トピックス

FATAを見捨てられた地域にしないために

−パキスタン・ペシャワル名誉総領事のJICA訪問−

2010年01月22日

【写真】

講演したアフリディ氏

連邦直轄部族地域(Federally Administered Tribal Area: FATA)は、世界から“無視された”地域だ。子どもたちを含め、尊い人命が理由も分からないまま失われていく。罪のない人々を助けてほしい——。

1月15日、JICA関係者向けに行われた「FATAの現状と課題」と題された講演で、FATAカイバル管区のアフリディ族の族長で、在イスラマバード日本大使館のペシャワル名誉総領事でもあるファザル・カリム・アフリディ氏はこう語りました。パキスタン政府や米国による過激派武装勢力の掃討作戦がFATAに集中したことにより、住民の生活が壊され多くの人が難民化し、また、電力・給水などの公共サービスが遮断されて人々の「家」が単なる「避難所」と化していることなどが報告されました。

FATAの現状

【写真】

FATAの位置を示す地図

FATAはアフガニスタンと隣接したパキスタン北西部に広がる地域で、さまざまな部族が居住しており、広く自治権が認められています。パキスタン政府もこの地域の管理を伝統的な部族長会議「ジルガ」に委ねてきました。その結果、貧困削減や経済開発への取り組みが遅れ、1998年の国勢調査によれば、FATAに住む成人男性の識字率は29.5パーセント、女性は3パーセントと、パキスタンの全国平均(注1)よりもかなり低い水準となっています。しかも近年は、タリバンなど武装勢力の拠点地域として、パキスタン政府・米国の対テロ対策の対象地域とされています。2009年10月に始まったパキスタン軍によるFATA南ワジリスタン管区における軍事作戦以降、数十万人規模の国内避難民が発生し、人道・復興支援への取り組みが急務となっています(注2)。しかし、治安の問題からJICAも現地に足を踏み入れることができません。

【写真】

アフガニスタンとの国境近くにあるカイバル地区(FATA)の城門で。外国人は車から降りることを許されていない

来日したアフリディ氏は、1980年代にFATAの行政官を務めて以来、現地の大使館を通じて日本の関係者と交流を深め、数度の来日経験を持つ親日派です。パキスタン政府アフガニスタン難民支援機関、部族地域行政官兼アフガニスタン難民委員長補佐等を歴任後、2004年2月に日本政府から在ペシャワル日本名誉総領事に任命されました。現在は、日本の草の根無償資金協力を活用して、地元NGOとFATA地域の学校建設・修復、上水・衛生施設整備に取り組んでいます。

FATA支援の鍵は

【写真】

FATAの人々は、もともと温厚な性格と語るアフリディ氏

アフリディ氏は講演に先立ち緒方貞子JICA理事長を表敬訪問。「理事長は辛抱強く私の話に耳を傾けてくれた」と、これまでのJICA支援にも謝意を示しつつ、現地のNGOを活用した支援、モニタリング、そして地元の住民代表者との連携がFATA地域支援の鍵になると強調しました。また、「FATAの人々は温厚で平和を望んでいる。過激派の思想は外部から持ち込まれたもの。ジルガなど、伝統的社会が失われ、その代替となるシステムが今は全くない状態。さまざまな団体が支援に乗り出しているが、FATAの人々に届いていない」と現状を語りました。

FATAへの支援はどうあるべきかというJICA職員の問いに対し、アフリディ氏は、迅速な、そして直接的な支援を望んでいると述べた上で、若者が武装勢力に取り込まれないよう、雇用創出の機会をつくってほしいと答えました。

直接足を踏み入れられないFATAへの支援として、JICAは、パキスタン政府と協力して国内外で実施する一部の研修事業にFATA出身者を優先して受け入れる工夫をしています。昨年は、初中等教育、地方行政能力強化の青年研修プログラムで、計7人のFATA出身者を受け入れました。JICAは今後も、FATAの人々につながる支援に取り組んでいきます。

(注1)パキスタンの全国平均識字率は男性が56.5パーセント、女性が32.6パーセント。

(注2)2009年末時点のパキスタン国内避難民は125万人。そのうち7割がFATA出身者。

南アジア部南アジア第三課