南アジア初の統一「民法典」をネパールに——草案作成からJICAが支援、年内の可決成立を目指す

2016年5月23日

「民法案2014」

10年間に及ぶ内戦が2006年に終結して、ちょうど10年がたつネパール。昨年9月には新憲法が成立し、新しい国造りを進めるそのネパールで、民法、刑法など主要5法が年内にも可決・成立する見通しだ。

JICAは5法のうち、2009年から民法の起草を支援。JICAにとって南アジアで初めての本格的な民法支援となった。この法案は、すでに議会に提出され、議会内に設置された立法委員会にて検討が始まっており、早期の成立が期待されている。法案は6章743条から成り、成立すればネパール最大の法典で、同時に南アジア初の統一的な民法典となる。早ければ、日本とネパールの国交樹立60周年の今年、この民法の成立を見届けられるかもしれない。

新憲法のもと、主要5法を新たに議会で審議へ

昨年4月25日には大きな地震に見舞われるなどしたが、9月20日に憲法が成立・公布となり、新しい国造りの法的基盤を築きつつあるネパール。

憲法の制定のため設置されていた「制憲議会」が、憲法成立後に「立法議会」に移行。今後は、この議会ですでに法案として提出済みの
1) 民法
2) 民事訴訟法
3) 刑法
4) 刑事訴訟法
5) 量刑法
の審議を控えている。議会内の立法委員会で、年内の本会議への送付と可決成立を目指して、現在集中的な検討が行われている。

ネパールには、ヒンズー教の影響が大きく道徳規範なども含む、1853年(注1)に成立した「ムルキ・アイン」という法典があり、同時成立を目指す5法の内容のすべてに関わるものとなっている。ただ、近年の科学技術や経済の発展など社会の変化に対応できていないため、特別法で対応している項目などもあり、新しい国造りの中でムルキ・アインを廃止し、5法を成立させる運びとなった。

そこで、民法については、ネパール社会の習慣や文化などを尊重しつつも現代社会にも適応し、国際標準も満たす「近代的な民法典」の制定を目標に、ムルキ・アインをはじめ特別法などを整理統合し、いくつかの新制度を加える形で草案が作成された。

民法の草案作成から成立に向けた支援まで包括的に協力

来日時の関係者一同。今後も引き続き共に活動していく

来日中のネパール関係者とアドバイザリーグループとの集中協議

JICAでは、ネパール政府が設置した民事法改正・改善タスクフォースによる民法草案作成を、2009年4月から、日本国内の民法学者などから成るアドバイザリーグループ(注2)と、現地派遣の専門家を通じて支援した。

民法草案の作成作業は、2010年に終了。「民法案2010」として制憲議会での審議が始まっていた。しかし、2012年にいったん制憲議会が解散となったため、「民法案2010」は審議未了のまま終わることとなった。

2014年1月に第二次制憲議会の発足が決まったことから、2013年12月に「民法案2010」の議会提出に向け修正作業を開始。議会発足後の2014年8月に修正作業が終了し、首相・内閣に提出。12月には「民法案2014」として、再度議会に提出された。

昨年の憲法成立を受けて、現在は議会内の立法委員会を中心として、民法成立に向けた動きが本格化している。具体的には、ネパール各地で裁判官、検察官、弁護士、行政官をはじめ、市民やNGOなどの意見を求める「パブリックコンサルテーション」を20回近く開催する。また、法案が国際標準に達しているかなどについての国際専門家によるレビューは、立法委員会の依頼の下、JICAのアドバイザリーグループが担当する予定だ。

JICAの支援の一環として、今年4月10日〜17日には立法議会議員や司法省官僚などが来日。アドバイザリーグループと集中的なディスカッションを行い、現行法案に関する理解を深め、法案最終化に向けてさらに検討すべき事項を見いだした。法務省民事局や東京地方裁判所、衆議院法制局なども訪問し、日本における法律制定過程や民法成立後の施行・運用に向けた知見を得た。

幅広い情報を共有し国造りの選択肢に

参加者との協議に対応する松尾弘慶応義塾大学教授(右)と長尾専門家(左)

ネパール南東地域で実施されたパブリックコンサルテーション(2016年3月)

JICAの民法支援は90年代から、ベトナム、カンボジアなど主に東南アジアで長い実績を持つ。それぞれの国が有する社会的背景にも配慮し、日本の制度はもちろん、日本以外の規定でも有効と思われる情報を幅広く共有し、国造りを進める国自身が最適と判断したものを選択できるようにすることがJICAの法整備支援の強み。

現在、ネパールで活動する長尾貴子専門家は、「ネパールの人々がどう考えているか」が最も重要という。日本基準で考えて良いと思うことと、ネパールにとって必要なことの共通点や相違点を的確に把握し、最良と思われる方向を探していくバランス感覚なくしては成しえない支援に、日々、まい進している。

成立への道筋が見え始めたネパールの民法案。主体となって法案を作成したのは、もちろんネパールの法曹、司法省などの専門家だが、彼らが選択に迷ったとき、JICAの支援にかかわった関係者たちは、有効と思われるあらゆる情報を提供し、これからのネパールにとってどの選択肢が最良かを共にとことん考え支えてきた。

その共同成果品ともいえる南アジア初の統一「民法典」が成立するまで、またその後の運用についての支援も視野に、今後もJICAでは、ネパールの新たな国造りを支えていく。

【画像】

(注1)「ムルキ・アイン」の公布年については1854年とする文献もある。
(注2)松尾弘慶応義塾大学教授、南方暁創価大学教授、木原浩之亜細亜大学教授、法務省法務総合研究所国際協力部教官がアドバイザリーグループメンバー