日本式の中小企業支援を西バルカン地域へ

2018年12月20日

細やかな経営指導が特徴の「日本式」の中小企業への支援が、セルビア、モンテネグロといった西バルカン地域で広がっています。民族対立を乗り越え、経済開発を進めるこの地域では、国内企業数の大半を占める中小企業の振興が経済活性化や雇用拡大にとって大きな鍵。その一方で、行政の中小企業支援に向けたサービスは人材不足などから行き届いておらず、課題となっていました。

メンター(左)のアドバイスを受ける中小企業の経営者(右):マケドニア

JICAは、2006年からセルビアの公的機関で中小企業の業績向上に向けた経営アドバイスを行う人材の育成を進めてきました。アドバイスを受けた中小企業からは「利益率が上がった」「金融機関から融資を受けることができるようになった」といった声が上がり、マケドニアやボスニア・ヘルツェゴビナなど周辺国も中小企業政策にこの人材育成の取り組みを盛り込むようになっています。

日本の経営指導員制度をもとに「メンター」を育成

セルビアの家具製造会社エルゴメードは、中小企業に経営アドバイスをする「メンター」から、製造工場の作業員たちの意見を取り入れるよう指導を受け、その声を反映し生産ラインを改善した結果、「不良品を17%削減することができた」と言います。

このメンターの育成に、日本の経営指導員制度のノウハウが生かされています。経営指導員とは、中小企業経営者の財務や経営などに関する相談に応じる地域の商工会議所や行政機関のスタッフのこと。中小企業の支援者を公的機関が認定することは世界でもあまり例がなく、日本ならではの中小企業支援の取り組みです。

メンターを育成するトレーナーになるため、日本人専門家の研修を受けるセルビアの中小企業支援機関の職員たち

JICAは、セルビアの公的中小企業支援機関の職員を対象にメンターの育成を進めてきました。職員たちはマーケティングや財務管理、労務管理などを学びつつ、実際に中小企業に出向き、経営者が抱える問題点を聞き取るなどOJTを経験してメンターに認定されます。セルビアでは現在、55人がメンターとして中小企業へのアドバイスを行っています。

事業を開始して間もない中小企業にとって、民間のコンサルタントにコンサルティング料を支払う余裕はなく、アドバイスを受けることは難しい状況でした。そんななか、経営相談を希望する中小企業に行政がメンターを派遣。改善方法を提示するだけのコンサルタントとは異なり、経営者に寄り添い、一緒に対話を進めながら業績向上を後押しするメンターは、中小企業にとって心強いサポート役です。

経営者の業務改善に対する意識が向上

かつて計画経済に基づき、国家が国有企業などを通じて経済活動を統制していた西バルカン地域では、2000年代に入っても中小企業経営者に生産性の向上や経営の効率化を図ろうとする考え方が根付いていませんでした。「経営者には外部からのアドバイスに耳を傾け、社員一人ひとりの声を経営に反映させるといった意識がなかったため、説明会を実施するなどメンターの意義を理解してもらうよう努めました」と語るのは、2006年からセルビアでメンター制度の構築に関わっている舟橋 學(ふなばし がく)JICA国際協力専門員です。

メンターの支援を受けた中小企業を訪問し、その後の経営状況について聞く舟橋専門員(右)

メンターたちは、中小企業1社につき約25~50時間かけて、財務状況の分析や業績改善について経営者と一緒に取り組みます。メンターは表やグラフを用いて経営状況をわかりやすく経営者に示したり、社員の声を拾うため、自ら意見箱を手作りして設置したり、細やかな対応が企業の業績向上に結びついています。

メンターのアドバイスが成果につながることを実感した経営者たちは、その後も自らカイゼンに関する本を取り寄せて勉強するなど、「企業側の経営に対する意識も変化していきました」と舟橋専門員は言います。

西バルカン共通の課題に向け、国境を越えた協力で取り組む

1日目のパネルディスカッションの様子。左より、JICAバルカン事務所小林所長、セルビア開発庁アナ・ジェガラッツ国際協力部長、ブルガリア中小企業促進庁ヴラディミール・ミネフ情報サービス部門長、舟橋専門員。

今年11月末、ベオグラードで、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア4ヶ国の中小企業支援機関の担当者が集まり、各国のメンター事業の進捗を共有するワークショップが2日間にわたり開催されました。

1日目には、かつてJICAが中小企業分野で協力を実施し、すでにEU加盟国であるブルガリアの中小企業庁の関係者も参加。小林秀弥JICAバルカン事務所長の進行で、セルビアとブルガリアそれぞれの中小企業支援の施策に関するパネルディスカッションを行い、お互いの経験と知見を共有しました。

このパネルディスカッションは、今年1月に安倍首相がセルビア、ブルガリアを訪問した際に表明した、西バルカン協力イニシアティブへ貢献の一環として開催されました。

また、ワークショップ2日目の各国の取り組みの発表セッションでは、メンターによる支援が進むセルビアと、中小企業への支援を強化したいボスニア・ヘルツェゴビナの担当者が学び合う様子も垣間見られました。過去の歴史からお互いを受け入れない状況が未だに続くなか、中小企業振興という共通の課題に対して、連携する両国の担当者の様子に「予想もしなかった結果に驚いています」とこの地域で長く支援に取り組む舟橋専門員はうれしそうに述べます。

この10年以上におよぶ取り組みで、メンターの育成をはじめ、そのスキルの定着を図るためのガイドラインが作成され、スキルの標準化も実現。メンターのサービスもセルビアから周辺国へと拡大しました。この西バルカン地域での日本式の中小企業支援の成功モデルは現在、ベトナムやエチオピアなど他の地域へも広がりをみせつつあります。