2018年10月15日
手洗いソングや紙芝居で手洗いの大切さを伝えるエチオピア水の防衛隊の取り組み
アフリカの水や衛生の問題の改善を草の根レベルからサポートするため、JICAが「水の防衛隊」の派遣を始めて、今年で10年を迎えました。派遣者は260人に達し、地道な活動は水・衛生分野の取り組みに気づきと新たなアプローチをもたらしました。また、水の防衛隊の“卒業生”からは、水・衛生分野で活動を継続する人材も続いています。
2008年5月、横浜で開かれた第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)で、日本は、「アフリカでの安全な水へのアクセス向上や衛生状態の改善などに寄与する人材を派遣する」と表明。同年11月、JICAは「水の防衛隊」の派遣を始めました。
水の防衛隊となったのは、水・衛生分野のニーズがある地域に関連性のある職種で派遣されるJICA海外協力隊(注)やJICA専門家たち。元々の活動を行いながら、水の防衛隊としても活動しました。JICA地球環境部・水環境グループなどが、事前研修や必要な知識の提供、水の防衛隊員同士の情報交換のための体制を整えました。
当初の派遣予定は100人でしたが、2018年6月現在、派遣者数は260人、活動国は21ヵ国になっています。
アフリカ各国への「水の防衛隊」の派遣数。21ヵ国への派遣者 260人の国別派遣者数は以下の通り。ウガンダ 51、ルワンダ 36、セネガル 25、エチオピア 25、カメルーン 23、ベナン 19、ケニア 14、ブルキナファソ 12、ニジェール 11、マダガスカル 8、マラウイ 8、スーダン 5、ガーナ 4、ナミビア 4、ザンビア 3、タンザニア 3、南アフリカ 3、モザンビーク 3、ガボン 1、ボツワナ 1、モロッコ 1(派遣者の多い順)
水の防衛隊をきっかけに、分野を越えた取り組みがいくつも生まれました。
手洗いソングの動画の一場面
今年6月、エチオピアの水灌漑電力省が主催し、大臣や水・衛生分野の関係者が一同に集まる会議で「手洗いソング」が披露されたのも、そうした事例の一つです。「手洗いの大切さを広めたい」と考えた水の防衛隊の佐賀千紘隊員(青年海外協力隊[コミュニティ開発])が、音楽や幼児教育、小学校教育の職種で派遣中の青年海外協力隊員に相談し、現地の関係者と一緒に取り組みました。反響は大きく、佐賀さんたちは多くの学校やイベントに招かれるようになり、動画も制作・公開しました。
手洗いソングに合わせて手を洗うエチオピアの子どもたち
JICAが給水施設を建設したモザンビーク北西部のニアッサ地域に2016年に派遣されたのは、尾島純子さんと近藤加奈子さん(いずれも青年海外協力隊[コミュニティ開発])。元看護師で、衛生啓発の活動を希望していた尾島さんが目にしたのは、手洗い場の石けんが持ち去られ、補充もされない現実。尾島さんらは「ニアッサシスターズ」を名乗り、住民たちの前で手洗いなどのデモンストレーションを繰り返し、意識を変えていきました。
ケニアでは、水道事業体に派遣された髙津早由里さん(青年海外協力隊員[コンピュータ技術])が、水道料金管理システムの顧客情報や支払情報、水道メーターの情報の不備を洗い出し、実際の使用量に応じた料金が算出できるようにしました。今後は、漏水や盗水の場所を組み込んだ水道配管地図の作成を進める予定です。
ルワンダで活動する宗像さん
水の防衛隊設立にも関わった地球環境部・水資源グループの望戸昌観(もうこ・まさみ)課長は、「水の防衛隊の“卒業生”には、水・衛生分野で協力を続ける人が多いと感じます。コンサルタントなどとしてJICA事業に関わる人もいて、人材育成の場ともなっています」と話します。
2010年3月、水の防衛隊(青年海外協力隊[村落開発普及員])としてルワンダに派遣された宗像淳史さんもそんな1人。
宗像さんは地元の人と暮らしながら、現地語で住民たちと会話し、本音に触れました。その結果、住民たちにはそれぞれ農作業などがあり、給水設備の維持管理は“負担”でもあると実感。近くに派遣されたJICA専門家とも協力し、技術トレーニングなどを地道に続けるようにしました。住民が維持管理できる体制が整い、約5,000人の住民に安全な水にアクセスできるようになりました。
宗像さんは帰国後、短期派遣により1年余り、後輩の水の防衛隊員らのサポートに携わり、その後、企画調査員として草の根の活動を支えました。そして、「これからも、さらに広く深く、水・衛生分野の国際協力に取り組んでいきたい」と話しています。
安全な水について住民に説明を行う水の防衛隊員
「水の防衛隊」について、望戸課長は「「10年間の隊員一人ひとりの熱意と努力はもちろんのこと、隊員をサポートする体制についてもJICAの担当者が変わっても確実にバトンが受け継がれてきました。現場の最前線にいる隊員からの助言で学びを得ることも多く、ウィンウィン関係にあることが大きい」と振り返ります。
アフリカの水・衛生は、村落での井戸の建設から都市部での水道の整備、飲み水の問題からトイレの利用促進や衛生意識の向上などに焦点が広がりつつあります。JICAはこうした変化も踏まえながら、「水の防衛隊」を継続し、この問題に取り組んでいきます。
(注)JICA海外協力隊は、青年海外協力隊、海外協力隊、シニア海外協力隊、日系社会青年海外協力隊、日系社会海外協力隊、日系社会シニア海外協力隊の総称。