ネパール史上初の経済センサス 「国の発展を手伝えて誇らしい」調査員3,500人が国中をめぐる

2018年6月22日

「従業者は何人ですか?」
「店舗を開設したのは、いつですか?」
「先月の売り上げは、どれくらいでしたか?」

首都カトマンズのパン屋で、オーナーに質問をする調査員(左)

4月23日、首都カトマンズのパン屋さん。ネパール国旗と同色の真紅と紺色を配した帽子とポロシャツ姿の調査員が店のオーナーに質問し、回答をタブレット端末上の電子調査票に入力していきました。

ネパールで初めて、事業所・企業を対象とした経済センサス(事業所・企業の国勢調査)が4月中旬から2ヶ月間にわたり行われました。この経済センサスとは、国中にどれだけの数の事業所や企業があるのか、それぞれの売り上げはどれぐらいなのかなどを調べて国の経済構造や規模などを明らかにし、政策などに生かすための調査で、ネパールの経済を持続的に成長させるためには不可欠かつ重要です。

調査員は、30分ほどでパン屋さんでのインタビューを終えると、すぐに次の事業所(商店、工場、事務所など)へ向かいます。都市部では1日で約15ヶ所を訪問。ネパールで初めて実施された調査のため疑いを抱くオーナーもいますが、調査員は丁寧に説明し、インタビューします。国内全域に配置された調査員は男女合わせて総勢約3,500人。「国の発展を手伝えて誇らしいです」と使命感にあふれています。

このネパール史上初の経済センサス実施にこぎつけた舞台裏には、JICA専門家たちによる長年のサポートがありました。

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経済センサスの実施を告げる横断幕を掲げる調査員たち

日本の手法を参考に実施

日本では、1947年の第1回事業所統計調査(1996年からは事業所・企業統計調査)に始まり、2006年まで20回、2009年からは経済センサス(注)がほぼ3年おきに実施されています。これにより、地域別、産業別、従業者の規模別で事業所・企業数や従業者数の分布などがわかり、新経済成長戦略や地域経済対策、女性の社会進出支援策といった政策立案のほか、地方消費税の算出根拠などに利用されています。

(注)

ネパールではこれまで、人口や農業に関するセンサスは実施されていたものの、経済センサスは、予算不足や実施体制が整っていないことなどから行われていません。そのため、国の経済構造を正確に把握できず、経済成長を促すための有効な政策を打ち出せすことができない状況でした。

日本で統計資料館を見学するネパール中央統計局の幹部職員

JICAは、総務省や公益財団法人統計情報研究開発センター、(株)日本経済研究所と協力し、2016年から日本のノウハウを基に、ネパール中央統計局(CBS)に対し、経済センサスの調査企画から、調査実施、集計、結果分析、結果提供までの全体的な技術指導をしています。

CBSの経済センサス担当者は、「日本の総務省統計局での研修を通じて、先進的な手法や設備を目の当たりにし、経験談を聞くことで、経済センサスに関する理解が深まり、視野が広がりました」と言います。

経済センサスの調査員研修の様子

約3,500人の調査員の養成は、段階的に行われました。まず、日本で研修を受講したCBSの経済センサス担当者等が講師となってCBS中央職員に研修を実施。そのCBS中央職員が指導した全国33ヶ所に点在するCBSの地方統計事務所の職員が、選考された調査員の研修を行いました。

国・地方公共団体の政策や民間企業の経営戦略に役立つ

郡部では、調査員(右)は、バスなどを乗り継ぎ、担当の調査地区の事業所を訪問し、インタビューしながら、回答を調査票に手書きで記入

ネパールの経済センサスは、従業者100人以上の大企業から、店主が一人で切り盛りする小さな店舗まで、国内約100万とされるほぼすべての企業・事業所が調査対象です。調査項目は、「従業者数」、「主な事業内容」、「開設時期」など大きな括りで数えると18項目、小さな括りでは71項目あります。

この調査で作成された統計によって、どの地域で、どのような産業が発展しているか、あるいは不足しているか分かり、ネパール政府は、今後の産業や経済の政策などを立案するうえで基礎資料として利用できます。民間企業は、近隣の地域に同業者が出店しているかを事前に把握でき、効率的な新規出店につながり、ネパール経済全体の成長に貢献することになります。

政府統計調査で初めてインターネット回答を導入

経済センサス実施に向けて技術指導を行う西専門家(右)

「今回、ネパールの政府統計調査で初めてインターネット回答が導入されたことには、経費節減や調査員の負担軽減という面で大きな意義があります」と述べるのは、日本とネパールを行き来しながら、JICAの経済センサス実施プロジェクトのチーフ・アドバイザーを務める総務省統計研究研修所教授の西文彦氏です。

山岳国のネパールでは、調査員による実地調査が困難な地域が多く、そのような地域ではネット回答が推奨されます。山間部でも、おおむね携帯電話の通話は可能で、電話回線経由のインターネット・アクセスが可能な地域が多いからです。

今回の経済センサスでは、ネット回答率と、タブレット端末を通じた回答率は合計で全体の約15パーセントでした。2021年に予定される人口センサスでは、ITを活用した調査方法による回答率の上昇が見込まれます。

西専門家は、これまで、スリランカ、インドネシア、カンボジアにおいて、統計調査に関する技術指導をし、ネパールは4ヶ国目です。「ネパールでは停電が頻発するなか、暑さや寒さに耐えながらの業務もありました」と苦笑しつつ、「作成された統計が、今後、ネパールの産業や経済の政策などの立案に活用され、ネパールが持続的に経済成長していくことを期待します」と語る西専門家。この7月には、経済センサスの速報結果の公表に向けた準備のため、14回目となるネパールでの技術指導に赴きます。