【女性が輝く社会に向けて】「誰でも参加できる・手作り・ナチュラル」が合言葉 地域の女性が支えるキルギス一村一品アプローチ

2015年8月21日

地域の特産物を生かし、国内外に通用する商品を作ることで、地域活性化を目指す日本の大分県発祥の試み「一村一品」が、開発途上国の女性の力を開花させている。

「私たちはこの仕事が大好きです。朝、仕事場に来て働いて、家に戻って家事もできます」

天山山脈の峰々を仰ぎ、見渡す限りに美しい草原風景が広がるキルギス共和国イシククリ州。その東部に位置し、標高約1600メートルの高地に広大な湖面を湛えるイシククリ湖周辺の村々では、女性たちの手による一村一品の商品作りが行われている。

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色彩豊かな花畑が美しいイシククリ州都カラコル近郊(左)写真提供:鈴木革/JICA、20メートル以上の透明度を誇る澄んだ湖水に映る山々(右)写真提供:久野真一/JICA

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ハーブ石鹸生産者の女性たち 写真提供:鈴木革/JICA

「誰でも参加」を謳い、地域のニーズに寄り添う

キルギス共和国は、かつてソビエト社会主義共和国連邦の構成国として経済活動全般を計画的に管理・運営され、農業や畜産業を担ってきたが、1991年の独立以来、社会主義から民主化への改革路線がとられ、中央アジア諸国の中でもいち早く市場経済化が進んだ国といわれている。一方、社会主義体制の崩壊に伴い、特に地方の農村部においては、村のコミュニティ機能が低下したまま放置され、生産や流通を共同で効率的に行う結びつきが弱まっていた。そのため地域産業は停滞し、貧困問題が深刻化するようになった。

フェルトで作ったバッグを手に笑顔の女性たち

フェルトの動物人形 写真提供(上下ともに):久野真一/JICA

そこでJICAは、農業や観光産業のポテンシャルもある同国イシククリ州において、その美しい環境に調和した社会経済の振興を目標として「イシククリ州コミュニティ活性化プロジェクト(2007〜2010年)」、続いて「一村一品アプローチによる小規模ビジネス振興を通じたイシククリ州コミュニティ活性化プロジェクト(2012〜2016年7月(予定))」を立ち上げた。同州では羊の放牧が伝統的に行われていることや、男性がロシアや近隣諸国などに出稼ぎに出て家を留守にしている場合が多い現状があった。そのため、「羊毛」と「女性」をキーワードに、古くからイシククリ湖畔の村々で女性たちが行ってきたフェルト手工芸に着目し、その組織強化や品質向上を目指してきた。今でも参加者のほとんどが女性であり、プロジェクトの大きな原動力になっている。

フェルト手工芸品の他にも、夏から秋にかけては果実を使ったジュースやジャム、冬には蜂蜜やジャーキー、その他ハーブを練りこんだ石鹸など、四季折々の地元原産の素材を加工し、主な商品として生産している。合言葉は、「誰でも参加できる、手作り、ナチュラル」。設立当初46グループ約190人だった生産者数は、現在136グループ約1,500人にまで膨らみ、扱う商品は1,000を超えた。

ジャム作りおいての品質管理法を学ぶことは女性たちにとって貴重な体験 写真提供:久野真一/JICA 

イシククリ州知事カプタガエフ・エミルベク・サラマートヴィチ氏は、一村一品アプローチにおいて女性たちの活躍とその成果をたたえると共に、「一つ一つの金額は小さいかもしれないが、経済活動への影響力はとても大きいと感じている」と述べた。また、できればイシククリ州から全国にこの活動を拡大していきたいと意欲的だ。

周囲の協力あってこその石鹸作り マイラムクル・ムラエバさん

石鹸生産グループのリーダー マイラムクル・ムラエバさん

イシククリ湖の東に位置するチュップ県タスマ村。「タスマ」とは現代の言葉で「映画」を意味し、雄大な山々と丘に囲まれた、まさに映画のワンシーンのような美しい景観を誇る。村の女性たちはビジネスを通じて収入を得た経験がほとんどなく、それは他の村においても同様だった。しかし、プロジェクトに参加したことで、現金収入を得て家計に役立てられるようになり、他の村や首都ビシュケクにも活動範囲を広げ、様々な情報を得るようにもなったことで、家庭内での女性の存在感も高まった。タスマ村で伝説の石鹸「シャカル」を生産するグループ「フグエネ」のリーダー、マイラムクル・ムラエバさんもその一人だ。

伝説の石鹸「シャカル」

ハーブや山羊のミルクを練りこんだ石鹸 写真提供(上下ともに):久野真一/JICA

高校卒業後すぐに結婚したマイラムクルさんは、育児や家事の他にも家畜の世話などに一日中追われていたが、子どもが成長し少し余裕ができたことで生産グループへの参加が叶った。午前9時までに家事を終わらせ、それから午後3時まで作業、その後夕食の支度と、生活のリズムは参加前と比べもちろん変化したが、家族の理解があるからこそ続けられているという。

「シャカル」は、自生している薬草を燃やした灰を煮立て、天然アルカリを取り出して作られる。しかし母から娘へと脈々と口承されていたはずのそのレシピは、工場で大量生産された石鹸の登場などにより、気づけば村の生活から消えてしまっていた。そこで、まず地元のお年寄りに聞き込み調査を行うことから始める必要があった。工程のひとつが抜けていたり、方法があいまいだったりと困難を極め、昔ながらの製法を完全に復元するまでに2年もかかったが、今では国の重要文化財にも登録され、生産が追い付かないほどの人気だ。旧ソ連からの独立以来、安価で品質に難がある製品が輸入されていたことから質の高い石鹸への需要はあったものの、それに加え、当時派遣されていた協力隊員が「頑張りましょうよ」と泣きながら叱咤激励してくれたからこそ、ここまでたどり着くことができたとマイラムクルさんは振り返る。

