2018年6月18日
自動車大国メキシコ。現地では、多くの日本車が走っています
人口1億人を超える中米最大の国、メキシコ。今年、外交が始まった日墨修好通商航海条約を結んでから130年を迎えました。そのメキシコ中部にあるグアナファト州に立ち並ぶのは、トヨタ、マツダ、ホンダなど日本の自動車メーカーの看板です。スペイン語にまじって、「ようこそ」と日本語も。多くがここ数年で建てられたものです。メキシコではこの10年で日本企業が3倍の1100社以上に増え、自動車の生産台数は年間およそ400万台の世界7位に成長しています。そんな中、JICAは、メキシコ経済の大黒柱となる自動車に特化した協力に乗り出しています。中進国ならではの協力現場を紹介します。
近年のメキシコ自動車生産台数と、輸出・国内向け生産台数の割合の推移[単位:千台]。メキシコ自動車工業会の資料をもとに作成
実地研修を受けるメキシコ人教員たち
2月、グアナファト州の工業高校。日産自動車の日産ラーニングセンター現場管理スクール講師の主浜(しゅはま)隆和さんが、メキシコ人の教員たちと向き合っていました。
「製造の現場では、1秒でも作業を減らして効率化できるかが勝負です」。主浜さんの言葉に、みな熱心にメモ帳にペンを走らせました。彼らはこの高校の教員で、JICAが実施する「自動車産業人材育成プロジェクト」の研修員です。この日は、製造ラインや不良品の無駄を減らす取り組み方について学びました。
メキシコでは近年、北米市場へのアクセスの良さやNAFTA(北米自由貿易協定)などを背景に、自動車産業への投資が拡大しています。しかし、日本企業が現地で部品を仕入れる割合は推定10~30パーセントと低く、品質の基準を満たせないメキシコ企業の技術不足が課題となっています。メキシコ企業の技術向上は、現地の日本企業の生産拡大に向けたコスト削減や納期の短縮にもつながるため、JICAは2015年から、3州の4つの工業高校の教員への研修を通じて、人材育成の土壌づくりに取り組んでいます。
自動車産業人材育成プロジェクトの構図
「メキシコタイムだよ」。研修中、主浜さんは教師の一人からそんな言葉を耳にしました。日本に比べて時間におおらかで、10分の休憩をはさむと、教師たちは15~20分は戻ってこないことも。「現場経験のない教員たちに『タイムイズマネー』をどう教えればいいのか」に悩んだといいます。いつも課題の下調べなどに熱心に取り組む姿勢に感心させられていたので、なんとか彼らの良さを生かしたい一心でした。そこで、研修に取り入れたのが、現地の日本企業での実習です。現場で働く社員たちが決められた標準時間で作業をこなしていく姿を目の当たりにしながら、ストップウォッチを片手に製造ラインの工程をチェックし、無駄な作業を省く提案までチャレンジしました。
教師のルベンさんは「日本のものづくりの精神から、責任感をもって作業や課題に取り組む重要性がわかった。生徒にもうまく伝えたい」と感心した様子。主浜さんは「メキシコ企業に日本企業が求める品質や納期などをクリアできる技術やプロ意識を身につけてもらい、サプライチェーンを強化したい」と語ります。
カイゼンを採り入れたメキシコ企業の作業の様子
工業高校での研修とともにJICAは、現地企業への技術指導も行っています。2012年から3年間、メキシコの部品企業27社に日本人専門家を派遣。品質や生産性を高める「カイゼン」を採り入れました。その結果、約8割の企業が「日本企業との新たな取引ができた」といった成果につながりました。この技術指導は今年6月から再開し、5年間でメキシコ企業など約120社に展開していく予定です。
さらに、公的機関による企業支援の強化につなげるため、これまで計20の同国の政府関係者を日本に招き、トヨタの工場、自動車産業振興に力を入れる宮城県庁などを訪問してもらいました。彼らは帰国後、カイゼンを中心とした公的支援の政策づくりを進めています。
マツダミュージアムでの研修の様子
JICAは1990年代以降、メキシコで中小企業や裾野産業の振興、プラスチック、電気製品製造などで技術協力を続けてきました。メキシコが中進国入りするなか、課題は国際競争力を身につけることです。自動車産業に特化し、メキシコ企業や日本企業の生産を拡大させる取り組みは、そうした中進国の先を見据えた協力のかたちといえます。この協力がメキシコの持続的な成長へとつながり、ともに中南米地域の貧困や格差を減らしていくパートナーとなることを目指しています。