名古屋からJICAの環境社会配慮の取り組みを世界に発信——日本で初開催の「国際影響評価学会世界大会(IAIA16)」で

2016年5月24日

JICAが主催したフォーラムには高い関心が寄せられた

5月11日〜14日、愛知県名古屋市の名古屋国際会議場で80ヵ国から約800人が参加し「2016年国際影響評価学会世界大会(IAIA16)」が開催された。1980年に設立された国際影響評価学会は、120以上の国・地域からの会員で構成される環境や社会に対する影響評価の分野で権威ある国際学会。今回が36回目の世界大会で、日本での開催は初めてだった。

JICAはこの機会をとらえ、これまでの環境社会配慮分野の取り組みを発表すると共に、ほかの開発援助機関との協調の枠組に合意。これまでの、そして今後の積極的な取り組みを世界に発信した。

カンボジアとミャンマーにおけるJICAの取り組みを紹介

カンボジアでの住民移転の取組を報告するチャンコサール長官(左)と山下氏(右)

2015年9月に採択された「持続可能な開発目標(SDGs、注1)」では、「経済・社会・環境の3つの側面への統合的な対応」「人々を中心とし、誰も取り残されないこと」が重視されている。

これは、まさにJICAが事業を実施する際に行ってきた環境に対する影響の回避や低減、そして影響を受ける住民への補償や生計回復支援など「環境社会配慮分野」での取り組みと方向を同じくするものだ。

そこで、IAIA16初日の5月11日には、JICA主催で「影響評価に関するキャパシティ・ディベロプメントのためのJICA協力」と題するフォーラムを開催。ここでは環境社会配慮分野におけるJICAの取り組みのほか、特にカンボジアとミャンマーにおける技術協力プロジェクトについて発表し、会場との意見交換も行った。

カンボジアからは、カンボジア公共事業運輸省のトウ・チャンコサール長官と、カンボジアでの用地取得や住民移転分野のJICAによる能力向上支援に長年取り組んできた山下晃氏が登壇した。

チャンコサール長官は、カンボジアで適切な住民移転を進めるには、
1)減価償却分を減額しない再取得価格に基づく補償
2)住民参加
3)苦情への適切な対応
4)移転地の適切な整備
——の4点が極めて重要であると指摘した。

また山下氏は、住民移転の実施に際しては、適切な住民移転計画の作成が極めて重要で、その策定のためには政府機関が適切な知識や経験を有していることが不可欠であると強調した。

ミャンマーでの環境影響評価の取組を報告するリン次長(左)と臼井専門家(右)(写真提供:国際開発ジャーナル社)

ミャンマーからは、ミャンマー環境保全林業省環境保全局のセイン・トゥン・リン次長と、現在JICAプロジェクトで同局への環境影響評価に関する技術支援を行っている臼井寛二専門家が登壇。リン次長は、アジア開発銀行やJICAによる支援を通じて、環境影響評価に関する法律や制度がミャンマーでも近年着実に整備されつつあることを紹介した。一方で、その運用を担う政府職員の理解や能力の不足が課題だと指摘した。

臼井専門家は、2015年5月から2018年4月までの予定でJICAが実施している「ミャンマー水環境管理及び環境影響評価制度の能力向上プロジェクト」の取り組みについて報告。同プロジェクトを通じて、リン次長が課題と指摘した政府職員の能力向上をはじめ、法制度整備、知識の蓄積や共有などに取り組んでいることを紹介した。

130人余りの参加者を得た会場からは、JICAの能力強化支援への強い期待が示された。また、JICAによる環境社会配慮の取り組みが日本の国内制度にも応用可能なのではないかとの意見や、環境社会配慮がカバーする範囲についての質問があるなど、多大な関心を集めた。

ほかの援助機関との連携の強化

協調枠組文書の署名式でスピーチする神崎理事(写真提供:国際開発ジャーナル社)

JICAは今回のIAIA16開催に当たり、後援団体として、さらには実行委員会の一員としても開催を強力に支援。開催中は、ほかの援助機関などが主催するセッションや報告にも積極的に参加・協力し、多様なパートナーとの連携強化に取り組んだ。

5月12日には、アジア太平洋地域における環境社会配慮分野の能力強化の取り組みを発信する「アジア・デイ」セッションが、世界銀行の主催で開催され、JICAからも神崎康史理事が出席。このセッションで、JICAは世界銀行、アジア開発銀行、オーストラリア外務貿易省の3機関との間で、アジア大洋州地域における借入国のセーフガードシステム(注2)の強化に向けた緩やかな協調枠組文書に署名した。

SDGsにおいてもグローバル・パートナーシップの重要性が強調されており、世界的にインフラ整備が一層加速していくことを考えると、環境社会配慮分野においても、JICAのみで取り組むのではなく、開発援助機関が連携して途上国の能力向上支援に取り組むことが効率的・効果的だ。JICAは、これまでも連携強化に向けて世界銀行やアジア開発銀行をはじめとするさまざまな開発援助機関と協議を重ねてきており、JICAのこれまでの働きかけが実り、今回の署名となった。

JICAはこのような国内外での環境社会配慮分野の重要性の浸透と期待の高まりを踏まえ、IAIA16で発表したカンボジアやミャンマー以外の国や地域における能力向上支援やほかの開発援助機関との連携策について検討中だ。


(注1)2015年9月に採択された、2030年までの15年間を実施期間とする開発目標で、17の目標と169のターゲットが定められている。
(注2)環境社会配慮に関する各国の法制度などのこと。