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マラッカ海峡での取り組みをソマリア沖・アデン湾周辺国へ

−「アジア・中東海上犯罪取り締まり」研修を実施−

2010年11月18日

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巡視船「いず」の甲板で、海上保安官(右)から浦賀水道について説明を受ける研修員

曇天の海上、周囲をぐるりと見渡すと、20隻近い船舶が視界に入る。三浦半島(神奈川県)と房総半島(千葉県)の間、東京湾と太平洋を結ぶこの浦賀水道を通過する船舶は、1日に約600〜700隻。世界的にも交通量が多い海の要衝だ。中でも、船舶の出入りが集中する早朝と夕刻は「海のラッシュアワー」となる。

10月25日、海上保安庁の協力を得てJICA九州が実施する「アジア・中東海上犯罪取り締まり」研修に参加したアジア、中東の海上保安機関や沿岸警備隊職員らが、巡視船「いず」に乗船してこの航路を訪れ、巡視業務をはじめとする海上保安の取り組みを学んだ。

犯罪取り締まりから海難救助まで

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浦賀水道の通行方法についての講義を受ける研修員。通過船舶の数が非常に多い浦賀水道では、国際ルールと異なる通行方法が定められている

今年度の研修は10月18日〜11月12日まで約4週間開講され、アジアからインド、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアと、中東からはイエメンとオマーンの計7ヵ国、13人が参加した。10月25日には、第三管区海上保安本部横浜海上防災基地を出港した巡視船「いず」に乗り込み、2日間の乗船研修を体験、巡視船の機能や、海上パトロールに当たる海上保安官の乗船業務を学んだ。

この研修は、海賊事件やテロ、密輸などの海上犯罪について、国際犯罪の取り締まりの現況や、鑑識、薬物についての科学捜査技術実習、制圧術といった実技まで、海上犯罪防止にかかる日本のノウハウを伝え、各国の沿岸警備隊員らの能力強化を目指す内容となっている。

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ヘリコプターによる要救助者の吊り上げ訓練。「いず」の潜水士は2009年10月に伊豆諸島・八丈島沖で転覆した漁船から、約4日ぶりに生存者を救出した

「いず」は、1995年の阪神・淡路大震災発生時に、物資運搬や医療支援などの機能を備えた巡視船が不足した経験を基に建造された災害対応型巡視船だ。災害支援から海難救助まで、幅広く活躍している。甲板はヘリコプターの離発着が可能となっており、26日には、海難救助訓練を実施。研修員は、潜水士が要救助者をヘリコプターで吊り上げる訓練を見学した。

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操舵室の見学

「自国でもヘリコプターでの吊り上げ訓練は行っているが、救出方法が少し異なっており、参考になった。何よりも、日本の海上保安官の規律正しさが印象に残った」と語るのは、フィリピン沿岸警備隊で隊員の訓練を担当するデニラ・ロデリック・バーガラさん。乗船研修中、多くの質問を投げかけ、その答えに熱心に耳を傾けていた。

また、イエメン沿岸警備隊対麻薬部隊のサルマーン・アブドルアジズ・アブドゥッラー・サビット隊長は「日本の海上保安官は自らを犠牲にして、海難事故から自然災害の救助活動まで、幅広く担っていることを知った。今後、自国での業務の参考にしたい」と感想を述べた。

国際連携で海の治安を守る

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2日間の乗船研修の締め括りとなる下船式で、「いず」乗組員に敬礼する研修員(左列)

マラッカ海峡での海賊事件急増を受け、2000年に海賊対策の国際会議が東京で開かれた。その合意に基づき、東アジアの国々の沿岸警備隊員の能力強化を目的として、2001年にこの研修が開始された。研修実施に加え、JICAはマラッカ海峡周辺国のインドネシア、フィリピン、マレーシアに対し、技術協力、有償資金協力(円借款)、無償資金協力を通じ、海上保安機関への人材育成、組織能力強化などへの支援も実施してきた。

2008年度からは海賊事件が急増するソマリア沖・アデン湾での巡視業務を担うイエメン沿岸警備隊、オマーン海上警察の職員をこの研修に招き、人材育成を支援している。また、11月7〜12日まで実施されたアジア・中東の政策立案担当者向けの短期コースには、今年度は初めて、ソマリア沖の海賊対策に当たる国々が拠点を置くジブチから、沿岸警備隊関係者を研修員として招いた。

ソマリア沖・アデン湾周辺は重要な国際航路の一つに位置付けられ、各国が連携し、周辺海域の監視や船舶の護衛に当たっており、日本も自衛隊を派遣し、海賊対策を支援している。しかし周辺海域では今年も日本の船舶が海賊被害に遭い、依然として海賊対策の重要性が叫ばれており、周辺国の沿岸警備組織の能力・体制強化、人材育成が重要かつ喫緊の課題として挙げられている。

このような経緯からJICAは、紅海・アデン湾に面するイエメンに対する海上保安分野のさらなる協力に向けて、現在、準備を進めている。東南アジアにおけるこれまでのJICAの海上保安分野支援の経験は、今後、ソマリア沖・アデン湾における海上保安の能力・体制強化、海賊対策への取り組みに生かされていく。