【明治150年 世界に受け継がれる日本の近代化経験:Vol.4】 公害への対応や環境を守る知識を伝える

2018年10月19日

日本が明治以降、経済成長のため工業化を進めるなかで直面したのは「公害」問題です。シリーズ【明治150年 世界に受け継がれる日本の近代化経験】の最終回は、近代化の過程で日本が経験した公害への対応とその教訓を、途上国にも伝えていくJICAの取り組みを紹介します。

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途上国で公害対策への着手を遅らせない

日本は明治中期から、製鉄業、製糸紡績業といった工業が発展し、主要エネルギー源だった石炭の消費拡大に伴う煤煙により大気汚染の現象がみられました。第2次大戦後の急速な経済成長の反面、大気や水質の汚染といった公害対策が遅れ被害は深刻化。その後、公害反対の世論が高まり、環境保全に向けた技術開発をはじめ、公害防止に関する法整備などが進みました。

「日本の教訓を生かし、途上国では大気汚染の被害が大きくなる前に食い止めたい」。2008年からモンゴルの首都ウランバートルで大気汚染対策能力強化プロジェクトに関わる山田泰造JICA国際協力専門員は言います。ウランバートルは急速な都市化などにより大気汚染が進み、2011年に世界保健機関(WHO)の調査で、空気汚染度が世界ワースト2位とされました。対策が急がれていたものの、汚染源が特定できておらず、有効な対策を打ち出せない状況でした。

排ガスを測定する様子

JICAはまず、大気汚染物質の発生源の特定や分析、排ガス測定に着手。石炭火力発電所や暖房用ボイラー施設といった発生源に対し、排ガス測定に基づく監査制度の構築など行政側と事業者による排出源管理の能力強化を行いました。

次に、大気環境のモニタリングなどを進めるには担当者の知識や経験が不足していることから、人材育成を強化しモンゴルの人々が自らの手によって大気汚染対策を立案、評価するための能力強化に努めました。また、大気環境モニタリング情報を市民や学校に向けて公開することにより、市民の大気汚染に対する関心を高めました。今後は、大気環境の改善につながるよう、冬場の家庭用石炭ストーブによる大気汚染が著しい地域に向けた家庭用改善燃料の普及や、市内を走行するバスなど大型ディーゼル車の排ガス対策といった実質的な取り組みを、日本の経験を生かしながら実施してきます。

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ウランバートルでは、自動車の排ガスや(写真右)や冬場の暖房用に石炭を使用することに加え、火力発電所の煤煙(写真左)が大気汚染の要因とされます

「モンゴルの市民、行政、事業者が力を合わせて自らの手によって大気汚染を解決する能力の強化こそ、公害を克服した日本の経験が生かされた取り組み」と述べる山田専門員。モンゴルのほか、イランやコソボなどでも、日本の知見を生かした大気汚染対策を支援しています。

JICAはそのほかにも各国で、大気汚染対策分野の人材育成をサポートしています。海を挟んで隣り合う中国に向け、富山県で国際環境協力を推進している公益財団法人環日本海環境協力センターと連携し、大気汚染の原因物質の削減に取り組む専門家の育成を後押しするほか、大気管理を担う途上国の行政担当者などを対象にした日本での研修「大気環境管理に向けたキャパシティビルディング」を実施するなど、日本の教訓を基にさまざまな支援を行っています。

子どもたちに環境を守る大切さを伝える

鉱山から排出されたカドミウムが原因の公害病イタイイタイ病は、明治中期から稲の生育不良などその兆候があったとされます。大正時代には全身が激しく痛む原因不明の病気が発生。地域住民が長い間苦しむなか、戦後ようやく日本で最初の公害病として認定されました。被害者の救済や法整備が進み、2012年には汚染された農地の復元作業は終了しましたが、今なお患者認定作業は続いています。

富山県で発生したこのイタイイタイ病の歴史が今、インドネシアの教科書に取り上げられ、子どもたちに環境を守る大切さを伝える教材となっています。

JICAは、一般社団法人インドネシア教育振興会(富山県)と連携して首都ジャカルタ近郊の南タンゲラン市の小学校で「環境」教科のカリキュラム開発と教科書の作成を支援しています。2014年に南タンゲラン市の小学校30校で「環境」が教科として導入され、その後300校に拡大。現在、中学校での「環境」教科の導入や、インドネシアの他の地域での環境教育の普及を後押しします。

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土壌の復元の過程など、イタイイタイ病について紹介するインドネシアの教科書

「この教科書を通じて、日本のマイナスの経験をプラスにしていきたい。同じ悲劇をインドネシアで繰り返さないよう取り組むことが先進国の役割です」と語るのは、インドネシア教育振興会理事で富山大学人間発達科学部の根岸秀行教授です。

インドネシアでは、世界で最も汚染された川があるなど水質汚染やゴミの投げ捨てといった環境問題が懸念されるなか、未来を担う子どもたちに「環境」を守ることがどれだけ大事かという意識を持ってもらうことが必要。授業を通じてイタイイタイ病の話を聞いた子どもたちは「自分たちの使う水は大丈夫なんだろうか」と意識するようになったと根岸教授は述べます。

小学生と交流するインドネシアの先生たち

今年9月、環境の教科書作成に携わるインドネシアの中学校の先生たちなど21名が富山県の小中学校での視察を通じた研修に参加。子どもたちの環境への関心が高まるよう「日本では環境問題が写真やグラフ、絵などビジュアルとしてわかるような教科書を使っていたので、インドネシアでもそういう教科書を作成していきたい」と抱負を語りました。

途上国の未来を支える人材に受け継がれる日本の経験

途上国の未来と発展を支えるリーダーとなる人材に向けて、今年10月から本格的に始まった日本の近代の経験を伝える新しいプログラム「JICA開発大学院連携」では、「各大学におけるプログラム」として、それぞれの大学の強みを生かした分野において、特色ある日本の開発経験についての講義を実施します。

北海道大学大学院環境科学院では、10月に先駆け4月から日本がたどった環境に関する歴史をはじめ、失敗から成功に導いた環境法の整備や保全技術の開発、環境政策の推進などに関する授業を開始しています。

非西洋から先進国となった世界で最初の国である日本の経験を、成功だけでなく、教訓も含めて途上国に伝えていく——そのような取り組みをJICAはこれからも進めていきます。