ボスニア・ヘルツェゴビナ、日本と国交20周年――JICAの民族融和につながる支援はこれからも

2016年10月28日

国境近くの幼稚園。紛争下では対立していた民族の子どもたちが、今は仲良く並んでお絵描き

ボスニア・ヘルツェゴビナは、主に3つの民族(ボシュニャク(ムスリム)、セルビア系、クロアチア系)で構成されるが、1992年、独立をめぐって民族間の対立が勃発。3年半以上にわたる紛争で、死者20万人、難民・国内避難民200万人という甚大な犠牲を出した。

1995年12月の和平合意成立で紛争に終止符が打たれ、紛争被害からの復興と、民族間の融和に向け、国際社会の支援も得ながら進んでいるところだ。

日本は和平合意の翌年に国交を樹立し、今年20周年を迎える。JICAは、国交樹立の1996年には支援に向けた調査を開始。さまざまな分野のプロジェクトを通じて民族融和につなげる協力を展開している。

激戦地モスタル市、IT教育の統合を通じ「民族越え共に学ぶ」を実現

民族の異なる生徒同士が、協力してホームページ作りを行う

モスタル市のシンボルの橋「スタリモスト」は世界遺産にも登録されている

これまで、主要3民族は民族ごとに異なるカリキュラムをもとに教育を行ってきた。そのなかで、JICAが10年を超える長期間にわたり支援している「IT教育」では、異民族同士の教育統合が実現しつつある。

ITという新しい技術分野だからこそ、歴史や文化の影響が小さく、3つの民族生徒たちが同じ教室で共に学習することが可能になった。異民族の教諭同士のネットワーク形成も進む。

JICAでは紛争の際に激戦地となったモスタル市にある普通科高校を対象とし、2006年から開始したプロジェクトを皮切りに、現在では全国の高校を対象に広げ、国内すべての普通科高校と普通科コースを持つ総合高校でのIT教育の標準化を支援してきた。

この成果を契機に、ほかの教科でも共通カリキュラムを作成・導入する動きが活発化しており、今後の民族融和・和平継続につながるプロジェクトだったといえる。

スポーツ通じた信頼醸成を目指す

一方で、民族間共通のカリキュラム導入が遅れ、とりわけ早急な支援が必要となっているのが、保健体育である。

ボスニアを流れるネレトヴァ川。モスタルでは川を挟んで民族別に分かれて住んでいる

そこでJICAはIT教育の経験をいかして、今年11月からモスタル市で、スポーツを通じた信頼醸成を目指すプロジェクトを開始する予定である。全国の小学校で導入する保健体育科共通カリキュラムの作成とモスタル市スポーツ協会の能力強化を支援することで、国民の一体感や民族間の相互理解の促進に貢献する。

モスタル市では、サッカー元日本代表で主将を務めた宮本恒靖氏と、FIFAマスター時代の友人たちが設立したNGO「Mali Most(マリモスト、現地の言語で「小さな橋」)」が、民族の隔てなくサッカーを楽しむ子ども達のためのサッカーアカデミーを開講しており、子どもたちにスポーツを通して仲間を大切にする心やフェアプレーの精神を学んでもらうことを目指している。モスタル市は、スポーツ協会を通じてMali Mostを支援している。

日本政府は、草の根文化無償資金協力を通じ、アカデミーの活動場所となるモスタル市スポーツ協会所有のサッカー施設を整備。10月9日には、ボスニアの外務副大臣、モスタル市長の出席の下、同施設の引き渡し式が行われた。日本から出席した岸信夫外務副大臣はスピーチで、「子どもたちには、民族の垣根を越えて友情を育んでほしい」と述べた。式の後には、Mali Mostサッカーアカデミーの子どもたちによるサッカーの試合が行われ、盛り上がりを見せた。

【画像】

写真左/子どもたちから「ARIGATO!」のメッセージ、右/式典後の試合では、民族を越えて共に楽しんだ

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地域開発支援を通じて信頼醸成と経済的な自立を推進

リンゴジュースの品評会のチャンピオン。数種類の果樹栽培の推進、加工品作りと販売を促進

またJICAは、2006年から民族間の信頼醸成と住民の経済的な自立を推進するための協力を、ボスニア東部のスレブレニツァ市で開始した。大量虐殺などが発生し、特に激しい戦場となった同市の人口は、紛争前の約3割に回復したに過ぎない。多くの人は紛争で生計手段を奪われ、農業を中心とした紛争前の経済基盤の再興が強く望まれていた。

そこで、農業・農村開発活動への住民共同参画を拡充して、異なる民族間の信頼醸成を支援。現在、農業・農村開発活動は、市全域をカバーしており、両民族で構成されるグループが自立的に多彩な協働活動を展開し、民族の融和の促進に一役買っている。

「道の駅」のコンセプトを活用して観光客のための拠点を設置

さらに、市役所ではウェブサイトや民族の垣根を超えた部署が設置されるなど、行政の情報伝達・交換にも変化が現れ始めた。

こうした3民族に対して平等に、かつ住民に寄り添った取り組みは、2012年にスレブレニツァ市から表彰を受けるなど現地での評価も高く、日本・JICAの支援への信頼は厚い。

日本が持つ高い技術と豊かな知見を活用できる分野を中心に、ボスニアの「平和の定着・民族の和解」と「環境に配慮した持続可能な経済成長」をこれからも支援し続ける。