ベトナム、麻疹風疹ワクチン製造が国内で可能に——域内での大流行にも国内製ワクチンで拡大抑制

2016年1月7日

国内製の麻疹ワクチンの臨床試験

ベトナムが1981年から推進している「予防接種拡大計画」では、乳幼児や妊婦に特に深刻な被害を与える麻疹(ましん、はしか)をはじめ6種のワクチンの国内生産と接種率の向上を目指している。

麻疹は感染力が強く、日本でも2007〜2008年に、ワクチン接種を受けていなかったり、受けていても十分な免疫が獲得できなかったりした10〜20代の若者を中心に流行するなど、ワクチンの接種が重要な予防策であることが再認識された。

日本のベトナムでの協力は、2003年の麻疹ワクチン製造施設の建設支援を皮切りに、2006年からはJICAが製造技術の移転プロジェクトを開始。麻疹ワクチンの国内での製造技術を確立した現在は、風疹ワクチンの製造技術を移転している。2014年の東南アジア地域での麻疹大流行時には、ベトナム国内で必要となる大量のワクチンを迅速に製造し、早期に感染の拡大を防ぐ重要な契機となった。

今後は、ほかの疾病に対するワクチン製造はもとより、近隣諸国への供給も視野に、人材育成や技術移転を継続していく。

麻疹風疹ワクチンの製造技術伝える日本人専門家を表彰

麻疹ウイルスは、飛沫・接触感染のほか、空気感染もする(注1)。感染力は非常に強く、免疫のない人が感染するとほぼ100パーセント発症し、合併症などで死に至るケースもある。

また風疹ウイルスは、飛沫感染するが感染力は麻疹ほど強くない。ただ、まれに合併症を発症するほか、妊娠中にかかると胎児が心疾患や脳性まひなどを起こす「先天性風疹症候群」の発症可能性が高まるなど、いずれもワクチンで感染を予防する意義は大きい。

ただ、麻疹や風疹はワクチン接種前の乳児を中心に、数年に1度のアウトブレーク(注2)は避けられない。東南アジア地域では2014年に麻疹が大流行し、ベトナムでも多くの患者が出た。

ベトナムが1981年から進めている「予防接種拡大計画」では、麻疹、ポリオ、ジフテリア、百日咳、破傷風、結核の6種を定期接種ワクチンに定め、国内で接種するワクチンは国内で製造する方針で開発や人材育成に取り組んでいる。

現場で指導を行う日本人専門家

日本の支援は、2003年に麻疹ワクチン製造工場の建設資金協力に始まり、製造工場の完成を受けて必要となった製造技術の移転で、JICAが協力を開始。麻疹ワクチンの技術移転は完了し2009年からは国内で必要なワクチンのすべてを国産ワクチンで賄うことが可能となった。現在は麻疹風疹混合ワクチンの技術を伝えている。

以前は、ワクチンの多くを輸入していたベトナム。因果関係は今も解明されていないが、輸入ワクチン接種後に子どもが死亡する事件が続き、輸入ワクチンに対する不信感と共に国内産ワクチンへの需要が高まっていた。そんな折、高い技術に裏打ちされた日本の協力のもと、WHO基準にも適合したワクチンの国内製造は、ワクチンへの信頼回復と接種率の引き上げを目指すベトナム政府にとって重要なカギとなった。

「国民健康貢献賞」授賞式。左から、石川専門家、ロン副大臣、田村専門家、李専門家、荒井専門家

2014年の域内での麻疹大流行時には、すでに国産のワクチン製造技術が確立されており、すぐに大量のワクチン製造が実現。国内の大流行封じ込めに大きく貢献した。技術移転を支えたJICA専門家4人も、積極的なワクチン接種を奨励すべくテレビCMなどにも出演し、国内製ワクチンの安全性やワクチン接種の重要性を呼びかける活動を展開した。

こうした活動や封じ込めへの効果を通じてワクチンの信頼が高まった功績を評価し、ベトナム保健省は2015年11月、日本人専門家に対して、ベトナムの医療保険分野に貢献した外国人に贈る「国民健康貢献賞」を授与。保健省副大臣は、協力がベトナムの医療システムや国民の健康維持にとって大きなメリットをもたらしたとした上で、今後の協力継続を期待すると語っている。

ワクチン製造技術の移転、次のステップへ

公社ワクチン・生物製剤研究・製造センター(POLYVAC)内に日本の支援で建設されたワクチン製造施設

JICAは、2006年から人材育成の支援を開始し、2009年からベトナム国内での麻疹ワクチン製造が可能になった。現在の年産能力は750万人分に達し、国内で接種が必要な月齢の子どもを十分カバーできる体制が整っている。

一方、ベトナム政府は2006年から、それまで1回だけとしていた麻疹ワクチンの接種を、より高い免疫効果の持続が見込まれる生後9ヵ月と18ヵ月の2回接種に改めた。さらに2014年には、近隣諸国での風疹の流行に伴いWHOから風疹予防接種の実施勧告があったことを受け、2回目は風疹と混合のワクチンに変更。そこでJICAでは、2013年から麻疹風疹混合ワクチンの製造技術を移転するためのプロジェクトを開始している。ほどなく臨床試験が始まる見込みで、数年後には麻疹ワクチン同様、国内の必要量を供給できるようになる計画だ。

WHO認証取得し、近隣諸国への供給も視野

「POLYVAC」からベトナム全土に輸送されるワクチン

ベトナムでは今後、開発中の麻疹風疹混合ワクチンの国内での承認取得はもとより、WHO認証を得て近隣諸国への供給も目指しており、東南アジア地域での麻疹・風疹の流行抑制への貢献が期待される。また、ほかの疾病に対するワクチンの開発と製造も順次、進めていく計画だ。

JICAは今後も、ベトナムが進める「予防接種拡大計画」を日本での経験や高い技術力の移転で支える。麻疹や風疹をはじめとする「予防可能な疾病」の死亡率低下、先天性疾患を抱えて生まれてくる子どもの減少につなげ、ベトナムの子どもたちの未来がより広がるよう、協力を継続していく。

(注1)飛沫感染は、咳やくしゃみ、会話などで生じる、病原体を含み一定以上の大きさを持つ飛沫によって感染する。一方、空気感染は、飛沫の水分が乾燥した微粒子が空気の流れによって広範囲に飛散し感染する。
(注2)特定の地域、グループ、期間に通常の症例数を超える数の症例が発生すること。