ワインの国モルドバで、厳冬の教室に暖を届ける――JICA支援で農業国生かした燃料のボイラー導入

2015年12月10日

ルーマニアとウクライナに囲まれているモルドバ

東ヨーロッパに位置するモルドバは、知る人ぞ知るワインの産地。旧ソ連を構成していた国の一つで、九州よりやや狭い面積の国土に300万人ほどが暮らす。夏が非常に短く、ときにマイナス30度を下るほど冬が厳しいが、財政難により十分な量の燃料を調達できず、学校などでの暖房が行き届かないため、学校によっては休校せざるを得ない現状がある。JICAは2013年6月から、モルドバ最大の産業である農業で生じる残りかすを原料とするペレット(注1)を燃料にしたバイオマス暖房システム(バイオマス・ボイラー)の整備事業を無償資金協力で実施している。今年11月には農業・食品産業省から3人が来日し、現地で使用する機材の維持管理能力のための研修や、最新のバイオ燃料システム視察に参加し、日本の品質管理などについて学んだ。今後は、モルドバ国内でのメンテナンスやさらなる普及を目指す。

農業国モルドバ、暖房の安定供給が課題

国内の大半を占める丘陵地帯には畑が広がり、はるか昔からブドウが自生していたとされる。ワイン作りが始められたのは紀元前3000年ごろといわれ、ヨーロッパのいくつもの王朝で愛された「モルドバ・ワイン」は現在でも非常に有名。国営ミレシュティ・ミッチのワインセラーは、全長200キロメートルと世界最大の総距離を持つワイン貯蔵庫と、150万本のビンテージワインの本数がギネスブックに登録されるなど、モルドバと言えばワインを思い浮かべる人もいるだろう。

ワインの原料ブドウをはじめ、小麦やトウモロコシなど、モルドバの主要な産業は農業で、農業関係に従事している国民は全体の40パーセントに上る農業国。自然が相手なだけに、異常気象などによる影響を受けやすい上、資源に乏しく輸入に頼っていることから、財政難が暖房用燃料の輸入量に直接、影響し、全国の公共施設に行き届いていない現状がある。とりわけ一部地域の小学校では、暖房できないため休校を余儀なくされる事態も発生しており、安定した暖房供給が大きな課題となっている。

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暖房燃料危機をJICAが支援

株式会社渡会電気土木(山形県鶴岡市)製のペレット製造機の管理について学んだ

二光エンジニアリング株式会社(静岡県磐田市)ではペレットボイラー製造過程を視察

JICAは、こうした状況への打開策の一つとして、モルドバの主要産業である農業で生じるわらなどの残りかすを原料にペレットを作り、これを燃料として暖房に生かす「バイオマス暖房システム」の整備事業を2013年から実施。幼稚園や小中学校、24校の暖房用に、ペレット製造機とペレットボイラーの導入を支援している。ガスや電力を使った暖房では、燃料の輸入が必要であり、また、石炭を使った暖房ではすすが多く作業場のデメリットも大きかったが、ペレットボイラーを使うことで、国内の原料を生かし、すすも少ない暖房が実現できる。

今回、農業・食品産業省の3人は、導入後の課題となっている機材の効率的な運用やメンテナンスについて学ぶことを目的に来日。機材を納入した山形と静岡の2社を視察し、品質管理、生産計画などについて研修した。実際にボイラーを運転する際に、原価計算や設置環境を念頭に計画を立てる必要があることを実感できる貴重な経験となった。3人は、「今後も日本のボイラー導入を進めたい」と話し、帰国後はペレットボイラーについてのワーキンググループを省内で立ち上げて普及と適切な運用を進める方針を明らかにしている。

親日国モルドバへの農業支援

広大なヒマワリ畑

JICAのモルドバに対する支援は、1997年に開始した技術協力以降、農業をはじめ医療保健などの分野を中心に継続している。特に2000年から始まった貧困農民支援(2KR、注2)は、モルドバ国内での農業機械普及に貢献した。さらにモルドバ側の自助努力により、農業機械購入のための新たな融資制度(リボルビングファンド)の創設、農業機械化訓練センターの設立などの大きな成果を生んだ。

今回の研修参加者からも、「2KRの経験、ノウハウを生かして、農民への技術移転の促進や、機材調達の支援を継続していきたい」との発言もあり、2KRはモルドバでしっかり根付き、独自の展開を始めようとしている。2KRはまた、日本、JICAの支援を象徴する事例として広く認識されており、2KRを通じて、日本、JICAの良いイメージがモルドバに定着している。

今回来日した参加者が所属する農業・食品産業省を束ねるイオン・スラ大臣は、2010年にJICA北海道で農村振興に関する研修を受けた経験がある。大臣からの感謝状を預かっていた参加者は来日プログラムの途中、札幌のJICA北海道を訪れ、「日本のみなさんからの支援なしに、モルドバの農業生産における今日のような進歩はなかった」と感謝の思いを伝えている。

(注1)燃料にするために廃材・間伐材などを数センチ程度の円筒状に固めたもの。廃材や間伐材などから製造される木質ペレットが一般的だが、ブドウのつる、ヒマワリの種殻、麦わら、トウモロコシの芯などをペレットとして利用することも検討されている。
(注2)2KRは、農業資機材を購入するための資金を開発途上国に支援し、途上国は購入した機材を農民に売却して農業の発展を図るとともに、売却益を国の開発事業に充てるという援助。今回来日した3人が所属する農業・食品産業省には、「2KRプロジェクト実施部局(PIU: Project Implementation Unit)」が設置されているほど根付いており、12年までにトラクターなどの農業機械6,549台が導入されたほか、2万人以上の雇用、60万ヘクタール以上の耕作などの実績を上げている。