「自分たちで水を守る!」イラクの農民たちが水の有効利用に取り組む

2018年7月9日

(写真上)小麦の収穫作業
(写真下)畑に水を送るためのポンプを整備するアブドゥールさん

イラク南部バスラ県。5月、日差しが照りつけるなか、小麦畑で収穫作業が続きます。でも、今年はいつもと様子が違います。

「収穫量は昨年に比べて1.5倍になりそうです。しかも水の使用量は約2割減少できたんです」。5人家族の専業農家アブドゥールさん(27歳)はうれしそうに言います。

JICAは長年、水不足が深刻なイラクで、農業用水の効率的な利用に向けた技術向上や制度の構築を支援してきました。昨年からは、農民たちによる水路などの管理に加え、節水効果のある新たな栽培方法も指導。農家の営みが改善しています。

緊迫した状況が続く国内情勢ですが、イラク政府は一刻も早い復興を目指しており、JICAは未だ困難に直面するイラクの人々が将来への希望を持つことができるよう取り組みを続けています。

農業用水の有効利用は国の課題

(写真上)河川から水をくみ上げるポンプ
(写真下)河川からポンプでくみ上げられた水は小さな水路を通って畑へ運ばれます。

国土の大半が乾燥した砂漠気候に属するイラクは、水資源のほとんどをチグリス川とユーフラテス川からの取水に依存しています。しかし、上流の国で大規模なダムが建設されるなどして水量が減少、さらにかんがい設備の老朽化や不適切な水の管理により、農業用水の確保が難しくなっています。イラクは農業生産量を向上させるため、限りある農業用水の有効利用を国家課題に掲げています。

イラクでは水不足がより深刻になるなか、国内各地で水をめぐる対立が増えていました。水の効率的な管理体制を築くため、JICAは2008年から、イラクでかんがい設備の整備や、農業用水を管理する水利組合の普及を支援してきました。この成果もあって、2014年にはイラクで水利組合法が成立。これまでに国内約140の水利組合が組織され、水の管理体制が整いつつあります。

次にJICAは、農民たちが主体的に水利組合を運営し、水を効率的に使用できるよう、イラク政府と共に新たな取り組みを2017年から開始しています。

水利組合を民主的に運営

水利組合での会議の様子。各自が自分の意思を示します。

JICAの日本人専門家は日本とイラクを行き来しながら、まずは2つの水利組合で運営に必要なことを農民たちと丁寧に話し合ってきました。これまで農民たちは、「水がない、困った」と口にしても、解決するために何をどうしていいのか、わからないような状況でした。話し合いを重ねるうちに、農民たちは組合の運営方法や新しい栽培技術などを知り、自ら問題意識を持って、解決に向けて意思決定をするように変わっていきました。

水利組合の会議で記録を担当する農民。議事録を記したノートを手に「責任ある役目を果たせて誇らしい」と語ります。

組合員同士の話し合いの場では、記録を取り、内容を振り返ることで、お互いに何が問題点かが分かり、解決策を導き出せるようになりました。壊れたままになっていたポンプがあれば、組合員全員から修理費用を徴収するよう会議で決定。設備の維持管理が進み、効率的な水の利用につながっています。

節水栽培の導入で収穫量も増加

トラクターで小麦畑に細い溝を何本も作ります。

節水効果のある栽培技術の導入も進んでいます。小麦畑に細い溝を何本も作り、この溝に水をはる方法(畝間(うねま)かんがい)は、イラクでは初めての試みです。これまでの畑一面に水をまいていたときに比べ、水の使用量が減り、水路から水をくみ上げるポンプ代も節約できました。種の播き方や栽培方法の工夫も行われたことで、収穫量が増加し、収入も向上しています。

JICAの日本人専門家は「イラクの農民たちが受け身になるのではなく、主体的に水の管理にかかわっていくことが、農業用水を有効に利用していくために何よりも大事です」と強調します。農民たちの間で芽生えはじめた「自分たちで水を守る」という意識がイラクの水の有効利用に向けた鍵となっています。