【VIVA中南米! 深まる絆 Vol.4】住民たちの「暮らし」を守る日本式の災害警報システム

2018年6月25日

標高3,285メートルのアンデス山脈の集落。レンガ造りの平屋と小さな電波塔しかありません

ペルーのアンデス山脈を、JICA専門家が訪れました。富士山級の標高3,000メートル付近に点在する集落に、地震情報を伝えるシステムを導入する調査のためです。この一帯ではかつて、大地震で山の氷河が崩れ、2万人もの命が失われました。JICAは、日本と同じく地震や津波の脅威にさらされてきた中南米で、防災分野の協力に力を入れてきました。日本の知見を受け継いだ国々がいま、周辺国にその経験を広める動きを見せています。シリーズ最終回は、パートナーとして自然災害に立ち向かう取り組みを紹介します。

ペルー沿岸部にシステム設置 海外で初導入

避難訓練時に発信された災害情報のテロップ

5月31日午前10時ごろ。ペルーの太平洋沿岸にあるリマ市近郊のカヤオ市で、サイレンとともに放送が流れました。

「カヤオ沖で地震発生。津波警報が発令されました。ただちに避難してください」

オフィスビルを出て近くの公園へ向かう大勢の人。海岸近くの学校から高台に走る生徒たち。それぞれが放送に従い、スムーズに避難しました。この日は、ペルーの「防災の日」。マグニチュード(M)8.5の地震や津波を想定し、リマ、カヤオの両市で全人口の3分の1にあたる約1000万人が参加した避難訓練が実施されました。

災害を素早く知らせるサイレン機器

避難の指示を出したのは、日本方式の地上デジタル放送技術を活用した「緊急警報放送システム(EWBS)」です。災害情報を素早く正確に発信できるのが強みで、海外での導入はペルーが初めてです。

JICAは、このシステムの技術開発を支援するとともに、津波の恐れがある沿岸部など7ヵ所に受信機などの配備を支援。JICAと協力する国家防災庁(INDECI)では現在、システムを通じて沿岸部や山岳地帯を含む77都市でサイレンを鳴らす仕組みや、ラジオ局・公共施設などから緊急災害情報を市民に伝える方法の検討なども進められています。

きっかけは、東日本大震災の「ニュース映像」

「『津波が来るぞ』と先に分かっていれば、救うことができる命もあるはずです」

同僚と街中で電波測定をする阪口さん(左)

JICA専門家として、このシステムの導入に尽力した阪口安司さん(一般財団法人「海外通信・放送コンサルティング協力」所属)はそう語ります。「ペルーに行ってくれるか?」。NHKの放送技術者として地デジ導入に関わっていた2009年、出向を告げられ、「どこにあるかも知らなかった」国へ。プロジェクトの目的は、ペルーの運輸通信省でテレビ放送などのデジタル化を進めることで、当初は緊急警報放送システムの構想はありませんでした。転機となったのが、着任1年半後に起きた東日本大震災です。

日系人が約10万人いるペルーでは、大津波が日本の東北地方の海沿いにある町をのみこむニュース映像が連日のように流れました。その中で、阪口さんの同僚たちの目に止まったのが、画面上に流れた緊急警報放送システムによる警報・災害情報のテロップでした。「ペルーにこれがあれば、海沿いや山で暮らす住民たちが安心して暮らせるんじゃないか」。それから、一気にこのシステムの導入の話が進みました。

阪口専門家「インフラ未整備の場所こそ、警報が必要」

今も残るアンカシュ地震で崩落した約4メートルの巨岩

警報システムの設置場所を調査するため、阪口さんは南北3,000キロのペルーを縦断しました。アンデス山脈での調査では、1970年5月31日に起きたアンカシュ地震の被災地を訪問。山から崩れた氷河が周辺の町に押し寄せて甚大な被害をもたらした大災害で、発生日が「防災の日」となりました。調査に協力した生存者の高齢女性は「まるごとのまれ、復興できなかった町もある。今も地震が起きるたびに怖い」と不安な表情でした。しかし警報システムの話を聞き、「そんなシステムができれば、ありがたい」と笑顔を見せました。これが、阪口さんのその後の活動の原動力になったといいます。

「インフラも何もない場所や途上国だからこそ、警報システムの必要性を痛感し、やりがいになりました」。阪口さんは2012年9月にJICAの任期を終え、システムの普及プロジェクトは後任の専門家に引き継ぎましたが、いまもペルーでラジオ局でのシステム導入支援や技術開発などを続けています。中南米では、エクアドルやチリなども導入を考えており、ペルーが他国への協力を行う南南協力による研修・セミナーが検討されるなど、期待が膨らんでいます。

チリを防災の人材育成拠点に 災害に強い中南米を目指す

チリ大学での講義の様子

中南米では、防災の人材育成にも力が入れられています。チリと日本が現地の大学や行政機関を拠点に、中南米・カリブ地域において専門家の育成を目指す「中南米防災人材育成拠点化支援プロジェクト(KIZUNAプロジェクト)」。チリ大学では、中南米・カリブ地域各国の研修員に、地震観測データの分析や地震源探知などの方法を日本の知見や経験をもとに伝えています。また、JICAはエクアドルで津波時の避難計画づくりや建築制度の見直しなど、近年重要視される事前復興の分野で協力しているほか、ペルー政府との間で災害後にタイムリーに復旧活動のために必要な資金を提供できる「災害復旧スタンドバイ借款」の円借款貸付契約を調印しています。

メキシコの教科書に日本の国際緊急援助隊の活動

昨年9月のメキシコ地震に救助チームを派遣した日本の国際緊急援助隊が、現地の中学校の公民の教科書で紹介されることになりました。国際協力について学ぶページの中で、さまざまな国や機関、市民団体が力を合わせて対応する例として、同隊の活動が挙げられています。一方で、日本も東日本大震災のとき、メキシコの救助チームや支援物資に何度も助けられました。一つ一つの協力に関わった人たちの思いがつながり、遠く離れた日本と中南米の絆を深めるきっかけとなっています。

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国際緊急援助隊が掲載されるメキシコの中学校の教科書の該当ページ

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