アフリカ地域初の日本人司法アドバイザーの奮闘 ――原若葉弁護士の2年4か月

2017年8月24日

原若葉(はら わかば)さん (弁護士)

日本において、法的なトラブルの解決に必要な情報提供などのサービスを行う「日本司法支援センター(法テラス)」。司法制度改革の取り組みのひとつとして、2006年に設立されました。この法テラスの本部で、東日本大震災後の翌年から2年間、被災地の法律相談の支援やコールセンターの運営などを担当していたのが、弁護士の原若葉(はら わかば)さんです。

原さんの職歴は多彩です。弁護士として国際取引や知的財産権の実務に携わった後、外務省で条約の起案・交渉に関わったり、JICAの客員専門員としてアジアでの法整備支援のアドバイスもしてきました。

こうした豊富な経験を買われ、原さんは2017年3月まで、JICAの専門家「アフリカ地域における初の日本人司法アドバイザー」としてコートジボワールで協力を行うことになりました。

新しいことに関わるのも悪くない

コートジボワール司法省のオフィスにて。(左から)隣室のワタラ統計計画局長、原さん、研修で来日経験のあるサム司法官、アシスタントのニャムケイさん

コートジボワールは1970〜80年代に、「イボワール(象牙)の奇跡」と呼ばれる年平均8パーセントを超える経済成長をとげた国ですが、2002年以降は紛争が続き、国内の制度は機能しなくなっていました。近年ではコートジボワールを含むサヘル地域を中心にイスラム武装組織が勢力を広げており、国境を越えたテロ犯罪対策も必要になっています。そうした経緯から、2013年のTICAD V(アフリカ開発会議)では「平和と安定」が政策の柱のひとつとなり、司法分野の協力がクローズアップされました。

個人的に隣国・マリの農村の子どもを支援していた原さん。
「マリには何度か行ったことがありました。コートジボワールはマリと文化が共通するところもありますし、仕事も何とかなると思いました。それに、法整備支援はアジアでは20年近く行われているものの、アフリカでは初の試み。新しいことに関るのも悪くないという気持ちがありました」

こうして原さんは2014年から2年4か月、コートジボワール司法省にJICA専門家として配属されます。現地で行ったのは、司法アクセスの改善と、刑事司法分野の人材育成支援です。特に前者は、今までアジアでも実施されたことのない未知の領域。日本の法テラスの情報提供業務をベースに、現地の司法アクセス改善の全体構想をつくり、要望の高かったコールセンターの設置・運営を行いました。

法テラス(日本)をモデルにしたコートジボワール版の「情報提供パンフレット」全8種も作成

「コートジボワールの弁護士数はわずか1000人。そのほぼ全員が実質的首都のアビジャンに住んでいるため、地方には相談できる弁護士がいません。他方、携帯電話が広く普及しているので、コールセンターがあれば、住んでいる場所に関わらず、すべての人々の問い合わせに1カ所で対応できるのです」

原さんの協力の下、法テラスのQ&Aをモデルに、市民向けの法律相談に取り組んできた現地の法律家たちが素案をつくり、コールセンターで提供する情報は、司法省のQ&A作成委員会が推敲しました。
初めての試みでしたが、その甲斐あって、コールセンターは開設直後よりコールを受電。電話をかけた市民の皆さんから感謝の声も届いています。
さらに同じコンテンツを利用して作成したパンフレットは、司法省の局長自らが細かくチェックし、マンガの吹き出しにまで手をいれたそうです。

司法システムは社会の平和と成熟を測るバロメーター

コールセンターの研修。講師は女性法律家協会副会長のショドロン最高裁付司法官(右)

コールセンター開設に向け、現地司法省の唯一の日本人として孤軍奮闘してきた原さんにとって最も大変だったのは、関係者間の共通意識を統一することだったと言います。

「現地の関係者は皆、優秀なエリートです。ただ、事前にたてたスケジュールに従って物事に取り組んだり、複数のことを同時に進めたり、系統立てて整理することは、どちらかというと苦手です。ただ、それは彼らの文化でもあります。現地のスピード感を理解しつつリマインドし、日本側にも説明し、受け入れ可能なレベルに調整しました」

日本式を押し付けるのではなく、現地の人々が自らの力で、自らの国の制度を作ることを後押ししてきた原さん。今後も法整備支援などを通して、世界の様々な国に関わっていきたいと思っています。

「例えば、犯罪被害にあった人は、検察官に直接申し出ることができるのですが、それを知らない人も多いですし、市民のための情報としては、レイプや強制結婚が犯罪である、というところから説明する必要があります。手続きのとり方が分かれば、泣き寝入りも少なくなり、暴力をふるった人が放置されずに刑罰を受ける方向にむかいます。その国にどのくらいきちんとした司法システムがあり、かつしっかりと機能しているか。それが、社会が平和で成熟しているかを測るバロメーターです。コートジボワールでも、日本が支援したコールセンターと情報コンテンツを活用して、平和で安定した社会を実現してくれると嬉しいですね」

【画像】

コートジボワール地図(左) 刑事司法研修実行委員会のメンバーたちと。うち9名は日本で研修を受けた経験を持つ(中) 司法省コールセンターでのスナップ(右)

【プロフィール】
原若葉(はら わかば)さん (弁護士)
慶應義塾大学卒業時、司法試験に合格し、弁護士に。1990〜2003年、大手渉外事務所にて国際取引全般に関わる。2003〜2005年と、2007〜2008年に外務省国際法局・経済局にて任期付き公務員として条約の起案・交渉を担当。10年〜JICA非常勤客員専門員、2012〜年日本司法支援センター(法テラス)部長として、東日本大震災の法律援助業務などに携わる。2014年12月よりJICA専門家としてコートジボワールに赴き、2017年4月帰国。