ASEANと日本の工学系大学が連携17年、「知の循環」で持続的な成長を支える−「AUN/SEED-Net」プロジェクト

2017年7月13日

土木や環境など工学系10分野で、ASEANの大学教員の能力向上を図り、研究成果をASEAN域内の社会・経済発展のために還元していく――。JICAは、ASEANで17年にわたり、そんな知の循環を生み出す人材育成プロジェクト「アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net:シードネット)」に取り組んでいます。

ネットワークを構成するのはASEANの工学系トップ26大学と日本の14大学(注)です。

 

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SEED-Netの4つの柱

SEED-Netには、以下の4つの柱があります。

1.「学位取得プログラム」。主にASEAN域内大学での「修士」号取得、域内大学に籍を置き日本への短期留学も間に挟みつつ博士号を取得する「サンドイッチ博士」、日本の大学での「博士」号取得など。
2.ASEAN域内共通の課題に大学間や産学連携で取り組む「共同研究プログラム」
3.学術学会開催やジャーナルの発行を通じたネットワーク強化と促進
4.セミナー開催等を通じた「産学連携プログラム」

2018年3月時点では、学位取得プログラム参加者は1,392人、共同研究は211件に達する見込みです。

学位取得後、企業で経験値を高める選択も

深刻なカンボジアの交通事情

学位取得後は、得られた経験や知見を生かし、半数以上が再び教員として学生の指導に携わっていますが、民間企業や政府研究機関などに就職する人も少なくありません。

カンボジア出身のボリス・ロンさんもその一人。現在は、日本のコンサルタント会社の社員として、母国カンボジアの首都プノンペンで高速道路開発プロジェクトの調査に携わっています。

「ASEAN域内のほかの国の学生と学んだことは大きな刺激になった」と語るボリスさん

SEED-Net奨学生としてタイで修士号を取得し、いったんは母国カンボジア工科大学の教員となりましたが、さらに高い知識を得たいと再応募、北海道大学で博士号を取得しました。

「将来は大学に戻ってカンボジアの運輸交通の改善に貢献したい」。就職は、その夢を叶えるための選択で、現場で最新の実務を学ぶことが重要だと考えたからと言います。また、日本人の仕事に対する姿勢についても、「ハードだけれど、特に仕事の質へのこだわり、工程管理については学ぶところが大きい」と、刺激を受けているそうです。

国境を越えた人のつながりで「共同研究」、第2世代も 

ヒ素拡散という大きな課題に取り組むゲオプーソンさん

地中のヒ素が地下水に溶けこむことにより、深刻な被害が出ているラオス南部。ゲオプーソンさんはラオス国立大学で教壇に立つ一方、2014年から「共同研究プログラム」で、ヒ素の拡散状況をマッピングし、安全な水供給に役立てるための研究を進めています。

「サンドイッチ博士プログラムに参加しました。九州大学で副指導教員から、きめ細かく指導いただき、地下水の分析についての技術と知識を深めることができました。それが今回の研究にとても役立っています」。

地下水調査の様子

また、SEED-Net奨学生としてインドネシアの大学の修士課程でゲオプーソンさんと共に学んだベトナム人研究者も共同研究に参画。SEED-Netを通じて培った人的ネットワークを生かした研究が実現しています。ラオスではヒ素汚染・拡散の分析例がなく、ゲオプーソンさんは現在、研究成果を学会で発表すべく準備中です。

サンドイッチ博士プログラムでの研究がマレーシアの学会で高い評価を得たンウェさん(中央)

さらに、長年のプロジェクト活動により「SEED-Net第2世代」の誕生も。新規材料を開発したり、性質や性能を追求したりする「材料工学」が専門のミャンマー出身のンウェ・ニ・ハラインさんは、SEED-Netで博士号を取得した恩師の勧めで応募したと言います。

「サンドイッチ博士プログラムでASEANの仲間たちと共に学び、日本の学生や研究者からも最新設備のもと、大いに刺激を受けることができました」。現在はミャンマーに帰国し、大学教員として、さらに次世代の学生たちへの研究指導に当たっています。

プロジェクトは次のステージへ。合同署名式を予定

大学間のネットワークの基盤強化、学位取得の継続、地域社会との連携など、段階的に進めてきた本プロジェクトは、2018年3月からフェーズ4を迎えます。各国の教育省や大学関係者らが一堂に介して行われる合同署名式が、今年11月にバンコクで開かれるASEAN教育高級事務レベル会合に合わせて開催される予定です。これまでのネットワークや実績を基礎に、日本とASEANの架け橋としてもさらなる発展を目指します。

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