エボラ流行最前線で戦った対策担当者が来日——使命感で走り抜けた9ヵ月、リベリアで情報収集と発信を担ったバオさん

2016年3月4日

エボラ流行時にデータ収集と発信を支えたバオさん

JICAは1月18日〜28日、リベリア、ガーナ、イラクなど11ヵ国から16人が来日し保健衛生政策の向上について学ぶ研修を実施した。

うち、2015年5月9日に世界保健機関(WHO)が終息宣言を出したリベリアからも研修員が来日。保健省の中のモニタリング評価、研究・保健情報、計画・研究開発の3ユニットを束ねる統括官のルーク・バオさんもその一人だ。バオさんは、エボラ流行時に、リベリア中からのデータ収集と、関係者への情報発信を担った。

エボラ出血熱の流行後、リベリア国内では180人近くの医療従事者を失う事態となり、疾病に関する正確な情報の不足や、医療従事者のコミットメントとモチベーション維持の難しさなどから保健システムが崩壊。その状況を目の当たりにしたというバオさんが、日本の保健人材育成の制度や工夫を学びたいと意欲的に臨んだ研修の成果と、今後の目標とは。

エボラ出血熱流行のデータ管理体制を確立

2014年初めから流行が始まった3ヵ国

リベリアで最初の感染が確認されたのは2014年3月。初期症状からマラリアと判断され必要な対応が遅れ、1ヵ月もたたないうちに感染が拡大した。また、国内にエボラウイルス感染を確認できる機関がなく、隣国に検体を送る必要があったため、感染者の特定にも時間を要した。

家族やコミュニティーの結びつきが強く、近親者が感染者に直接、接触する機会が多いこと、死者の体を洗ってから埋葬する風習など、感染拡大には、複数の要因があった。

リベリア国内での流行が確認された当初は、どの地域でどれほどの人数が感染・発症・死亡しているのかなどの情報が正確につかめておらず、的確な対策を講じられない状況だった。

各機関からの情報がバオさんの部下を通じて、バオさん(右上)に集約された

そんな中、バオさんは、全国の病院などから保健社会福祉省に届く陽性者、死者などについての情報を集約し、関係者に毎日発信。対策を行う医療機関や支援ドナーなどはそのデータに基づいて次に緊急対応が必要な地域・内容などを決定できるようになり、より的確な支援が可能になった。

深夜までかかって情報を集めて関係者に送付し、翌日も朝から緊急対策室で対応に追われる激務が、9ヵ月間も続いた。心身ともに過酷な状況でもエボラ対策の最前線で走り続けることができたのは、「誰かがやらなければならない」という使命感だったと振り返る。

バオさんがWHOなどの支援を受けつつ確立したモニタリングの仕組みは、リベリア国内の感染症モニタリングのため継続して活用されている。バオさんが毎日、積み重ねた情報収集と発信はまた、巨額の資金や物資が動く緊急支援時の不正防止にも大きな役割を果たしたという。

国際機関の協力のもと政府が準備した、エボラについて周知するボード

教育や啓発も、感染の拡大抑止に大きな役割を担った。対策には、感染の疑いがある場合はすぐに医療機関を訪れることや、感染死亡者の遺体は専用のボディーバッグに密封し火葬することなどが肝要。これらをコミュニティーや学校などを通じて理解してもらい実行につなげるよう求めた。特に火葬については伝統にそぐわないとの反発もあったが、徐々に理解が広がっていった。

感染者が出た場合、その感染者と接触のあった人に連絡があり、21日間の隔離措置が取られ、感染が確認されなければ通常の生活に戻るという対応で二次感染による拡大を防いだ。

さらに、感染拡大当時は隣国でしかできなかった感染検査も、今では国内の多くの機関で可能となり、24時間以内に判断できる体制が整っている。

ビジョン共有しより良い保健体制の構築を

リベリアでのエボラ出血熱流行の初期には、疾病に関する正確な情報も不足していたため、医療従事者や対策関係者の中にも感染を恐れて出勤しないスタッフも多かったという。このため、リベリアの保健分野のリーダーたちにとっては、緊急時の強いコミットメントや部下のモチベーション維持などが大きな課題となっている。

研修では、地域の医療体制を支える病院も訪問し、その取組について学んだ

バオさんは、「東日本大震災後の早期に復興を進めた日本では、保健医療従事者のコミットメントや、コミュニティーの結びつきの強さなどが貢献したと聞いている」とし、今回の研修ではその経験に学びたいと考えていた。

研修を終え、日本が「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、注1)」を達成できた背景に、国民がみな同じビジョンを共有していることが大きな要因としてあり、そこにはリーダーシップや一人一人の意識も重要なことが分かったと語る。また、日本の産業界や医療界などで広く適用されている「5S(注2)」「KAIZEN(注3)」やなどについても知識を深めた。

保健システムを支え続ける使命を全う

バオさんは、もし今後、再びリベリアで感染が確認されることがあったとしても、関係者には十分な経験もあり、また2014年3月の感染拡大時と比べ必要な体制が整っていることから、状況をコントロールできるとの見通しを示す。

バオさんはまた、「確かな情報が、次にすべき行動を決定する」という学びから、あちこちから集積される情報を統合し活用できる保健情報システムが必要と指摘。加えて、疫学や衛生統計学なども含む公衆衛生分野の人材育成も重要だと考えており、これらの実現につながるよう、これからもリベリアの保健システムを支え続けていく。

(注1)「すべての人が、健康増進・予防・治療・機能回復にかかる基礎的な保健サービスを、必要なときに負担可能な費用で受けられること」を示す概念。
(注2)整理、整頓、清掃、清潔、しつけ。日本の製造現場から発展した職場環境の改善と業務の効率化を図る取り組み。
(注3)主に製造業の生産現場で行われている「作業の見直し活動」のことを指し、海外にも広く普及している。