経済成長と雇用で貧困削減や地域の安定を−事務所長が語る中東・欧州最新事情とJICAの支援

2017年9月29日

難民問題をはじめ、中東・欧州地域の動きに世界的な注目が集まるなか、JICA本部で9月8日、メディア関係者を対象とした中東・欧州地域報告会が開催されました。9ヵ国・地域(イラン、エジプト、シリア、チュニジア、トルコ、パレスチナ、モロッコ、ヨルダン、バルカン)の事務所長とイラク担当課長が、現場の実情やJICAの取り組みについて報告しました。事務所長らは、最新の政治・社会情勢を紹介する一方、経済成長や雇用創出によって貧困削減や持続可能な開発を進めていく重要性を強調しました。

紛争後の国づくり・人づくりを視野に 

ヨルダン事務所の小林勤所長(シリア事務所長兼務、右)は、駐在するヨルダンを「地域の安定に欠かせない要となる国」と表現。パレスチナ事務所の三井所長はアジア5ヵ国と連携しての支援も紹介

日本は、シリアの国内避難民や周辺国に流出した難民、難民を受け入れているコミュニティに対して、2012年以降、国連機関を通じて19億ドル以上の支援を行っています。加えて2016年G7伊勢志摩サミットで安倍晋三首相が2万人の人材育成を含む60億ドルの支援を発表しました。JICAが実施する、5年間に100人のシリア難民を受け入れる「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム」もその一つです。小林勤シリア所長は「8月中旬以降、第一陣の留学生19人が日本に到着し、プログラムが始まった」と紹介しました。

改修を終えて再稼働したイラク南部バスラ県のハルサ発電所

イラクは「イスラム国」(ISIL)との戦い、原油安による歳入減などで財政が非常に厳しくなっています。中東・欧州部中東第二課の吉川正紀課長は「世界第5位の原油確認埋蔵量を有する国ではあるが、石油依存体質の改善が求められており、今後は産業の多角化が必須。また、ISILの被害を受けた北部地域では、復興のために今後10年間に1,000億ドル規模の支援が必要ともいわれているが、これらを今後検討していくことになる」と述べました。支援はインフラ分野が中心となる見込みです。

現地の情勢について、吉川課長は「北部でISILとの戦いは続いているが、バグダット以南ではテロの件数はかなり減ってきている」と報告しました。

観光の可能性に着目、日本企業進出の動きも

中東・欧州地域で共通して求められるのが、経済成長と雇用創出による貧困削減や持続可能な開発です。

JICAが観光開発を支援したヨルダンのサルト市の旧市街

産業の競争力が弱く、天然資源に恵まれないところにパレスチナやシリアから多数の難民を受け入れているヨルダンは、その典型といえます。小林勤所長(シリア事務所長兼務)は「ヨルダンは、難民と自国民の格差だけでなく、男女間、健常者と障害者など格差が非常に大きい国。格差是正に取り組む一方、雇用の吸収率が高く、産業として成長の余地の大きい観光分野の振興を支援している」と言います。

工場が操業を始めているパレスチナ・ジェリコの農産加工団地

パレスチナ事務所の三井祐子所長は「ヨルダン経由で湾岸諸国への輸出を想定したジェリコ地域の農産加工団地が稼働し始めた。加えて観光客誘致につなげるため、ジェリコにある中東最大のモザイクを鑑賞できる施設を整備中」と、代表的な事業を紹介しました。

バルカン地域では、欧州連合(EU)加盟を目指す各国が、大気汚染、廃棄物処理など自国の環境基準をEU基準に適合させるという大きな宿題を抱えています。「JICAは、火力発電所への排煙脱硫装置設置など、日本の優れた環境技術を活用した支援を行っている。また、失業率が高いこの地域で、経済活性化、雇用創出を目指して、広域で中小企業育成支援を展開している」と小林秀弥バルカン事務所長が報告しました。

モロッコ事務所の戸島所長(右)とチュニジア事務所の江種所長は、モロッコ・チュニジアビジネスセミナーについても紹介

一方、北アフリカのモロッコに駐在する戸島仁嗣事務所長は、日系企業の進出が近年増加していることを報告。政治的にも安定するなか、50ヵ国以上(総人口10億人超)と自由貿易協定を締結し、欧州、中東、アフリカへのハブ(展開拠点)として存在感も増していることを説明しました。

「シリア難民の9割以上が都市で暮らす。受け入れコミュニティへの支援は重要だ」とトルコ事務所の遠藤所長(右)。バルカン事務所の小林秀弥所長は、ボスニア・ヘルツェゴビナで実施中のスポーツ教育を通じた信頼醸成プロジェクトも紹介

現地の状況について、チュニジアの江種(えぐさ)利文事務所長は「2015年に複数のテロが起こり観光客が激減したが、当局の取り締まり強化などで以後大きなテロはない。観光客数は今年6月は前年同期比で約50パーセント増まで回復している」と報告。トルコの遠藤真由美事務所長は「今年1月のナイトクラブでの事件以降、一般市民を狙った大きなテロは起きていない。シリアとの国境警備も強化されている」と説明しました。

地域大国が求める日本のノウハウ 

「経済制裁が解除され多くの欧州企業が進出してきている」とイラン事務所の小林雪治所長

8,000万の人口を擁し、天然ガスや石油などの資源に恵まれたイラン。今年5月の大統領選挙で争点となったのは、やはり経済と雇用でした。小林雪治イラン事務所長は「イランからは、日本の技術やノウハウを強く求められている。そのため、地震防災や環境保全、水資源管理、クリーンエネルギーに関する技術協力プロジェクトなどを積極的に進めているのに加え、新たに雇用創出、インフラ整備や保健医療分野でも協力を進めていく」と言います。

エジプト事務所の伊藤所長(左)はエジプト日本科学技術大学での2学部新設も紹介。イラクについて吉川課長は「北部の復興がカギ」と報告

エジプトも、経済成長、格差解消が課題。JICAは電力・運輸・灌漑等のインフラに加え、人材育成に向けた協力にも力を入れていて、2016年には、エジプトの教育システム全体に対して日本の教育の特徴を生かした協力を行って人材育成を図る「エジプト・日本教育パートナーシップ」が両国間で立ち上がりました。伊藤晃之エジプト事務所長は「この秋以降、掃除や日直など、教科授業以外の活動を取り入れた『エジプト日本学校』が開校する予定」と紹介しました。