【シリーズ 国際緊急援助隊30周年 Vol.4】積み重なる経験と絆:東日本大震災を経て深まる各国の連携

2017年10月20日

【画像】

2013年のフィリピンのヨランダ台風災害で、診察の合間に子供に折り紙を教える医療チームの看護師

「国際緊急援助隊の活動経験を通じて、地元や被災地の機関との連携が何よりも重要だということが頭にありました」。

2011年3月に発生した東日本大震災の際、被災地での医療活動に従事した中島康さん(広尾病院救急救命センター副センター長)は、当時、このように語っていました。

2008年の中国西部における大地震や2011年のニュージーランド南島での地震に対する国際緊急援助隊に参加し、現地で支援活動に従事した中島さんは、東日本大震災の際には宮城県気仙沼市の総合運動場で被災者の診察に当たると同時に、駆け付けた複数の医療支援チームを統括し、地元の医療機関などとの調整役を担いました。

東日本大震災の被災地で活動する中島さん(右)

この中島さんたちの活動は、「災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)」としてのものでした。DMATは、1995年の阪神・淡路大震災の教訓から、「災害急性期に活動できる機動性を持った トレーニングを受けた医療チーム」として2005年に結成されました。日本国内で、各都道府県との協定や事前計画に基づき、大地震や航空機・列車事故などの災害時に、災害現場・被災地内外での本部活動、広域医療搬送、病院支援、地域医療搬送、現場活動などを行います。

海外での自然災害などに対する支援を行う国際緊急援助隊とは別の組織ですが、国際緊急援助隊に登録する多くの医療従事者がDMATの隊員になっています。このことが、海外の災害の経験が日本の災害現場で生かされ、また、日本の教訓が海外の災害時に役立てられるという好循環を生み出しています。

国を越えた協力をリード  

JICAなどの提言で、WHOが作成した統一の報告様式

2017年2月、世界保健機関(WHO)は、被災地で支援活動をする各国の緊急医療チームが診療情報などを取りまとめ、被災国の保健当局に提出する災害医療情報の必須項目を統一化しました(注)。多くの緊急医療チームから提出される情報の様式が統一されることで、被災国の保健当局は、どこにどのような医療ニーズがあるのかなど、全体の状況が把握しやすくなります。統一化を提言し、議論をリードしてきたのが、国際緊急援助隊・医療チームの登録医師たちでした。

きっかけは、2013年のフィリピンにおける台風ヨランダ被害の支援でした。支援のために派遣された国際緊急援助隊・医療チームが被災地で活動する各緊急医療チームに対し、フィリピン保健省の報告様式の活用を提案し、受け入れられ、成果を上げたのです。その後、この様式は日本の国内災害用にも導入され、2016年4月の熊本地震で初めて実際に使用されました。

救援チーム同士の協力も加速へ

ASEANでは、域内で発生した災害に対する医療支援が地域の保健分野における優先課題となっている一方、各国の災害医療の実施能力には大きな差があり、地域としての連携体制もまだ十分に構築されていません。こうした中、JICAはタイの国家救急医療機関(NIEM)と協力し、災害医療の人材育成や災害時の医療チームの相互協力などを目指す「ASEAN災害医療連携強化(ARCH)」を2016年から実施しています。

プロジェクトの背景の一つに、JICAが1988年から20年にわたって続けてきた課題別研修「救急・大災害医療コース」があります。計53ヵ国から207人の研修員を受け入れ、災害医療の専門家を育成するとともに、専門家同士のネットワークを構築しました。タイでは、同研修の参加者が中心となり、日本のDMATを参考にタイDMATが2008年に設立されました。

国際緊急援助隊・医療チーム登録隊員もこのプロジェクトに参画し、専門的見地からの助言やASEAN各国との合同訓練を行っています。

【画像】

ASEAN各国の医療チームとの合同訓練

津波の被害を受けた宮城県で、行方不明者を捜索するモンゴルの救助隊

2011年の東日本大震災では、かつてJICAが支援した中国やモンゴル、インドネシアなどが次々と救援チームを派遣してくれました。「余震のため、救助活動を中断しなければならないことも度々ありました。しかし、現場では、日本の専門家から学んだ救助技術や安全管理技術が役立ちました」。こう語ったのは、岩手県大船渡市で捜索・救助活動に携わった中国地震局地震応急救援センターの教官です。

今年9月のメキシコ地震。あるマンションの倒壊現場では、日本の国際緊急援助隊・救助チームは、アメリカ、イスラエルのチームとともに、捜索活動を行いました。災害のたびに積み重ねられた経験と絆が、世界各地で多くの人々を救っています。

(注)災害医療情報の標準化手法(Minimum Data Set:MDS)。被災地で活動する緊急医療チーム(Emergency Medical Team:EMT)が患者のカルテから抽出し、日報として被災国の保健当局へ報告すべき46の必須項目をまとめている。

(計4回のシリーズで掲載しました)