【VIVA中南米! 深まる絆 Vol.2】国境を超える障害当事者の活動

2018年6月11日

脳性まひのため、電動車いすを利用する奥平真砂子さんは2015年3月から2016年6月まで、JICA専門家として南米コロンビアで、障害者の社会参加促進のためのプロジェクトのチーフアドバイザーを務めました。 50年以上も内戦が続いたコロンビアで、インクルーシブな(だれも取り残さない)社会を目指す取り組みです。

長く貧困や紛争に苦しみ、障害者が取り残されることも多かった中南米で、JICAは「障害と開発」についてのアプローチを続けています。シリーズ「VIVA中南米! 深まる絆」第2回は、奥平さんの経験も交えて、JICAの中南米での「障害と開発」の取り組みについて考えます。

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コロンビアでの取り組みの一環で、障害者たちは町に繰り出して通りを歩いた。その様子を町の人たちも驚きを持って見守った

紛争の被害とともに貧困の影響が深刻だった

障害者のエンパワーメントをめざしたワークショップ

奥平さんがかかわったのは、「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト(注)」。対象地域は紛争被害が大きかった2つの市です。しかし奥平さんが目の当たりにしたのは、想定とはかなり異なる状況でした。

「主に考えていたのは、身体障害でした。しかし紛争による被害では、心に傷を負った人が多くいました。それ以上に貧困による影響が強く見られました」

教育の欠落や医療の不備、文化的な問題も深刻で、障害者が家族にいることを恥とする考えから、家に隔離されているケースも複数見られました。

当初は、対象地域の障害者を直接リーダーとして育成するアプローチが考えられていました。しかし、プロジェクト後の他地域への広がりも考えた人材育成や、障害者が障害者を育てていくという仕組みづくりのため、プロジェクトでは、州都に住む障害者の中からリーダーを育成し、そのリーダーが対象地域の障害者をさらに育成していくアプローチをとることにしました。

障害者の地位・能力向上には障害当事者がかかわる

現地で活動中の奥平さん(手前左)。アパートさがし、介助者の確保など、活動のための基盤づくりも大変だったという

奥平さんは「障害者のエンパワーメント(地位・能力向上)やリーダー育成を掲げるなら、その取り組みには障害当事者が絶対入るべき」と話します。

障害者は支援を受ける弱者ではなく、社会の課題解決に貢献できる主体ととらえる考え方が主流になりつつあります。JICAは障害当事者(障害者自身)の派遣も進めていますが、これには途上国の障害者や家族に「自分もこうなりたい」というモデルを示す意味もあります。そして、奥平さんは、JICAとして初の障害当事者の長期専門家として派遣されました。

プロジェクトでは、リーダー育成のため概ね月1回、計13回の研修からなる「リーダーシップ学校」を開催。障害者同士が自立に向けて行うピアカウンセリングの方法や障害者政策などについて学びました。登録者51人のうち、45人が研修修了。研修後、自分の通う大学で、授業への手話通訳士の配置を実現した参加者もいます。

ソーシャルインクルージョン戦略が完成

これまでプロジェクトが教育省とともに活動をしてきた結果、コロンビアでは、インクルーシブ教育に関する法令が制定されました。また、労働省とともに活動することで、障害者がコーヒー栽培に携わるようになった事例もあります。

これらのプロジェクトの活動や、プロジェクトで行った調査を通し、障害者のソーシャルインクルージョンを促進するためには、特に保健、教育、就労の分野が重要であることがわかりました。JICA専門家と現地の関連政府機関が協力し、2018年2月、これらの分野で特に取り組むべき項目や取り組み方法をまとめた「障害のある紛争被害者・障害者のソーシャルインクルージョン戦略」を作成しました。今後、プロジェクト終了までの2年間を使い、この戦略をこれまでとは違う地域で実践し、有効性を検証します。

「あなたに会えてよかった」

コスタリカのペレセレドン自立生活センター。JICAやメインストリーム協会(兵庫県西宮市)の協力がきっかけとなり、中南米で初の障害者自立センターとして設立された

コロンビアのリーダーシップ学校でピアカウンセリングの研修を行ったのは、コスタリカのペレセレドン自立生活センターのスタッフでした。同センターは、JICAや兵庫県西宮市のNPOメインストリーム協会の協力をきっかけに、2011年に中南米で初の障害者自立生活センターとして設立されました。ボリビアにも同様のセンターが設立されています。

奥平さんは研修で出会った障害者たちから、何度かこんな言葉を掛けられました。

「あなたに会えてよかった」

障害者で、女性という自分の存在が、インパクトを与え、障害者主体の取り組みの大切さを伝えることができたのでは、と奥平さんは振り返ります。

JICAでは専門家だけではなく、青年海外協力隊やシニアボランティアでの障害当事者の派遣も進めています。中南米では、廣瀬芽里(めり)さん(聴覚障害)が2013年1月からドミニカ共和国のろう学校で活動し、鍼灸マッサージ師の綱川章さん(視覚障害)が2013年10月から2年間、ニカラグアで指圧やあん摩を指導しています。

(注)ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)とは、障害の有無にかかわらず、すべての人が隔てなく暮らしていくことができるという考え方

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