放射性物質対策から遺伝資源管理まで、途上国と共に「知」を創造−10年目を迎えたSATREPS(サトレップス)

2017年8月1日

チェルノブイリ原子力発電所4号炉

今年5月、放射能に関する研究に取り組むウクライナと日本の研究者計80人がウクライナの首都キエフに集まりました。放射性物質から環境を回復させる方法をさぐる共同研究(注1)の初めての会議です。この研究は、チェルノブイリ原子力発電所事故から30周年となる2016年に実施が決まりました。記者会見には、研究代表者である福島大学の難波謙二教授、在ウクライナ日本大使館の角茂樹大使、ウクライナのオスタプ・セメラーク天然環境資源大臣らが顔を揃えました。

共同で研究し、成果は両国、そして社会に還元する 

チェルノブイリ立入禁止区域チェックポイントに立つ両国の研究者

この共同研究は、JICAの「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS:サトレップス)という枠組みで実施されています。SATREPSは、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症の分野で日本と途上国の大学など研究機関が共同研究を行うものです。この共同研究を通じて双方の研究人材を育て、成果を具体的に社会に還元すること(社会実装)を目指しています。JICAと国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が連携して、2008年度に始まりました(注2)。

ウクライナでのSATREPSによる研究成果は、原発事故対策に取り組む福島の環境回復にも生かされることが期待されています。他のSATREPS案件には、トルコにおける地震・津波の研究もあります(注3)。「地震の空白域」となっている海域の海底で地震観測などを行う研究で、これは日本で危惧されている首都圏直下型地震や東海・東南海・南海連動地震のメカニズムの解明にも役立つものと期待されています。

パラオのサンゴ礁の海での潜水調査

また、共同研究の相手先の中には、サンゴ礁の生態系解明を通じて気候変動への対策を探る取り組み(注4)のパラオ国際サンゴ礁センターのように、かつて日本が設立に協力した機関もあります。

開発協力の新しい形をつくりSDGs達成にも貢献 

メキシコから日本への遺伝資源の分譲承認第1号となったハヤトウリ

取り組みのなかには、一見目立たないながらも、世界の将来を大きく変える可能性のあるものもあります。医薬品の開発や農作物の品種改良に欠かせず、「21世紀の戦略資源」とも呼ばれる生物の遺伝資源の管理にかかるメキシコとの共同研究(注5)もその一つで、具体的な成果も出ています(注6)。

ウクライナ案件の研究代表者、福島大学の難波教授はSATREPSについて、「SATREPSがなかったら、ウクライナの12もの研究機関が参加するこれほど大規模な研究の体制は組めなかった。国際機関や他の国も注目する原発事故後の環境管理およびそれに関連する研究について幅広い視点で取り組んでいきたい」と語ります。

今年10年目を迎えたSATREPS。これまでに採択したプロジェクト数は125件、実施国は47カ国。国内外の学術誌に掲載された論文は2,500件以上、学会発表は8,000件以上で、研究に関連し50件に及ぶ特許を出願しています。

JICA国際科学技術協力室の下田透副室長は「今後、さらに開発と研究の連携を深め、開発協力や持続可能な開発目標(SDGs)に科学技術が貢献するアプローチを探したい」と話しています。この一環として、8月28日にはJICA市ヶ谷で、公開の「科学と開発をつなぐブリッジ・ワークショップ」が開かれます。

(注2)感染症分野の研究課題は2015年度より日本医療研究開発機構(AMED)に移管された(2014年度までに終了した課題を除く)

(注6) 生物多様性条約・名古屋議定書に基づき、筑波大学が植物遺伝資源であるハヤトウリの研究用分譲承認をメキシコ政府から日本への分譲承認第一号として取得し、昨年12月の生物多様性条約第13回締約国会議で同事例が紹介された。