【地方から世界へ:Vol.1】富山のくすりの知恵をミャンマーへ:地元製薬会社の進出も目指す

2018年8月24日

地方が持つ知見と経験を活用して、途上国の課題解決に取り組む動きが広がっています。それに伴い、地方自体も国際協力をきっかけに新たな活路やエネルギーを得て活気づいています。シリーズ「地方から世界へ」では3回にわたり、世界へとはばたく地方の取り組みを追います。

第1回は富山からです。富山といえば「くすり」。医薬品生産金額で全国トップを誇り、「富山の置き薬」など約300年の歴史と優れた製薬技術で知られています。その富山のくすりの知見と経験が今、海を越えてミャンマーに届き始めているのです。富山県、富山大学、地元製薬企業などの団体である富山県薬業連合会の「オール富山」が手を組み、ミャンマーの保健衛生改善を図ると同時に、地元製薬会社のミャンマー進出を後押し、地方活性化を進める取り組みをJICAはサポートしています。

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今年6月に富山で開催されたミャンマーの保健衛生向上に向けたシンポジウムの参加者ら。くすりを通じて富山とミャンマーを結ぶ絆が深まっています。

質の高い伝統薬の製造を支える

今年6月に開催されたシンポジウム後の交流会に参加した紺野プロジェクトマネージャー(左)とミャンマー保健・スポーツ省の研修員

「富山の医薬品は質が高く、製薬会社の技術はとてもユニーク。富山のくすりの知恵を伝えることは、ミャンマーの人々の健康に役立つと自信を持ってこの事業を進めています」と語るのは、富山県が産官学の連携で進めるJICAの草の根技術協力事業(注)で、統括を務める富山大学和漢医薬学総合研究所の紺野勝弘プロジェクトマネージャーです。このプロジェクトでは、ミャンマーの伝統医薬品の製造管理や品質改善を目指します。

国営伝統薬製造工場で製造されているミャンマーの伝統薬

ミャンマーは植生が豊かなことから、植物由来の生薬を使った伝統薬は約2000年の歴史があり、広く国民に普及しています。西洋から輸入される医薬品と比べて価格が安く、また医療アクセスが限られている地域で人々の健康を守る重要な役目を担っています。一方で、偽薬や粗悪品が流通するなど、製造過程や品質の管理が大きな課題となっていました。

旧式の設備が並ぶ伝統薬製造工場

富山大学は以前から、ミャンマーで薬用植物の植生調査や栽培推進、日本財団と連携し富山発祥の配置薬システムの普及に向けた支援などを進めてきました。2014年から始まったこの事業で、紺野プロジェクトマネージャーたちはまず、伝統薬の規格基準書となる「生薬局方(しょうやくきょくほう)」の作成を支援。質の高い伝統薬の製造に向けた指針ができました。それを基に国営伝統薬製造工場で製造技術の指導をはじめ、2018年末に稼動予定の新工場の建設に向けたアドバイスなども行っています。

富山での実地研修で人材育成を図る

全国唯一の都道府県立の薬事専門研究所、富山県薬事総合研究開発センターで研修を受けるミャンマー人技術者たち

これまで富山の製薬工場などで行われたミャンマー保健・スポーツ省行政関係者や国営伝統薬製造工場の技術者らに向けた実地研修は4回、のべ51名におよびます。近代的な医薬品の製造に対する理解がミャンマーで徐々に広がっています。

アルプス薬品工業の生薬管理倉庫を見学

保健・スポーツ省のチョウ・テイン・テイ伝統医療局長。研修時に富山県庁も訪問

「ミャンマーと日本の品質管理の違いに驚きました」。研修でミャンマーの技術者を受け入れたアルプス薬品工業の医薬品製造管理者、内田太一さんは当初、製造現場の環境が大きく異なることに愕然。研修中、製造工程などについて熱心に質問するミャンマーの技術者たちの姿をみて、ミャンマーへの技術支援に一層熱が入りました。今後、ミャンマー側の状況に合わせた品質管理や安全基準の策定が必要だと述べます。

保健・スポーツ省のチョウ・テイン・テイ伝統医療局長は、「富山での研修を通じて、品質管理の重要性などに対する考え方が変わりました。富山の高度な製薬技術の導入がミャンマーで進んでいくことをうれしく思っています」とこの事業の進展に期待を高め、今後は、富山大学に留学生を送り出すなど、さらなる人材交流も図っていきたいと言います。

ミャンマーの人々に富山のくすりを届ける

「実は現在、富山の製薬会社が製造する下痢や食あたりに効く胃腸薬のミャンマー輸出に向け動き始めています」。紺野プロジェクトマネージャーは、ミャンマーでは日本の医薬品への信頼は厚く需要も高まるなか、まずはモデルケースをつくり、地元製薬企業のミャンマー進出に向けた道筋を付けたいと意気込みを示します。

ミャンマー最大都市ヤンゴンで開催されたミャンマー医薬品・医療機器事業者協会と富山県薬業連合会薬業交流訪問団との情報交換会

今年2月、新しい伝統薬製造工場の稼動に向けた指導などを行うJICAプロジェクト関係者と、今後のビジネス展開を検討する富山県薬業連合会と日本貿易振興機構(JETRO)による薬業交流訪問団がミャンマーを訪れました。その際、現地の医薬品や医療機器メーカーが加盟する医薬品・医療機器事業者協会との間で、ビジネスマッチングに向けた情報交換会が開催されました。ミャンマー側からは20社が参加し、テーブルにずらりと並んだ富山の医薬品を前に、「この薬にはどんな効能がありますか?」「薬の包装の特徴について教えてください」と質問が飛び交いました。

富山県内で製造されている配置用医薬品など

行政の立場から富山県の医薬品産業の振興を図る富山県厚生部くすり政策課の小林直人振興開発班主任は、「富山のくすりの技術が広がって世界の保健衛生の向上に貢献できることは、県にとって大変誇らしいです」と言います。富山のくすりの知名度が国際的に向上すれば、医薬品の輸出や医薬品産業の振興などにもつながることから、行政としても支援を続けていく予定です。

富山ならではの製薬技術がミャンマーの課題解決を図り、地域産業の活性化にもつながっている——。国際協力が地域を元気にするそんな取り組みが富山とミャンマーの間で進んでいきます。

(注)草の根技術協力事業