アフガニスタンの「国創り」担う人材、中村医師から「山田堰」の技術を学ぶ——現地の国際NGO代表が経験交え知見を共有

2016年7月20日

強い水流をやわらげながら用水路に水を導く構造の山田堰

アフガニスタンで、医療、給水、農業などの支援活動を長年続けている中村哲医師が発起人となり、日本の伝統的な治水・灌漑(かんがい)技術について学ぶ研修が、6月25日〜26日に実施された。

中村医師は、日本のNGO「ペシャワール会」が支援するアフガニスタン現地の国際NGOピースジャパンメディカルサービス(PMS)の代表を務めている。

PMSの診療所があるアフガニスタン東部地域では、日本の国指定史跡「山田堰(ぜき)」や「三連水車」を参考にした灌漑事業の実績がある。その経験を日本で学ぶアフガニスタン研修員に伝えたい、との中村医師の思いが、今回の研修につながった。

水・エネルギー省副大臣も注目する研修が実現

JICAはアフガニスタンで、経済成長や民生の安定化、人材育成に貢献する事業を展開している。中でも、アフガニスタンの「国創り」を担う人材の育成のために11年間で最大750人を日本の大学院に受け入れる「未来への架け橋・中核人材育成プロジェクト(PEACE)」を2011年から実施。現在269人の研修員が修士または博士の学位取得を目指して、日本で研究に取り組んでいる。

専門は多岐にわたるが、農業にかかわる分野を専攻している研修員も多い。それを知った中村医師が、「ぜひフィールドで技術を学んでほしい」と発案し、今回の研修が実現した。研修員の指導教員にもアフガニスタンをもっと知ってほしいとの思いから、日本各地の大学の指導教員も参加した。

積極的に意見交換する中村医師(左)とファヒーム副大臣(右)

また、研修の実施を知った水・エネルギー省のファヒーム・ジアイー副大臣も参加を切望。研修日程に合わせた来日が叶った。関心の輪はさらに広がり、アフガニスタンで灌漑の開発事業を推進する世界銀行とJICA共同のスタディーツアーに発展。世銀の「灌漑修復・開発プロジェクト(IRDP)」の関係者も参加し、アフガニスタン支援のドナーが一体で取り組む研修となった。

ファヒーム副大臣は、JICAのPEACE事業が、アフガニスタンのこれからの「国創り」に貢献する人材を育てる重要な事業であり、PEACE卒業生の政府内での有効活用の重要性に言及。今後の発展に向けて、日本での研修期間に、より一層、努力するよう研修員に強く呼びかけた。帰国後には、共にアフガニスタンのために貢献してほしいと大きな期待を寄せている。

今回の研修ではまた、IRDPとも連携しアフガニスタン全土の水文・気象情報の整備を進めているJICAのプロジェクト「水文・気象情報管理能力強化プロジェクト(HYMEP)」について、専門家の事業紹介も行われた。

アフガニスタンでは、IRDP事業がアフガニスタン全土に230もの観測所設置を支援する計画と連動し、HYMEP事業がこれらの観測所で計測されるデータの整備・分析の支援を展開。まさにソフト・ハード両面からの支援を、世銀とJICA、2つの開発機関が連携して実施している。

日本唯一、江戸時代の技術がアフガニスタンを緑豊かな土地に

中村医師の説明に熱心に聞き入る研修員ら

山田堰から取水した水を利用した農地・用水路も視察

山田堰を経て流れ込んだ水を水田に届ける三連水車

福岡県朝倉市にある山田堰は、日本の三大暴れ川に数えられる筑後川の中流に位置する、水田に水を引く灌漑設備。水の流れに対して約20度の角度を持った堰(せき)を造ることで、高い水圧を緩和するなどの治水機能が特徴の「傾斜堰床式石張堰」と呼ばれる日本で唯一の方式を導入している。

江戸時代の1790年に築造されたもので、以来、数度の改修工事を経て今なお、約484ヘクタールの水田を潤し続けている。大掛かりな機材がなくても造ることができ、生態系への影響も少ない。

山田堰と同時期には、地元住民が工夫を重ねて築造した三連水車1基と、二連水車2基も完成。現在も当時と変わらぬ自動回転式の水車が稼働し、山田堰から支流に流れ込んだ水を、35ヘクタールの農地に届けている。

中村医師は、アフガニスタンで医療支援を行う中、日常生活や農業を支える水の必要性を痛感し、井戸を掘る支援も数多く実施してきた。ただ、干ばつと洪水を繰り返す気象状況のため安定した水の調達は実現できず、参考になる技術を探していた。

福岡県久留米市出身の中村医師。日本各地の灌漑施設を見て歩く中で、同じ福岡県内の山田堰と水車に巡り合った。九州では、洪水や、河川水量の増減幅の大きさなど、治水に苦労してきた経験があり、アフガニスタンの状況と重なるところも多い。「これならアフガニスタンにも適用できる」と確信したという。

PMSの灌漑事業に山田堰の方式を導入し、2003年から現在までに6ヵ所で計31.27キロの灌漑用水路を築造し、1万6,500ヘクタールもの農地を灌漑農地として回復させた。草地すらなかった地域に、現在では、広大な麦畑と牧草地が広がっている。

アフガニスタンで実際に導入されている山田堰と水車の技術を実際に目にした研修員は、大型の重機がなくても造ることができ、水車の稼働には電気などの動力も不要であることに驚いていた。「工夫次第でこの技術を祖国に広めていける」と語り、今後につながる研修になった。

祖国のために悩み、アフガニスタンにとっての最善策を見つけて

強い意志でアフガニスタン支援を継続している中村医師の話を聞き、研修員からは「強い決意で一生懸命に活動することで、どんなに難しいことも成し遂げられる」「日本人の中村医師がアフガニスタンのために尽力してくれている。自分も祖国アフガニスタンのためにもっと貢献しなくては」などの感想が多く聞かれた。

アフガニスタンでも導入が可能な治水・灌漑技術を知ることができただけではなく、中村医師の取り組みを通して、研修員の心に大きな影響を与える研修になったようだ。

中村医師は、アフガニスタンに帰国したらこんな風にやっていきたいという思いを、研修員それぞれが持っていると感じたという。「最初からパーフェクトを求めるのではなく、実践的に取り組みながら試行錯誤し、アフガニスタンの人々自身が考え、悩む中から最善策を見いだし、自信をつけていってほしい」と、研修員に熱いエールを送る。

PMSとJICAは現在、ナンガルハール県ジャララバード近郊で新たな灌漑システムの改善プロジェクトを実施している。2016年9月ごろに完工を予定しているこの事業では、約4万人の人々が、新たに灌漑農地で農業ができるようになる見込みだ。

豊富な現場での支援経験を有する中村医師が代表を務めるPMSの事業。アフガニスタンの将来の「国創り」を担う人材育成を目指すPEACE事業。アフガニスタン全土の水文・気象情報の整備を進めるHYMEP事業。今回の研修のように、各事業の相互理解を深めることのできる機会を最大限に有効活用しつつ、一体となって、今後も総合的にアフガニスタンの発展を支援していく。