日本発!母子手帳、グローバルスタンダードを目指して——JICA戸田上級審議役が語る「第10回母子手帳国際会議」

2016年12月2日

初日を総括する戸田上級審議役

第10回母子手帳国際会議が、11月23日から25日まで東京で開催され、母子手帳を運用している、または導入を検討している38カ国・地域から約400名が一堂に介しました。

1948年、戦後の日本で生まれた母子手帳。劇的な母子死亡率減少に貢献しました。今では世界中に広がり、各国の実情に見合ったかたちで、日本を含め毎年およそ900万人の母親に手渡されています。

「誕生したばかりの命を、家族、医療機関、行政がみんなでがんばって守る。母子手帳の一番象徴的な意義を、会議に参加した全員が意識していました。とても感動的な国際会議だったと思います」

初日の総括を務めたJICA戸田隆夫上級審議役が、3日間に渡った会議を振り返りました。そして、本会議で初公表された、グローバルな社会改革への新たなスタートとは——。

SDGsへの有効性をアピール、各国同士の学び合いの場に   

——第10回母子手帳国際会議のテーマは、「だれひとり取り残さない」。持続可能な開発目標(SDGs)(注1)の理念に共鳴したものでした。

「代読された安倍晋三首相からの挨拶、そしてJICA北岡伸一理事長からの挨拶では、母子手帳が難民にとっても有益であると明言され、シンポジウムには国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)で活動する北村尭子氏が登壇しました。また、低体重児への手帳開発についても、自身も低体重の子どもを持つ母親であるポコアポコ代表小林さとみ氏から発表があり、印象的でした。とても多面的に、具体例を持って会議のテーマを参加者全員で確認できた。つまり、「だれひとり取り残さない」ためのツールとしての母子手帳の可能性、SDGsへの貢献が可視化されたわけです」

母子手帳が母子継続ケアを可能にすると強調した萩原専門員

各国際機関のさらなる連携を呼びかけた尾崎専門員

——シンポジウムやパネルディスカッションでは、最前線の現場で活動している、JICA萩原明子国際協力専門員、尾崎敬子国際協力専門員が座長として登壇しました。

「第10回目を迎えたこの国際会議は、国際母子手帳委員会委員長を務めている中村安秀氏をはじめとする、国際保健に人生を賭けてきた人材が培ってきたネットワークの、ある意味結晶なんです。座長を務めた二人も、JICA職員ももちろんその一員です。途上国の土地で活躍してきた人たち同士の信頼関係があってこその学び合いです」

——母子手帳のデジタル化がもたらす可能性についても、参加者からの注目が集まりました。

「岩手県遠野市では、東日本大震災の際、母子手帳の電子データを保存していたおかげで、再発行した母子手帳に情報を記載することができたと、岩手県遠野市健康福祉部長の菊池永菜氏から報告がありました。
また、UNRWAの北村氏によると、難民キャンプにおける母親たちへのインタビューで、電子母子手帳は、紙の手帳を無くしたり、避難せざるを得なくなったりしたときに役に立つだろうという回答があったそうです。緊急時の備えとしての重要性が高いという実証に基づく報告でした。JICAはUNRWAと共に、ヨルダン、パレスチナにおいて母子手帳の電子化を進めています」

関連動画

ポスターセッションの様子。各国がお互いにその特徴や取組みを紹介した。(JICA市ヶ谷ビル)

——2日目、3日目にはJICA市ヶ谷ビルも会場となり、各国間で母子手帳についての取り組みについて発表があり、活発な議論も展開されていました。

「例えば、パレスチナの保健副大臣とアフガニスタンの保健副大臣がお互いに意見交換をしていました。そういった困難な状態にある国がしっかりした姿勢を見せることで、比較的恵まれている国の人たちも「もっとがんばらなくちゃいけない」と思う。お互いに刺激し合って、学び合って、世界を変えていく。そういったつながりも見られました」

日本発の母子手帳、国際標準へ! 

——『母子手帳の国際ガイドラインを作成する』。北岡理事長、及び、世界保健機関(WHO)本部母子保健局ジョアンナ・ボーゲル氏からのこの発表は、今後の母子手帳の動きに大きなうねりを起こしそうです。

「母子手帳の有用性は確かだけれど、必要なものが何か、まだその標準化はされていない。どうすればもっと世界に広がるのか、各国でより柔軟に対応するための指針となるガイドラインをWHOが作成し、JICAが支援するということです。初の公表の場となりました」

【画像】

WHOからの発表の様子。JICA支援により国際ガイドラインを作成する旨のスライドが大きく映し出された。

——母子手帳は『新しいグローバルスタンダードツール』であると、3日間の会議の成果として、閉会式で杉下智彦JICAグローバルヘルスアドバイザー(東京女子医科大学教授)により宣誓された「東京宣言」でも明記されました。

「国際的なスタンダードの中に日本発の母子手帳をという取組みが、いよいよ本格始動するのです。また、「東京宣言」の序論には『人間の安全保障』という理念について述べられています。一人ひとりの命の尊厳や生活を守るために、母子手帳を介して、人々が裨益対象としてだけではなく、開発の原動力となります。母子手帳は、そのものに価値があるわけではなく、手帳がきっかけとなって様々な立場の人々との間に、協働とエンパワーメントを生みます。そのことが改めて本会議で確認された証です」

国内外の母子手帳。母子保健の知識を結集し、よりよい社会を目指す

——次回は2018年、タイで開催されます。

「母子保健は、今後5年間のJICAの新中期計画の中でも重点課題として盛り込まれる予定です。来年タイで開催のマヒドン王子国際保健会議、世界保健総会などの重要な機会、そして2年後の次回開催を捉えて、母子手帳の普及を加速させます。
特に重視するのは、難民など、困難な状況にある人々への裨益です。すべての母子が健康に生きられる世界が実現することを目指して進んでいきます」

戸田隆夫 (とだたかお)
JICA上級審議役
京大法卒、東大新領域創成科学研究科で修士号、名大にて人間の安全保障の研究で博士号取得。平和構築室室長、バングラデシュ事務所長、人間開発部長等歴任。現職では、国際保健、人間の安全保障等への戦略的取組を推進