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モルドバのチャレンジ

−貧困農民支援がもたらす波及効果−

2010年12月21日

東ヨーロッパに位置するモルドバは、ルーマニアとウクライナに囲まれた内陸国だ。国土は日本の九州よりやや小さく、土壌が肥沃でワイン生産に適しており、その品質は日本国内でも定評がある。他方、1991年の旧ソ連からの独立以来、民間市場の発達が遅れたことや農家の資金不足によって、耐用年数を超えた旧ソ連製の農業機械が使用され続けたり、壊れたまま放置されたりしており、肥沃な土地が持つ生産性が存分に発揮されているとは言い難い状況だ。

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肥沃な土地が広がるモルドバ。主に小麦やトウモロコシなどが栽培されている

こうした状況を受け、モルドバは、日本に対して農業機械の近代化を通じた食料自給率の向上と市場競争性の強化に向けた支援を要請。2000年8月、モルドバで初めての「貧困農民支援(2KR)」(注)が実施された。

2KRとは、肥料や農業機械といった農業資機材を購入するための資金を開発途上国に供与し、途上国は、購入した機材を農民に安く売却して農業の発展を図るとともに、売却益(見返り資金)を国の開発事業に充てるという援助の手法。「途上国の食料問題は開発途上国の自助努力によって解決されることが重要である」という考え方がベースとなっている。

モルドバの自助努力を確認しつつ、2009年までに計8回の2KRを実施。結果、10年間で約1万5,000人の雇用が創出され、また、全国の農地の約4分の1が2KRで直接的、または間接的に購入された農業機械で耕作されるなど、多くの国民が恩恵を受けている。

分割払いで農業の規模を拡大

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オルヘイ州の農民。2KRによって購入された農業機械を活用して農作物の生産に取り組んでいる

農業機械の販売方法は次の通りだ。農業食品産業省の傘下に設置された2KRプロジェクト実施部局(PIU:Project Implementation Unit)がモルドバ国内の新聞で販売を公示する。その後、PIU総局長、PIU技術局長、契約監理専門家、法律専門家、書類審査担当や会計担当などのPIU職員で構成される選定委員会が審査し、申請書を提出した応募者の中から購入者を決定する。

選定にあたり、PIUは、全国にバランスよく機材が行き渡るように配慮している。売買契約は2年間もしくは3年間の分割払い。多くの農民にとって、農業機械購入のためのまとまった資金を用意することは困難であり、分割払いによる購入システムは好評だ。

「2KRのおかげで6台の農業機械を使えるようになった。農地を楽に耕作できる上、収入も以前の2〜3倍になった」と喜ぶのは、オレスク・ドゥミツレウさん。小作農だったオレスクさんは、PIUを通じて農業機械を購入すると同時に、数人の農民から合計で43ヘクタールの土地を借りた。現在では90人もの農民を雇いながらベラルーシ向けのトウモロコシを栽培しており、雇用された農民の収入も向上している。

2KRが促した自助努力

2KRは、資金の供与による直接的な効果だけでなく、モルドバの新たな援助受け入れ能力を高めるという効果ももたらした。例えば、2KRの実施が決まると、モルドバは、PIUを設置。2KRの管理・運営を専門に行う組織として設立されたPIUでは、仕事が効率的に進むと同時に、職員に強い主体者意識が芽生えている。

また、PIUは、その後、農業食品産業省の大臣や副大臣を輩出するなど、その存在はモルドバにおける2KRの成功を語る際に欠かせないものとなっており、農業分野の計画を運営、管理する際の手本となっている。モルドバ政府もPIUによる2KRの効果的な運営を高く評価しており、他ドナー(援助機関)による事業の運営、管理に関してもPIUをモデルとした新部局を立ち上げる予定だ。

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2KRの見返り資金を活用して建てられた農業機械化訓練センター

2KRを通じて、農業発展のためのさまざまな活動も展開されている。まず、日本の支援で調達したトラクターなどの農業機械の売却益を原資とした資金(見返り資金)で新たな農業機械を購入したほか、見返り資金を原資として農業機械購入のための融資制度(リボルビングファンド)を立ち上げた。これまで、モルドバの農業近代化においてこのような融資制度はなく、持続的な運営モデルとして他ドナーからも注目されている。

また、PIUは2KRの見返り資金を利用して2007年6月に農業機械化訓練センターを設立。その後、モルドバ政府は、このセンターの支援を日本に要請し、「農業機械化訓練センター機材整備計画」が2007年11月から実施されている。同センターでは、現在までに約1,200人の農民が機材の使い方や修理に関する訓練を受けており、農民はその後、自身の村へ戻って耕作と機材の維持管理を行っている。

さらなる農業の発展を目指して

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2KRで調達されたトラクターは、モルドバの農業の発展に大きく貢献している

これまで2KRで調達したコンバイン、トラクター、耕運機などの農業機械(586台)の見返り資金や、リボルビングファンドにより、モルドバ全土で3,730台の農業機械が購入された。また、モルドバ政府はトラクター1,000台、コンバイン100台を毎年、新たに購入し、さらなる農業発展に意欲を示している。

2KRで調達される作業効率の高い農業機械とモルドバ政府による積極的なプロジェクト運営により、2KRはモルドバで、農業生産率の向上に大きく寄与するプロジェクトとなった。今後、農業分野のみならず、開発支援の新たなモデルケースとして拡大していくことが期待される。

(注)日本は、1967年のガット・ケネディ・ラウンド(KR)交渉以降、「食糧援助規約」の枠組みにおいて「食糧援助(KR)」のほかに農業資機材の調達に必要な資金を供与していたが、1977年にこれをKRから切り離し、「食糧増産援助(2KR)」を新たに創設。2005年からは、名称を「貧困農民支援」に変更し、裨益対象を貧困農民とすることを明確化した。

資金協力支援部 実施監理第三課