【私の思い】女性や男性、多様な人々が生きやすい社会をつくりたい:田中由美子シニア・ジェンダー・アドバイザー

2018年5月25日

田中由美子JICAシニア・ジェンダー・アドバイザー

「女性や男性、障害のある人や社会的マイノリティーなど多様な人々が平等に機会を得られる、そんな社会になるよう、あきらめず一歩一歩進んでいきます」と力強く語るのは、JICAの田中由美子シニア・ジェンダー・アドバイザー(元JICA国際協力専門員)です。

今年から国連女性の地位委員会の日本代表に就任し、女性も男性も、そして多様な人々が生きやすい社会の実現に向け精力的に活動を進めています。

国連事務総長自ら「フェミニスト」を宣言

国連女性の地位委員会における成果文書の議論の様子

3月にニューヨークで開催された同委員会の第62回会合には、世界170ヵ国・地域から政府代表や国際機関、600以上の市民団体などが参加しました。2週間にわたる議論で合意された成果文書は各国のジェンダー政策の指針となります。

田中アドバイザーは、日本代表としての声明の中で、JICAの稲作振興や一村一品を通じた女性支援の取り組みを紹介。また、インフラ整備や防災分野にジェンダーの視点を取り入れることの重要性を指摘し、その意見が成果文書に反映されました。

男女別トイレの設置や十分な照明など、女性が安心して利用できる施設が整備されたり、インフラ建設事業への女性の雇用が進むことで、女性の社会進出が後押しされます。また、避難所での女性更衣室や間仕切り、スロープの設置といった女性や多様な人々の視点に立った防災計画が見過ごされている場合が多く、改善が必要です。

国連女性の地位委員会で日本代表として声明を発表する田中アドバイザー

「ジェンダー分野の国際会議に参加すると、実はいつも肩身の狭い思いをします」と田中アドバイザーは述べます。世界経済フォーラムが発表する男女の格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」をみると、日本は2017年、144ヵ国・地域中114位で、2016年の111位からさらに順位を落としました。政治・経済分野の女性進出が遅れていることが要因です。

「委員会の開会式でグテーレス国連事務総長は、『私は誇りあるフェミニストだ』と宣言しました。フェミニストは、ジェンダー平等を信じている人という意味です。男性である事務総長自ら、フェミニストと名乗ったことに感動しました。事務総長は、参加者が男性のみの会議は開催しないなど、その意思を行動で示します。こうした男性の意識や行動は大きな力です」

「ジェンダー」と言うと敬遠された1990年代

「就職活動中に、結婚したら会社を辞めるのかと質問されたり、就職後も同期に入社した男性に比べて海外出張の機会が与えられなかったことなどから、ジェンダー差別に対する疑問を持ちました」と田中アドバイザーは語ります。その後、国連アジア太平洋経済社会委員会の「開発と女性課」で勤務し、途上国でも同じようにジェンダーに基づくいろいろな問題があるとわかり、この分野で仕事を続けようと決めました。

田中アドバイザーは、1990年にJICAのジェンダー分野の国際協力専門員になりましたが、その当時、JICAの協力にジェンダー平等や女性の地位・能力向上の視点はほぼ組み込まれていませんでした。ジェンダーという言葉を使うだけで、敬遠され相手にされないことが多かったと振り返ります。

JICAは1991年、ジェンダー平等と女性の地位や能力の向上(エンパワーメント)に向けた事業を推進するための部署を創設。田中アドバイザーは、国際協力専門員として初めて取り組んだネパールの森林保全・村落振興プロジェクトで、教育を受ける機会を得られなかった女性のための識字教室などを実施しました。読み書きができるようになると、女性も村の話し合いで発言力が高まりました。女性の提案で収益性の高い野菜作りを進めた結果、収入も向上するなど、女性の地位向上につながりました。小さな積み重ねにより、男性と同等のパートナーであるという意識が女性たちの中に芽生えていったと田中アドバイザーは言います。

タンザニアで農作業の男女分担や家計調査をする田中アドバイザー(左端)

女性の農民が男性と同等の扱いを受けることで、例えばガーナではトウモロコシの収量が17パーセント増加すると言われており、ジェンダー平等と女性の地位や能力向上は、経済的にも社会全体のプラスになります(注)。

まちづくりや防災にもジェンダーや多様な人々の視点を

JICAの取り組みについて、今後はインフラ整備や防災、民間連携といった分野で多様な人々の意見や希望をさらに取り込む必要があると田中アドバイザーは強調します。

JICAが協力したインド・ニューデリーの都市鉄道では、女性専用車両の導入や防犯カメラの設置に加え、女性が着用する裾の長いサリーが駅のエスカレーターに巻き込まれないよう、巻き込み防止ガードをつけるといった工夫がされました。女性の駅員の雇用や配置も進められ、女性たちの行動範囲が広がり、社会進出が推進されています。

ベルギーで開催された世界復興会議の「女性とともに、女性のためのより良い復興」セッションでJICAの取り組みを発表する田中アドバイザー(左から2番目)

「ジェンダーと女性のエンパワーメントを促進するの視点に立ったJICAの取り組みをもっと組織内で共有し、さらに世界に発信していくことが重要です。すべての人が生きやすく、チャレンジできる社会をつくっていくためには、多様性の尊重やジェンダー平等への取り組みは不可欠。それは、支援ではなく自分たちも一緒に学んでいく課題だということを多くの人に認識してほしいです」


<プロフィール>
田中 由美子(たなか ゆみこ)
JICAシニア・ジェンダー・アドバイザー
1981年より国連工業開発機関、1983年より国連アジア太平洋経済社会委員会を経て、1990年JICA国際協力専門員に。2017年よりJICAシニア・ジェンダー・アドバイザー。現在、城西国際大学招聘教授、専門はジェンダーと国際協力。神奈川県出身

【画像】