について報告がありました。JICAは、この報告を受けて同プロジェクトのインパクトについてプレゼンテーションを行いました。

最後に経済省地質鉱山局が、JICAと独立行政法人科学技術振興機構(JST)が共同で科学技術協力プロジェクト(注3)により支援している「氷河湖決壊洪水リスク低減計画」(注4)について、「温暖化の影響で氷河の融解が進み、多数の氷河湖が決壊の危険を抱える状態にある。このリスクから下流域の住民や町を守ることは重要な気候変動適応策であり、JICAとJSTの協力により科学的なアプローチを用いた計画の立案が可能になっている」と報告し、プレゼンテーションを締めくくりました。

発表の中で、ブータンの温暖化を象徴する出来事として、ベンガルトラ(注5)が、本来の生息域であった森林植生域の上昇に伴い高地に移動し、標高4,000メートル付近に出没しているようだとの報告もあり、会場の関心を集めていました。

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定員を大幅に上回る聴衆が詰めかけた会場

ブータンが提唱するGNHは、世界的な景気後退の中、大きな関心を呼んでいます。また「ヒマラヤの氷河湖決壊」という注目度の高いトピックが取り上げられたことも手伝って、セミナーは100人収容の会場に、立ち見はおろか通路に座り込む人まで出るという盛況ぶりでした。気候変動プロジェクトを通じたGNH拡大というセミナーのテーマは、しっかりと聴衆の心をとらえたようです。同時に、世界的に前例のない地方電化のCDM化を支援するとともに、温暖化の象徴ともいえる氷河湖決壊のリスク低減に取り組むJICAに対しても、聴衆から口々に支持の声が寄せられました。

JICAでは、このセミナーの企画立案から主催者への参加申し込み、当日の運営に至るまで、一貫してブータン政府を支援してきました。ブータン政府にとっては、COPで行う初の公式サイドイベント主催でしたが、同国政府関係者は「JICAによる支援を仰いだが、今回セミナー開催の一連のプロセスを経験したことで、以後、独力での開催も可能になったと思う」と、今回のイベントを振り返っていました。これもまた、JICAによる形を変えた開発途上国の能力開発支援といえるでしょう。

JICAはCOP15において、今回のイベントと同様、14日にベトナム、16日にザンビアが主催するサイドイベントを支援します。

気候変動対策室


(注1)Least Developed Countries: LDC、後発開発途上国。Clean Development Mechanism: CDM。CDMは、先進国の資金で開発途上国が排出する温室効果ガスを削減した場合、その削減分を先進国が買い取ることで先進国の削減分として計上し、途上国側では売却資金を開発目的に投入する仕組み。
(注2)JICAが作成したマスタープランを基に、JICAとアジア開発銀行(ADB)の協調融資により実施されている。
(注3)地球規模課題対応国際科学技術協力「ブータン・ヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」。地球規模課題対応国際科学技術協力は、環境・防災、感染症などの地球規模の課題の解決に向け、日本と相手国の大学や研究機関が連携して実施する。ブータンのプロジェクトには、日本側の研究機関として名古屋大学が参加している。
(注4)「氷河湖決壊洪水リスク低減計画」は、ブータンが自国の気候変動適応行動計画として策定。氷河湖決壊に関してはオーストリアや日本の研究者が長期にわたり研究を行っており、それらの結果を受けて国連開発計画(UNDP)による氷河湖水抜き工事プロジェクトも実施されている。
(注5)ベンガルトラは国際自然保護連合(IUCN)による絶滅危惧亜種。生息数は現在2,000頭前後で、ブータンのほか、インド、中華人民共和国、ネパール、バングラデシュ、ミャンマーに生息。ブータンには115〜150頭が生息していると推測されている。