教育は明るい未来をひらく:パレスチナで20年ぶりの教科書改訂を支援

2018年11月20日

「イラストや図表がたくさん載っていて、とても見やすい! 友だちとのグループ学習も増えて、自分たちで考えることが多くなりました」。今年10月、パレスチナの5年生に新しい理科の教科書が配布され、子どもたちは嬉しそうにこんな感想を述べました。

JICAは、パレスチナが約20年ぶりに1年生から12年生(日本の小中高に相当)のカリキュラム・教科書の改訂を実施するなか、日本の得意分野である理科・算数で1~9年生の教科書改訂をサポート。情報が過度に詰め込まれ、子どもたちの学びにとって負担が大きかったこれまでの教科書が、実験などの活動を交えながら、わかりやすく自ら学ぼうとする意欲が高まるような形に生まれ変わりました。

イスラエルとの紛争下にあり、安全上の問題やインフラ・物資の不足、高い失業率などさまざまな困難を抱えるパレスチナの人々にとって、教育は明るい未来を切りひらくために最も大事な土台です。質の高い教育を身につけて職につき、安定した生活基盤を築くことが和平実現にもつながることから、JICAは、パレスチナの基礎教育支援に積極的に取り組んでいます。

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新しい理科の教科書で授業を受ける子どもたち

「詰め込み型」から「活動中心型」へ

パレスチナでは、子どもたちにいい教育を受けさせたいという親の気持ちは切実で、初等教育の純就学率は95%(2015/2016年)に達しています。しかし、肝心の教科書については「学習範囲や分量が多すぎて、子どもたちの思考力が伸びない」「理数科離れが著しい」といった課題が長年、指摘されていました。

教科書作成・改訂に向け、アドバイザーとしてパレスチナ教育・高等教育庁に派遣されたのは、長年、日本で教科書作成に携わってきた廣瀬正臣(ひろせ まさおみ)専門家です。現地の学校で模擬授業を行った際、廣瀬専門家は次のような問題を実感したと言います。

ペットボトルを使ったロケットの実験に熱心に取り組む子どもたち

「子どもたちが理科に関心を持つようにと、ペットボトルロケットの実験をしたことがありました。ロケットが空に飛んで行く様子を見て子どもたちは大はしゃぎでしたが、実験後に『原理を考えてみよう』と課題を出したところ、みんなすぐには回答が書けなかったのです」。

子どもたちは、知識詰め込み式の教育を受けてきたため、実験や観察をもとに自らが考えて答えを導き出すという習慣が定着していないことが浮き彫りになったと廣瀬専門家は述べます。 

改訂前の理科の教科書は、まるで図鑑のように情報がびっしりと書き込まれている、いわゆる「詰め込み型」。たとえば、4年生の「電気と磁石」の項目では、豆電球のつなぎ方から始まり、静電気、電化製品や電池の廃棄処理、感電事故の防止や節電の話まで広範囲にわたる知識が大量に羅列される一方、実験や観察はあまり重視されていませんでした。思考や学びを促すための配慮がなされていないことが、子どもたちの学習意欲低下の要因になっていました。

廣瀬専門家は、パレスチナ教育・高等教育庁の教科書改訂担当者が作成した改訂案をもとに、担当者たちと何度も議論を重ねました。内容を厳選して子どもたちが自ら考え活動しやすい紙面となるようアドバイスし、改訂作業をサポートしました。改訂された新しい教科書をみると、旧版に比べてページ数が減り、子どもたちが実験などの活動をもとに自分で答えを書き込むための欄が設けられるなどの工夫が施されました。

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4年生理科教科書の「電気と磁石」のページ。旧版(左)に比べて新版は情報が整理されて見やすくなりました。子どもたちが授業で得た学びを書き込むスペースも。

磁石を使って模擬授業をする廣瀬専門家(中央)。子どもたちは実験に夢中です。

この「活動中心型」の新しい教科書は子どもたちだけでなく、先生たちからも高い評価を得ています。女子校の理科教師は、「たまごのケースを使って背骨の模型を作る活動など、生徒が楽しみながら学べるアイディアがたくさん詰まっているのがよい」と話します。

日本の教育支援に対する「信頼」と「期待」

パレスチナに対して中立的な立場を貫く日本への信頼から、教科書改訂という国の教育の根幹に関わるプロジェクトに、JICAは海外の援助機関として唯一参加しました。産業振興や雇用創出を目指すパレスチナは、理数科教育の強化が大きな課題であり、国際的な学力比較テストで理数科の成績がトップクラスの日本に大きな期待を寄せています。

JICAは2019年から、新しい教科書を用いた子どもたちへの教え方を指導するなど、先生たちへの支援にも取り組みます。子どもたちが自分で考える力を身につけられるような教育が、しっかりと授業で実践されるようサポートしていきます。