【すべての人に健康を Vol.2】日本の国民皆保険の経験と学びを世界に

2017年11月27日

「もはや戦後ではない」。1956年の「経済白書」の宣言は流行語にもなりました。その5年後の1961年、日本ではすべての国民を何らかの公的健康保険でカバーする「国民皆保険」が実現しました。現在、西アフリカのセネガルで国民皆保険に向けた支援を進める清水利恭JICA専門家は「周囲の大人たちが、これからはお金を心配せずに病院にいけると喜んでいたことを覚えています。生きていく安心感が国の成長につながる。それをセネガルで実現したいのです」と話します。

シリーズ「すべての人に健康を」第2回は、日本の国民皆保険制度の経験と学びを生かす取り組みを紹介します。

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設備の整ったセネガルのティエス病院。医療サービスだけでなく、費用負担なども課題になってきた(写真:久野真一/JICA)

シリーズ「すべての人に健康を」

セネガルに国民皆保険を−亡き長官の思いを胸に

日本の国民皆保険の特徴の一つは、雇用をベースにする健康保険(大企業向け組合保険、中小企業向け政府管掌保険=協会けんぽ=、公務員などの共済)と、地域をベースにする保険(自営業者や農家向けの国民健康保険)の2本柱で実現されたことです(注)。地域をベースにする健康保険は1948年、自治体による運営と強制加入になり、55年には国の補助金負担も決まりました。また、皆保険に先だって住民登録や所得の把握が行われていたことも、能力に応じた保険料負担の基盤となりました。そして、日本の制度は、現在に至るまで継続的に見直しが続いています。

セネガルでは、2015 年に設立された医療保障庁が、2021年までに80パーセントの国民を健康保険制度や無料医療制度でカバーすることを目標に掲げています。しかし、地域をベースにしたコミュニティ健康保険や無料医療制度では、政府の補助金や保険還付金の支払いが頻繁に滞り、医療機関が診療を拒否するケースも出ています。制度でカバーされる国民の割合は2013年の20パーセントから、2017年6月には49パーセントまで大きく伸びましたが、目標達成には多くの困難が予想されます。

このため、清水専門家がかかわる「コミュニティ健康保険制度及び無料医療制度能力強化プロジェクト」では今年10月から3年間、医療保障庁、コミュニティ健康保険の担い手である保健共済組合、医療機関に対する研修などを進める計画です。

2015年に東京で開催されたUHCに関する国際会議に参加するため来日したムベンゲ前長官(右)と清水専門家

清水専門家は2014年8月から3年間、保健行政アドバイザーとしてセネガル保健省に派遣され、医療保障庁の初代長官、シェイク・セイディ・アブベケル=ムベンゲ氏とともに医療保障の推進にも取り組みました。ムベンゲ長官は今年6月、心臓の病で倒れ、入院。ベッドでプロジェクトの合意書に署名したものの、7月に志半ばで帰らぬ人となりました。53歳でした。清水専門家らはムベンゲ長官の思いを胸に活動を続けています。

妊産婦の健康保険加入で成果−フィリピン 

妊産婦の家庭訪問時に使う紙芝居型教材の研修を受ける保健ボランティア

フィリピンは2013年、妊産婦が健康保険に加入できる制度に変更し、低所得層への保険料の補助も拡大しました。

山岳地帯の妊産婦が安全に出産できることを目指しJICAが支援した「コーディレラ地域保健システム強化プロジェクト」(2012年〜2017年)では、保健ボランティアが健康保険制度を妊産婦に紹介。保険料が払えない場合は福祉事務所に連絡するなど、日本の経験に学び、すべての妊産婦を台帳にまとめ、その状況を把握し、保険加入を促しました。

その結果、プロジェクト2年目に50パーセントだった妊産婦の保険加入率が4年目には79パーセントへと増加。医療施設での分娩率や妊産婦死亡率も改善しました。

増加する医療費への対策に着手−ベトナム 

ベトナムは国民皆保険を目指し、2016年末現在、80パーセント余りの健康保険加入率を、2020年までに90パーセントに上げることを目指しています。一方、今後、高齢化の加速と医療費の増大が見込まれています。

診療報酬や支払制度など、健康保険制度を改善していくため、ベトナムは昨年、日本の中央社会保険医療協議会の制度にならって、国家健康保険政策カウンシルの設立を決定。JICAはこの10月、「ベトナム国診療報酬及び保険適用診療サービスパッケージ改善プロジェクト」を開始しました。JICAはカウンシル事務局に専門家を派遣し、日本の経験を生かし、政策立案から管理能力の向上まで幅広く支援します。

(注)「日本の国民皆保険の実現プロセスと開発途上国への政策的示唆」(政策研究大学院大学(GRIPS)島崎謙治教授、『早稲田商学』第439 号、2014年3月)

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