フグエネでは「シャカル」のほか、地元のハーブや山羊のミルクなどを利用した石鹸も生産しており、その評判からテレビなどの取材も増えた。機械化による生産の申し出もあるというが、イシククリの恵みを手作りで生かした商品価値を継続するために、今のところ受けていない。しかし、手作りすることを守りながらも事業を拡大する糸口をつかもうと、マイラムクルさんたちは現在積極的に展示会などに参加している。その結果、カザフスタン、フランス、ドイツなどからも引き合いがきており、さらに今年5月にキルギスが加盟したユーラシア経済連合加盟国間での経済交流が活発になれば、一層市場が開ける見込みもある。また、他の村でも石鹸生産グループを立ち上げる要望があれば、培ってきたノウハウを積極的に授けていくつもりでいるという。

「はじめて収入を得た時は、嬉しくてみんなでケーキを買ってお祝いしました。当初は材料費を差し引くと100ソム(約2.5ドル)くらいだったから、そんなことしたら赤字なんですけどね」。そんなエピソードを思い出し、マイラムクルさんは朗らかに笑う。その明るさも石鹸作りを成功へと導いたのかもしれない。

MUJI×JICAプロジェクトで地元の商品を世界へ ナルギザ・エルキンバエバさん

フェルト小物過去商品例。踊り子や山羊などキルギスを象徴するモチーフが刺繍されている。写真提供:久野真一/JICA

女性たちが作った「地元の恵み」が魅力の商品は、イシククリ州都カラコルにある観光客や地元民向けの「イシククリブランドショップ」から海外市場へと、大きくマーケットを拡げた。その大きなはずみとなったのが、「MUJI×JICAプロジェクト」だ。

株式会社良品計画(以下良品計画)から自社で扱うクリスマス商品として、JICAの活動に協力できるアイデアはないかと2010年末に打診がありスタートした。80を超えるアイデアの中から、白羽の矢が立ったのは、イシククリ産の細く上質な羊毛で作られた携帯機器ケース、カードケースなどのフェルト手工芸品(注)。2011年から毎年秋冬の定番シリーズとして販売されており、今年も秋に新商品の発売を予定しているという。

このプロジェクトの大きなメリットは、販路拡大を図れる上に国際市場が求める商品の特徴、国際水準の品質や生産管理体制、未経験だった輸出手続きなどを学べるということ。しかし開始当初は計画性のある仕事に慣れていない生産者たち、そしてそれを管理する側にも苦労を伴った。

「MUJI×JICAプロジェクト」のカウンターパートであり、約1,500人の生産者を束ね、販売までの一連の流れをまとめている公益法人One Village One Product+1の代表ナルギザ・エルキンバエバさんは「地道な努力の賜物」とプロジェクト開始当時を振り返る。

一村一品の未来を語るナルギザ・エルキンバエバさん

大量生産に対応するため、まずは27の生産グループが製品作りに携わることになった。当時まだ20代だったナルギザさんは、自分より年長の生産者である女性たちに失礼のないよう気を配りながらその作業方法などを説いていき、「彼女たちが成果である『収入』を受け取れば、それが信頼関係につながるはず」と、丁寧なコミュニケーションを心がけたという。結果として、初年度1万3000個以上、2013年には約2万点の国際市場に通用する商品を製造した実績は、全ての関係者の確かな自信となり、また生産者たちの仕事に対するモチベーションと技術をより向上させるに至った。

「私は5年後もこの仕事を続けていると思います。この組織のリーダーとして走り続ける。イシククリ、そしてキルギスのこれからと共に成長していきたいと思っているのです」。そう抱負を語るナルギザさんは、現在、日本のマーケットに並ぶ来期の商品を良品計画とともに企画中だ。さらに、JICAから独立した後も安定して事業を続け、生産者たちの生活を守れるようにと、キルギス国内30カ所以上に販売網を拡大、パリやベルリンなどで開催される国際フェアにも精力的に参加している。そんなナルギザさんの子どもの頃抱いていた夢は「大好きな地元に貢献すること」。夢中で走り続け、その夢を叶えつつある今では、周りから「プライベートな時間も大切にして」と言われるという。その通りとは思いつつも、「仕事と家庭を両立できたらいいな」とあくまでも一村一品の仕事を忘れず、大切に思っている。その熱意は、これからも一村一品のプロジェクトをさらなる飛躍へと牽引していくだろう。

女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム WAW!2015開催

男性と女性が同じになることを目指すのではなく、人生や生活において、さまざまな機会が男女平等であることを目指すジェンダー平等と女性のエンパワーメントに関わる問題は、国際協力における重要な課題として世界的に意識されている。

8月28、29日には、昨年に続き東京において「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム(World Assembly for Women in Tokyo, 略称:WAW! 2015)」が開催され、世界各地から女性分野で活躍するトップリーダーが集まり、女性の活躍促進のための取り組みについての議論が行われる予定だ。

JICAとしてもジェンダーをあらゆる分野で認識すべき重要な視点としてとらえている。例えばインフラ整備や地球環境保全など、地域の経済活性化を目的とした一村一品の取り組みのようにジェンダーとの関わりがすぐには見えにくい課題についても、その地域における問題やニーズを把握し、今後も柔軟な対応を目指していく。

(注)キルギスのフェルト製品と同時に、ケニアでの一村一品プロジェクトでソープストーンと呼ばれる石を使用して作られた製品も商品化が決定された。