【命と健康を守る国際協力】ケニア、全国民への保健サービス実現を目指す——借款と技術協力で包括的に支援

2016年5月19日

円借款契約の調印式

JICAは昨年8月、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成のための保健セクター政策借款」でケニア政府との借款契約に調印した。借款に加え、専門家の派遣や日本へのスタディー・ツアーも組み合わせ、全国民への保健サービスの実現を目指すケニア政府を、JICAが包括的に支援している。

誰もが保健サービスを受けられる社会に

保健財政戦略の策定会議

スタディー・ツアーでは日本の民間病院も視察

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、すべての人が適切な保健サービスを必要なときに支払い可能な費用で受けられることを指す。

日本政府は2013年に策定した「国際保健外交戦略」および後継となる「平和と健康の基本方針」の中で、開発途上国におけるUHCの実現に向けた支援を盛り込んだ。また同年の「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」では、ケニアを含むアフリカ諸国のUHC実現に貢献する方針を明らかにしている。

JICAはあらゆる側面からアフリカのUHC実現を支援しているが、ケニアと締結した、UHC実現を目指す円借款は、アフリカでは初めて。

ケニアは、2000年以降、HIVやマラリアなどの予防・対策や、乳児・5歳未満児の死亡率には大きな改善がみられる。一方、妊産婦死亡率は、10万出生当たり490だった1990年から、2013年に362と、改善はみられるが、ミレニアム開発目標には大きく届かなかった。また、地域間、経済水準による保健サービスの格差が大きく、その是正と、貧困層を中心とした医療保障の拡大が急がれている。そこでケニア政府は、保健政策で2030年までのUHC実現を目指すと盛り込んでいる。

こうした背景から、JICAはケニアのUHC実現を支援するため、円借款の供与を決めた。今回の借款は、優先順位の高い政策アクションの達成を確認した上で、一般財政支援の形で借款を供与する「政策改革支援型」。

優先順位の高い政策アクションとしては
1) UHC関連の各種政策文書の作成
2) 無償産科サービス、貧困層の健康保険加入促進、コミュニティに最も近い診療所への成果連動型交付金の導入などUHC関連プログラムのマニュアル作成とケニア政府予算の確保
3) 地方政府を主体とした保健システムの強化
——の3項目が挙げられている。

これらの達成を後押しすることで、地方レベルで必要不可欠な保健サービスが拡充され、ケニア経済の安定と社会開発の促進を目指す。特に、無償産科サービスなどを通じて妊産婦や乳児の健康が守られ、妊産婦死亡率の引き下げにつながることが期待されている。

JICAではまた、2013年からケニア保健省に専門家を派遣し、UHC分野の政策制度設計を支援。誰もが適切な保健サービスを受けることができる制度作りを後押ししている。

さらに、ケニア保健省の行政官に加えて、国会議員、郡知事および地方行政官、民間の人材を日本に招へいし、日本のUHC達成の過程や経験につき学ぶスタディー・ツアーを実施した。

地方分権化の流れの中、個別プロジェクトもからめ相乗効果狙う

健康や衛生環境について話し合う住民集会

身近にある材料で作ったコミュニティの「手洗い設備」。後ろは共同トイレ

ケニア政府は2006年、「自分の健康は自分で守る」をスローガンにコミュニティを中心とした保健システム強化を目指す「コミュニティヘルス戦略」を策定。だが、中核人材となるコミュニティヘルスワーカーの不足や行政のマネジメント能力の不足など多くの問題が普及を妨げていた。

JICAは、戦略の普及を促進すべく、2011年から3年間にわたり「コミュニティヘルス戦略強化プロジェクト」を実施。保健省の担当官がコミュニティごとに特性が異なる状況を把握し、現場のデータや声を政策や教材などに反映させることに重点を置いた。結果、提供すべき保健サービスを定めた「標準書」やコミュニティヘルスワーカーやボランティア向けの研修カリキュラムや教材などが完成し国の標準文書として認定された。

コミュニティヘルス活動の現場では、施設分娩の件数や整備されたトイレの数が増え、予防接種率が上昇するなどの成果が見られた。また戦略の実施主体となるコミュニティユニットの数も、プロジェクト開始前の2010年10月時点で約1,300ヵ所だったが、プロジェクト終了時には約3,000ヵ所に拡大した。

このプロジェクトの終盤、2013年に保健サービスの主体が中央政府(保健省)から地方政府に移管。2013年7月スタートの新年度から、保健予算の6割が各地方政府に直接配分されるようになり、予算の使い方は地方政府に委ねられている。地方ごとの特性に沿った予算執行が可能になる一方、地方政府保健局の能力の強化が急務となっている。

こうした変化を受けJICAは、地方政府保健局の能力強化と、地方政府間・地方政府と中央政府間の連携強化を目指すプロジェクトを2014年から開始し、支援を継続している。

冒頭に紹介した借款と、これら個別のプロジェクトをリンクさせて相乗効果につなげ、世銀などほかのドナーとも協調しつつ、地方分権の流れの中でUHC実現を目指すケニア政府の取り組みを、あらゆる側面から支援し続ける。

2030年のUHC実現に向けて

ケニアでも母子手帳を導入し母子保健の向上を目指している

主要な政策アクションの一つ、健康保険補てんプログラムに加入した住民

日本では職業や就業形態にかかわらず、ほとんどの人が健康保険に加入し、国民皆保険を達成しているが、ケニアでの公的健康保険への加入率は20パーセント弱にとどまっているといわれる。貧困問題やインフォーマルセクターで働く人が多いことなど問題は複合的だ。

中でも喫緊の課題とされている妊産婦の死亡については、医療保障制度が整っていない影響も大きかったことから、2013年に無償産科サービスの導入が図られた。また、妊産婦死亡の95パーセントほどが、47あるカウンティ(郡)のうち15カウンティで発生とのデータもあり、妊産婦死亡は辺境地域で多発している。医療保障制度の整備、加入促進に加え、辺境地域での医師や看護師などの保健人材の確保や医療サービスの質の確保についても同時に対応していく必要がある。

JICAはこれからも、日本の経験や知見を余すことなくケニアに伝え、ケニアにとって最適なUHCの形を考え作り上げていくプロセスを、財政、技術などあらゆる側面から支援していく。