ベトナムで安全なワクチンを生産:20年にわたり製造技術伝える

2018年10月23日

ベトナムで、品質が高く安全なワクチンの生産が可能になり、感染症の予防に役立っています。JICAは、日本有数のワクチンメーカーである北里第一三共ワクチンの協力を得て、これまで約20年間、ベトナムへのワクチン製造技術の移転プロジェクトに取り組んできました。

弱毒化されたウイルスを培養してつくる生ワクチンの製造には高度な技術の習得が必要です。プロジェクトを成功に導いた日本人専門家らとベトナムのワクチン製造機関であるワクチン公社との長年にわたる粘り強い取り組みと、その舞台裏を紹介します。

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ワクチンを製造するベトナム人技術者たち

ベトナムの首都ハノイにあるワクチン・生物製剤研究・製造センター(ワクチン公社)

JICAと北里第一三共ワクチンの取り組みは、2002年からのワクチン製造施設の建設で本格的に始まりました。2006年から麻疹ワクチンの製造技術の移転が開始され、2010年に国内で初めて製造が可能となりました。現在、そのワクチンは生後9ヶ月の子どもを対象にした定期予防接種で使用されています。

「麻疹ワクチンの製造技術の国外移転は初めての取り組み。原材料や設備も異なるなか、最初は戸惑うばかりでした」と約20年近くこのプロジェクトに関わった李 富雄(り とみお)さん(プロジェクト副総括)は当時を振り返ります。

日本人専門家(右)から指導を受けるワクチン公社の技術者たち

日本人専門家たちは試行錯誤を重ね、ベトナムの環境に合わせて日本の技術を最適化し、丁寧に製造方法を教えていきました。ベトナム人の通訳者は、専門家の考えを正確に伝えるため、ワクチン製造に関する専門用語を集めた手作りの辞書を作成。プロジェクトが円滑に進むよう業務調整役を務めた石川修三(いしかわ しゅうぞう)さん(サクラグローバルソリューションズ)は、ワクチンの適正な製造のためにWHO(世界保健機関)が定めた「製造所における製造管理、品質管理の基準規則」(WHO-GMP)に遵守することへの指導教育をはじめ、プロジェクト終了後も自らの力できちんと製造できるよう、綿密な工程表の作成も指導しました。日本で行われるような毎日の朝礼、毎週の定例会議なども設定し、作業確認や対応策の検討を行うなど、現地技術者育成のため工夫を重ねました。

ワクチン公社で技術指導をする北里第一三共ワクチンの荒井総括(右)と李副総括(右から3番目)

「私たち専門家が日本の技術を使ってベトナムでワクチンを製造することはできます。でも一番大事なのは、いかに現地で技術を定着させ、根付かせることができるかです」と語るプロジェクト総括の荒井節夫(あらい せつお)さんの言葉が実証されたのが、ベトナムで2013年に麻疹が大流行した時。緊急に大量のワクチンが必要となるなか、ワクチン公社は北里第一三共ワクチンが普段、日本で製造する約10年分に相当する麻疹ワクチンをわずか半年で製造し、迅速な対応で流行を食い止めました。日本人専門家は一同に「これまでやってきことに間違いはなかった」と確信したと言います。

培ってきた信頼を土台に麻疹風疹混合ワクチンの技術移転が進む

日本の技術に対する信頼や期待も高まり、2013年からは麻疹風疹混合ワクチンへの製造技術の移転が開始されました。ベトナムは近隣国に比べて風疹の発症数が増加。子どもだけでなく、妊産婦が風疹に罹ると障害のある子どもを出産するリスクが高くなることから、予防対策が求められていたのです。

麻疹風疹混合ワクチンの臨床試験の様子

また、当時ベトナムでは輸入ワクチンにより子どもが亡くなる事故も発生。プロジェクトの組織管理を担当した土田安弘(つちだ やすひろ)さんは「ワクチンの接種で国の将来を担う子どもを守ることは国防そのもの。だからこそ、ベトナムには自分たちの手で品質の高いワクチンを作りたいという切なる思いがありました」と語ります。

ワクチン公社が製造する麻疹風疹混合ワクチン

麻疹ワクチンの製造移転に関わったワクチン公社の若手技術者が、麻疹風疹混合ワクチンのときは製造部門の責任者となり、効率的な製造に向け実験を繰り返し努力する姿を日本人専門家は見守りました。問題点が発見されれば、お互いに解決方法を徹底的に探るなど長年の信頼関係がプロジェクトを後押し。そして、2017年3月、国産初の麻疹風疹混合ワクチンはベトナム政府の販売承認を取得し、すでに現在、定期予防接種で活用されています。

その実績は高い評価を受け、今年、JICA理事長賞をはじめ、保健文化賞(第一生命保険株式会社主催、厚生労働省後援)を受賞しました。

近隣国での感染症予防に向け輸出も視野に

ベトナムは今、プロジェクトで製造可能となった国産のワクチンを近隣国に輸出しようと動き出しています。そのためにはWHOの基準に則った品質を維持し続けることが不可欠。プロジェクトが2018年5月に終了した後も、日本人専門家は、ベトナムが基準に合うワクチンを継続的に安定供給できるよう、技術面でのサポートをしています。

「ベトナムがアジアを代表するワクチンの供給拠点の一つになってほしい。自分たちが蒔いた種が多くの国々で役立ってくれればうれしい」と語る荒井総括。日本人専門家とベトナム人技術者との間で結ばれた絆は、これからも続いていきます。