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「柔の心を伝えたい」青年海外協力隊がつなぐ五輪金メダリストとブータン――ブータン唯一の柔道チーム来日、古賀稔彦さんが稽古【前編】

2016年4月1日

ブータン国内に1ヵ所だけの柔道場で学ぶ中高生7人が、柔道大会への出場や両国の友好親善を目指して3月3〜15日にわたり来日。柔道の総本山「講道館」などでの稽古(けいこ)や、文化体験・交流プログラムを意欲的にこなした。

8日には、ブータンの柔道振興に協力しているバルセロナ五輪(1992年)の金メダリスト古賀稔彦さんが塾長をつとめる道場「古賀塾」で、日本人の子どもたちと共に稽古に臨み、本場の稽古の厳しさを体験。ブータン柔道のレベルアップにつながる貴重な機会となった。

【画像】

民族衣装で道場を訪問

ヒマラヤ山麓の道場から発祥の地、日本へ

マットの上での稽古(ブータンの道場)。やわらかいため足が沈み、けがの原因にも

古賀塾での稽古が実現したきっかけは、ブータンで柔道を指導する青年海外協力隊員、堀内芳洋さんが送った企画書。ブータン唯一の柔道場で中高生を中心に70人ほどを指導している堀内さんは、標高約2,300メートルという厳しい環境にありながらも柔道に励む子どもたちの夢であった日本遠征を柔道界のスーパースター古賀さんに相談し、今回の訪問が実現した。

ブータン初の柔道場は、柔道家の父を持つ片山理絵さんが、ブータン人の夫カルマ・ドルジさんとともに2010年に創立した学校の敷地内に建設したもの。ブータンに柔道が紹介されたのはこの時が初めてで、ブータン柔道の歴史は始まったばかりだ。

ブータンに柔道の礎を築こうと、2014年7月から柔道指導の初代隊員として赴任した堀内さんだが、いくつもの課題に直面した。日本の学校ような部活動の習慣もなく、一つのスポーツを継続して極めていく習慣や、プロスポーツで生計を立てる例もほとんどないため、「スポーツに打ち込むことが勉強の妨げになるのでは」という考えの親が少なくない。そんな中で、柔道とは、礼儀や規律、相手を思いやる心を育み、人間としても成長できる「武道」であることを伝え、親を説得していくことが最初のハードルだったという。柔道場の設立から5年、柔道に対する理解も広がり、毎日欠かさず稽古を続ける子どもも増えてきた。

そこで次に課題となったのは、競技力の向上だ。国内に柔道クラブが一つしかなく対戦相手がいない。そこでバスで行くことのできるネパールへの遠征を実現した。首都カトマンズで行われた柔道大会に選抜メンバー11人が参加し、4つのメダルと最優秀選手賞(男子)も獲得する大活躍。参加した子どもたちがネパールの選手たちに刺激を受け、柔道に取り組む姿勢が変わってきたのはもちろん、参加できなかった子どもたちのモチベーションアップにもつながった。そして、ぜひ「柔道の生まれた国、日本へ」と今回の遠征が企画された。

日本とブータンをつないだ「精力善用」「自他共栄」の精神

「もっと多くの若者(日本人柔道家)に海外で柔道の魅力を伝えてほしい」と語る古賀さん

古賀さんは、堀内さんからの相談を受け、ブータンに柔道を根付かせようとしている「熱い」日本人がいることに心を動かされ、すぐにメッセージを返したと振り返る。

また、畳ではなくマットの上で稽古していることを聞き、畳を贈ることを決意。関係者に呼び掛けたところ、株式会社前田畳製作所(兵庫県神戸市)とオージー技研株式会社(岡山県岡山市)が協力を快諾。2月には古賀さん自身がブータンを訪れ、約100枚の真新しい柔道畳を寄贈、自ら柔道指導も行った。

柔道の稽古は、礼に始まり礼に終わる

両国の子どもたちを指導する古賀さん

柔道には、自分のエネルギーを良い方向に使う「精力善用」、自分の力を人のために使い助け合う「自他共栄」という考えがあり、その教えに則して自分にできる協力をしただけと話す古賀さん。堀内さんが「ブータンの子どもたちのために」と尽力している思いとその行動力に魅力を感じ影響を受けたとも語る。

古賀さんはまた、指導者としての堀内さんについて、「基本を大切に教えている」「自分の経験だけに頼るのではなく、トップ選手の試合などを繰り返し研究し、子どもたちにもそれを見せている」ことから、「日本の柔道を正しく伝える使命と責任を持って指導している姿勢がわかる」と評価している。