2018年9月28日
「アフリカ・サブサハラ地域でコメの生産量を2008年から2018年の10年間で倍増させる」——この壮大な目標が今年、達成されることが確実となりました。
目標を先導してきたのは、2008年の第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)を機に、JICAと国際NGOのアフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)が共同で立ち上げた「アフリカの稲作振興のための共同体(CARD)」。コメの生産量は、2008年の年間1400万トンから、今年2018年は約2800万トンと推定されます。
稲刈りをするマダガスカルの農民たち
この目標達成の鍵は、アフリカの土地に合ったコメの品種の導入やかんがい整備、農家への稲作技術の指導といった生産現場での支援だけではありません。生産から加工、流通、販売に至るまでの流れを効率化し、コメの付加価値を高め、売れるコメを作るといった各国の稲作振興計画の策定や実行が重要。CARDは対象国23ヵ国の政府や11の国際機関と手を組み、「コメを作って売る」仕組みづくりを進め、目標を達成を導きました。
写真キャプション(左):タンザニアで農業指導をする農業普及員
写真キャプション(右):マダガスカルの市場に並ぶコメを視察する日本人専門家(右から2番目)と行政担当者
CARD対象国23ヵ国
CARD事務局は2008年10月13日、AGRA内に開局。写真は当時の平岡専門員。
アフリカでコメの生産量が伸びないのはなぜか——、それは「食味や品質の問題などから国産米が消費者のニーズに合わず、作っても売れないため農家は生産を拡大しようとしないのです」と断言するのは、2008年のCARD立ち上げから4年間、ケニア・ナイロビの事務局でコーディネーターとして奮闘したJICAの平岡洋国際協力専門員です。
CARD対象国の23ヵ国は、稲作に適しているものの活用されていない土地が多い状況で、潜在的にコメを自給できるだけの能力は十分にあります。その一方で、消費者の嗜好にあった品種の普及に向けた取り組み不足や、収穫後の処理技術の未熟さなどによる品質の低さ(異物混入や割米)のため、多くの国で国産米は需要が低く安値でしか売れません。
そのため「農家は、儲かる確証のないコメ作りのため、肥料や農機の購入、かんがい施設の維持管理などにお金をかけてまで生産量を上げようという意欲がないのです」と平岡専門員は指摘します。アフリカは、経済成長や都市化などに伴いコメの重要が急速に高まっているものの、そのような理由で生産量が拡大せず、輸入米に頼らざるを得ないのです。
コフィ・アナン元国連事務総長(故人)、緒方貞子元JICA理事長臨席の下、東京で開催された第2回CARD総会(2009年6月)の様子。今年はCARD総会が9年ぶりに日本に戻ってくる。
「各国政府は、ただコメの生産性向上や生産量を増やすことだけに目が向きがちでした。輸入米との競争力強化には、まずコメの品質を向上させ国内消費者の需要を喚起するための支援が必要だと理解してもらうよう働きかけました」と平岡専門員。CARD発足から政府関係者と信頼関係をつくりながら協議を重ねるなか、徐々に「国産米への需要を高める仕組みをつくる」という意識が広がり、各国の稲作振興計画に反映されていきました。
セネガルでの稲田で農業指導をする日本人専門家(左)
例えばセネガルでは、2000年代初め、コメの自給率は約20パーセントにとどまり、多くを輸入米に依存していました。政府がコメの自給率向上を目指すなか、JICAは稲作生産技術の改善と同時に、精米の品質向上や、都市部へのコメの流通量増加を図るため販売網の構築を支援。それに伴い、自給率は39パーセント(2014年現在)にまで向上しました。今後、自給率100パーセントを目指し、JICAもサポートを続けています。
アフリカ・サブサハラ地域でコメの需要は今後も高まることが予測されるなか、コメの生産量を2018年の2800万トン(推定)から、2030年までに5600万トンへとさらに引き上げることを目標とするCARDフェーズ2に向けた議論が進んでいます。対象国も現在の23ヵ国に加え、アンゴラ、スーダンなど9ヵ国が新たに参加を希望しています。
セネガルの行政官と精米業者を視察する里山企画調査員(右から2番目)
現在、CARD事務局でコーディネーターを務めるJICAの里山隆徳企画調査員は、CARDフェーズ2での取り組みに向け「さらなるコメの品質改善や流通システムの整備、マーケティングの強化などが不可欠。そのためには各国の稲作振興戦略の実施促進を支援し、加えて民間からの投資拡大も積極的に推し進めていきたいです」と意気込みを語ります。
アフリカの持続可能な開発を後押しするアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)調整庁などとの連携をさらに図り、アフリカ主導で稲作振興を進める取り組みをJICAも後押ししていきます。来月10月2日から3日間、JICA研究所(東京・市ヶ谷)にて現・新CARD対象国計32ヵ国やCARDに加盟する国際機関の代表らが集まる第7回CARD総会が開催され、これまでの成果の確認やCARDフェーズ2の枠組みなどについて協議されます。CARD総会での最終合意が得られれば、横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の開催年である2019年よりCARDフェーズ2が始まる予定です。