【すべての人に健康を Vol.1】日本の当たり前を、世界の当たり前に:ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは

2017年11月20日

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健康教室で授乳や子どもの食事について話す青年海外協力隊員(保健師)=ボリビア
(写真:今村健志朗/JICA)

日本では多くの場合、近くに、適切な医療を提供する病院や診療所があります。病気やけがで診察や治療を受けても、医療機関の窓口では医療費の一部を払うだけで済みます。医療サービスが充実しているだけでなく、すべての国民を対象とする医療保障の制度があるからです。しかし、日本では「当たり前」のこの状況は、世界では決して当たり前ではありません。

世界保健機関(WHO)などによれば、世界では4億人が基本的な保健医療サービスを利用することができず(注1)、毎年1億人が医療費の負担によって貧困化しています(注2)。

すべての人々が、十分な質の保健医療サービスを、必要な時に、負担可能な費用で受けられることが重要です。これを実現するため、日本政府とJICAは12月、WHO、世界銀行、ユニセフなどとともに、保健医療に関する国際会合「UHCフォーラム2017」を東京で開催します。フォーラムを前に、誰一人取り残されることなく、すべての人が健康に過ごせることを目指す考え方とその取り組みについて紹介します。

シリーズ「すべての人に健康を」

UHCとは:ポイントは「身近な医療」と「適切な費用」

すべての人々が、十分な質の保健医療サービスを、必要な時に、負担可能な費用で受けられる状態のことを「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)と呼びます。

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UHCでは、保健医療サービスが身近に提供されていること、保健医療サービスの利用にあたって費用が障壁とならないことに加え、次の3つのアクセスの改善を図ります。

(1) 物理的アクセス:近所に医療施設がない、医薬品や医療機材がない、医師や看護師がいない
(2) 経済的アクセス:医療費の自己負担が高い、受診のための交通費が高い、病気に伴い収入が減る(看病する家族も)
(3) 社会慣習的アクセス:サービスの重要性・必要性を知らない、家族の許可が得られない、言葉が通じない、賄賂を請求される

国際社会の取り組みにより、1990年には年間1,260万人だった5歳未満児の死亡数が2016年には560万人に半減するなど、大きな成果がありました。しかし、世界では、なお4億人の人たちが基本的な保健医療サービスを利用できていません。同じ国のなかでも格差があり、地方部・へき地居住者、低所得者層に加え、女性・障害者・少数民族など社会的に弱い立場にある層では、保健医療サービスから取り残される人々が多くいます。

さらに、世界では毎年1億人が医療費の負担によって貧困化し、医療費や交通費が負担できないため、保健医療サービスの利用を控える人たちもいます。「能力に応じた負担、必要に応じた給付」を原則に、費用を社会が負担する仕組み、具体的には医療保険などの医療保障制度が重要です。

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UHCが注目される前から幅広く保健分野で協力

母子健康手帳を受け取ったベトナムの妊婦。日本の母子健康手帳の前身は1942年に配布が始まった妊産婦手帳で、世界で初めての妊婦登録制度の発足と併せて作成された

JICAは長年にわたり、保健分野の協力を続けてきました。JICAが力を入れてきたのは、母子保健や感染症対策の分野をはじめとする保健医療サービスの向上で、各国が自分たちの力で保健医療システムを維持強化していけるよう人材育成を重視した取り組みを行ってきました。

1960・70年代は病院や医学部を拠点とした人材育成や研究、医療技術改善が協力の中心でしたが、1980年代から地域保健、1990年代からエイズなどの感染症や母子保健、そして2000年代以降は保健システムの改善やコミュニティに根ざした協力などが増加しました。UHC達成のため、JICAは近年、医療保障制度の整備にも力を入れています。

経済発展の初期段階に国民皆保険:日本の経験を生かす 

日本は、1961年にすべての国民を対象とする医療保険制度(国民皆保険制度)を導入するなど、経済成長の初期段階でUHCを達成しました。医療保険をはじめとする日本の社会保障制度は、公正な経済発展や社会の安定に貢献したとも言われています。その結果、先進国の中でも高い健康水準を、比較的少ないコストで維持してきました。こうした日本の経験は、多くの国で生かすことができるものです。

UHCは、2005年の世界保健総会で提唱されました。その考え方は、一人一人の人間に着目する「人間の安全保障」にも通じるものでもあり、日本はUHC推進の取り組みをリードしてきました。2015年に採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、日本の強い働き掛けもあり、ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」に向けたターゲットの一つとしてUHCが盛り込まれました。

12月12日から15日まで東京で開催される「UHCフォーラム2017」には、途上国や国際機関などから300人以上の政府関係者、保健医療の専門家らが集まり、UHCを推進するための議論を行います。フォーラム開幕まで、UHC達成に向けたJICAの取り組みをウェブサイトで順次、公開していきます。

シリーズ「すべての人に健康を」

(注1)WHO/World Bank. (2015年). Tracking universal health coverage: first global monitoring report
(注2)Xu K, Evans DB, Carrin G, Aguilar-Rivera AM, Musgrove P, Evans T. Protecting households from catastrophic health spending. Health Affairs. 2007;26(4):972-83.

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