スペシャルオリンピックスから始まる社会参加:スーダンチーム初参加をサポート

2018年7月6日

スペシャルオリンピックスの中東・北アフリカ大会に出場したスーダンチームとサポートした岩吹綾子隊員(右から2人目)

「スペシャルオリンピックス」をご存知でしょうか? 主に身体障害者が参加する「パラリンピック」、聴覚障害者のための「デフリンピック」に対し、スペシャルオリンピックスは知的障害者に様々なスポーツトレーニングとその成果の発表の場である競技会を、年間を通じ提供している国際的なスポーツ組織で、4年ごとに夏季・冬季の世界大会が開かれています。

スペシャルオリンピックスは、1968年に開催された第1回スペシャルオリンピックス国際大会から今年で50年。来年3月にアラブ首長国連邦のアブダビで開かれる夏季世界大会に向け、世界各地で国別・地域別大会が行われています。今年3月に同じアブダビで開かれた第9回中東・北アフリカ大会には、スーダンが初めてチーム参加しました。その初参加には、日本からスーダンに派遣されていた1人の青年海外協力隊員のサポートがありました。

「偏見をなくすため」現地派遣のJICAボランティアが尽力

スペシャルオリンピックスは、知的障害者の社会参加促進を目指し、性別、年齢、スポーツのレベルを問わず、共に成長し、共に楽しむことを重視しています。日本などの大会での表彰式ではアスリート(選手)全員にメダルが掛けられます。

大会前の国内合宿で作業療法を行う岩吹隊員

初めて地域大会に参加したスーダンチームをサポートしたのは、作業療法士の岩吹綾子隊員(滋賀県出身)。国際協力にかかわることを目指して作業療法士の資格を取り、大学病院に約3年勤務。熊本地震の被災地やネパールで活動した経験も持ち、2017年7月からスーダンの首都ハルツームにある障害児者通所施設に配属されました。

作業療法士は、心身機能や着替え・食事・トイレなどの日常の活動、就労・就学などの機能の維持・改善を図ります。スーダンでは作業療法士の制度や養成機関がなく、知的障害者に作業療法が重要であることさえ、ほとんど知られていません。岩吹隊員は「知的障害への偏見をなくすために、知的障害者の社会参加の促進を図るべき」と考え、関係者に働き掛けを続けた結果、スペシャルオリンピックスの活動にかかわるようになりました。

スポーツを通じたリハビリの経験はなく、不安もありましたが、スーダンには身体機能と精神機能の両方に詳しい専門職もいないため、「私がやってもいいのかも知れない」と、大会に向けたサポートを引き受けました。

チームワークをつくり、多くの人とも交流

(写真上)大勢の観客が見ている前で試合を行う練習
(写真下)フォークとナイフを使って食事をする練習

初のスーダンチームに選出されたのは、11~21歳の男女12人。そのうち8人が陸上競技、4人がボッチャと呼ばれる球技のアスリートです。岩吹隊員は、国内合宿を含め、約2ヵ月間、すべての練習に立ち会い、サポートを続けました。

知的障害者の中には、周囲との関係がうまく築けないことが特徴・症状として現れる人もいます(注)。そのため、岩吹隊員らは、手本に注意を向けて模倣する、刺激が多い中でペア(相手)に注意を向け協調する、チームワークを感じながら活動する、などの目標を立て、国内合宿などを通じ、短期間でこれらの目標を達成していきました。

中東・北アフリカ大会には12人のアスリートのほか、コーチや医師、障害児施設関係者や選手の母親など総勢約40人で臨みました。スーダンの選手は、金・銀・銅を合わせて17個のメダルを獲得しました。そして、メダル以上の成果もありました。

スペシャルオリンピックス中東・北アフリカ大会での男子400メートルリレー

ボッチャに出場した男子選手は、「大会に出場できたことも外国で過ごせたことも、とてもいい経験になりました」と言い、陸上競技に出場した女子選手の母親は、「初めての海外遠征でメダルを獲れて誇らしい気持ち」と語りました。

また、「国内練習、国内合宿、大会において、今まで障害者と関わることがなかった多くの人と障害者が言葉を交わし、交流する機会が生まれました」と岩吹隊員は振り返ります。

スーダンチームの大会参加やその活躍は、現地の複数の新聞やテレビで取り上げられました。

少しの関わりで身体機能も精神機能も大きく変化

スペシャルオリンピックス中東・北アフリカ大会の表彰式

アスリートたちは、今まで施設でも家庭でも、十分な運動の機会がなく、集団行動やルールを守るということを教わった経験が少なかったためか、短期間の関わりだけで、身体機能も、集団行動やルールを守るなどの社会性も向上しました。

岩吹隊員は「障害者と関わることがなかった人や障害者とどう関わっていいか分からない人が、選手が活躍する姿を新聞やテレビで見たり、練習や合宿で関わったりしていくことで、障害者も尊重すべき同じ人間だということに気付いてもらえたらいい」と話しています。世界大会では、スーダンはより多くのアスリート、コーチで参加することになりそうです。

スペシャルオリンピックス日本の有森裕子理事長は「今回、岩吹さんの献身的なサポートにより、スーダンのアスリートたちが(チームとして)初めての大会に出場できたことを、とてもうれしく思っています。また、日本の青年海外協力隊の皆様が、国境を越えて知的障害のある方々の力になられていることを、大変誇りに思います」と話しています。

有森理事長はまた、「スペシャルオリンピックスでは現在、障害の有無に関わらず共に支えあう社会の実現に向け、知的障害のある人(アスリート)とない人(パートナー)が一緒に競技を行う、『ユニファイドスポーツ』という取り組みに力を入れています。スペシャルオリンピックスは競技会や大会だけではなく、全国47都道府県にある地区組織で日常のスポーツプログラムを実施しています。地区組織ではアスリート、パートナー、コーチやボランティアを随時募集していますので、ぜひスペシャルオリンピックスを体験していただきたいと思います」とも話しています。

なお、世界大会への選手選考を兼ねた日本の大会は、9月に愛知県で開催されます。

(注)知的障害の症状は人により大きな違いがあります。

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