感動体験からはじまる生物多様性保全−コスタリカ全土で住民参加型生物調査スタート!−

2016年2月1日

住民たちと双眼鏡で野生生物を観察 写真提供:今村健志朗/JICA

地球の陸地面積の0.03%しかない国土に、現在確認されている生物種の約5%にあたる9万5千種が存在する中米コスタリカ。その中には絶滅危惧種など貴重な種も多いことから、「生物多様性のホットスポット」として国際的に注目を集めている。

豊かな生態系を守り続けていくためには、保護区域内やその周辺域で生活する人々が、その重要性を理解することが不可欠だ。そこでJICAは、2013年4月より実施している「参加型生物多様性保全推進プロジェクト(MAPCOBIO)」の活動の一環として、住民参加型の生物調査をコスタリカ全土で開始した。

「身の周りには、とても貴重な自然環境があることに気づいた」

コスタリカの法律で絶滅危惧種に指定されているジャガーや、夜行性で見ることが難しいげっ歯類のテペスクイントレなどの野生生物を、幸運にも目にすることができた感動体験が、住民のプロジェクト参加へのモチベーションを高め、身近な自然を再評価するきっかけとなっている。

行政機関主体の全国的な参加型生物調査はコスタリカ初

「生物多様性」とは自然が織りなす複雑で豊かな生態系の総称であり、人類もその一員だ。生物多様性を壊すことは、人類の存在性にも大きく関わることになる。

1950年代から始まった農地拡大政策などで森林減少に危機感を覚えたコスタリカは、1980年代後半より、国立公園をはじめとした自然保護区の積極的な設置など、生物多様性保全のためのさまざまな政策を実施。1987年には21%だった森林被覆率を2010年には52%程度にまで回復させた。

一方で、保護区内及び周辺の住民と管理行政担当機関の間に軋轢が生じるという大きな問題も発生した。保護区によっては民有地が含まれており、農林水産や観光業などで多目的に利用されていたにも関わらず、一部を除き、自分の土地の樹木を伐採することにも行政の許可を得なければならないなど、違法取締りの強化のみを重視した管理モデルが適用されていたためだ。

そこでJICAは、保護区の利害関係者がお互いに参加・協働して管理することの実現に向けて、2008年10月から3年に渡り、「バラ・デル・コロラド野生生物保護区住民参加型管理プロジェクト」を実施した。その結果、コスタリカ固有種が多く生息していたことから遺伝資源の貯蔵庫ともいわれていた同保護区は、参加型管理が実践されているモデル的な保護区とみなされるようになった。

同じ中米各国地域においてはもちろん、世界的に生物多様性保全を進める上で、コスタリカの生物多様性保全にかかる実績や経験から得た知識が有効活用されることは国内外から期待されており、コスタリカ環境エネルギー省も、知識の共有を国際貢献につなげたいとした。

しかし、これまでその体系的な整理や検証が行われてはいなかったため、2013年4月にJICAは「参加型生物多様性保全推進プロジェクト」を続いて始動させた。同プロジェクト活動の一環として、参加型生物調査の範囲もバラ・デル・コロラド地域のみではなく、コスタリカ全土へと拡大。行政機関が主体となって参加型生物調査を全国的に行うのは、同国初の試みとなる。

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プロジェクトロゴ(「MAPCOBIO」はプロジェクトの略称)。人も生物多様性の一部であり、人間の存在を前提とした生物多様性保全を目指す方法をコスタリカから発信しよう!という意味が込められている。

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左上/クビワヤマセミ 左下/イチゴヤドクガエル 左中央/バナナの花房とホオグロミヤビゲラ(以上写真提供:今村健志朗/JICA) 右中央上/アグーチ、右中央下/ベアードバク 右/ミユビナマケモノ

ジャガーなど希少動物の分布域を調査する

トラップカメラの設置方法を学ぶ地元の高校生

参加型生物調査を進めるにあたり、重要なことのひとつにデータの信頼性がある。数多くのデータの中には、間違った報告がされている可能性もあり、信頼性を見極める作業には専門家の協力と多くの時間が必要だ。しかし、コスタリカではすぐにその協力を得ることが現状難しい。そこで導入されることになったのは「トラップカメラ」だ。動物がカメラの前を通り過ぎると、自動的に撮影される野外設置カメラで、これを使えば高度な専門知識を持つ専門家の協力がなくても、プロジェクトのスタッフと参加者である住民だけで動物の種の特定が可能となる。

画面中央下に見える、白い斑紋のある動物がテペスクイントレ

まずは、トラップカメラの研修として、太平洋側南部のオサ半島にあるランチョケマードという村で、一晩フィールドに設置した。そして翌日、早速映像を確認したところ、開始後すぐにテペスクイントレという柴犬ほどの大きさのげっ歯類が、画面中央下側を左から右へと歩いていく姿があった。たった一晩の撮影でまさか動物は写らないだろうと思っていたこともあり、調査参加者一同から大きな歓声とともに拍手が湧き起こった。そのうちのひとりである女子高生は、いるとは聞いていたが、夜行性でなかなか見ることのできない自分の村の野生動物を、ビデオで見ることができた感激のあまり泣きだしてしまったほどだ。

バラ・デル・コロラド野生生物保護区に設置されているカメラには、ジャガーが写った

さらに、コスタリカの各地に77個のカメラを最低でも30日稼働させる予定で、2015年12月末までに大部分のカメラの設置を完了した。乾季の間の2016年4月まで、場所を移しながら撮影を繰り返す予定だ。それにより、ジャガーなどの希少な種の分布域が特定される。さらに、コスタリカでは絶滅したのではないかと言われるオオアリクイの姿がもしも写ったら、プロジェクトにとって大きな成果となりえると期待が膨らむ。

今後もこの活動を進めるにあたり、写真やビデオを撮るだけではなく、研究者やNGOが行っている調査やその結果を共有し生物多様性保全に活用していくこと、さらには、この新しい活動を国のプログラムとしてしっかり根付かせていくことを目指す。そして、そこで得られた経験と知見を、コスタリカから世界に発信していく予定だ。