2019年3月19日
乾燥した地域が気候変動や人間の活動により人の住めない不毛の大地になっていく「砂漠化」。貧しい人々の多くが自然資源に頼って暮らすサハラ砂漠以南の乾燥地サブサハラ・アフリカ地域では、頻発する干ばつや自然資源の過度な利用などにより砂漠化が加速し、貧困がさらに進むという負の連鎖が起こっています。
「ニジェールでどこまでも続く茶色い大地を目の前に『最初の雨が降って雨期が始まったと思ったのに、2週間経ってもまだ次の雨が来ない』と農民がもらしました。厳しい状況で暮らす人々の声を聞き、どうにかしなくてはという思いはさらに強くなりました」と言うのは、JICA地球環境部の三浦真理職員です。
風をさえぎる低木が減少し、風食による砂漠化が進行しているニジェールの農地 撮影/三浦真理職員
国連砂漠化対処条約第13回締結国会議(2017年9月、中国オルドス)の機会に開催されたAI-CDの会合に参加するJICA地球環境部三浦真理職員(右)
アフリカが抱えるこの課題の解決に向け、JICAは2016年の第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)で、サブサハラ15ヵ国と国連砂漠化対処条約(UNCCD)や国連食糧農業機関(FAO)といった国際機関と共に、砂漠化対処を促進する地域協力の枠組み「サヘル・アフリカの角 砂漠化対処による気候変動レジリエンス強化イニシアティブ(AI-CD)」を立ち上げました。
このイニシアティブのスタートから関わり、サブサハラの国々と一緒に奮闘する三浦職員の挑戦を紹介します。
ニジェールの砂漠化した地域で農民たちから話を聞くJICA関係者ら
「砂漠化は、遠いアフリカだけの問題ではありません」と三浦職員は強調します。砂漠化により生み出される貧困や食糧不足、若者が職を得られないといった問題は、難民やテロ、暴力的な過激主義の増加につながっています。日本をはじめ世界中の誰もが「明日どこかで起こるかもしれないテロ」に遭遇する可能性がある今、その要因の一つとされる砂漠化への取り組みは、世界的な課題です。
「特に世界でも開発が最も遅れているサブサハラアフリカにとって、砂漠化への対処は喫緊の課題ながら、政策実施能力や必要な資金が圧倒的に不足。また、気候変動や生物多様性といった他の地球規模の課題に比べ、国際社会の注目や支援も十分とは言えません」
そこでJICAは、サブサハラ各国が持つ砂漠化対処の知識や経験を共有し、具体的な事業の実施に必要な資金を各国が得ることで、各国が効果的に砂漠化に取り組めるよう地域協力の仕組みをつくるため、これまで自然資源保全の協力を長く続けていたケニアとセネガルにAI-CDの立ち上げを呼びかけました。
参加する15ヵ国それぞれが主体的に参画するオーナーシップと、国際機関などとの連携のもと成り立つAI-CDは、ケニアとセネガルが拠点国として引っ張り、各国が砂漠化対処に向けた方策を自ら模索し、協力して進めていきます。JICAはあくまでも伴走者としてサポートします。
AI-CDに参加する15ヵ国
JICAにとって、一つの国で具体的な事業を行うのではなく、アフリカ各国や国際機関と協調し、地域協力の仕組みを一からつくるというのはあまり例がない取り組みです。「事業資金がないなか、どのように現場でインパクトのある活動ができるか、関係者と地道な協議を重ねました。前例もなく、手探りの日々でした」と三浦職員は振り返ります。
そんななか、「一番感じたのは各国が日本やJICAに寄せる信頼と期待。その根底には協力隊や専門家などによる、その国のニーズに寄り添った長年の支援があったからこそ」と言う三浦職員。ある会合では「ソマリアの政府関係者が急に私の手を握り、『私たちには支援が必要だ。日本に何とか助けてほしい』と言われたこともありました」。
2018年7月に南スーダンの首都ジュバで行われたワークショップ
そして今、AI-CDに具体的な動きがみえてきました。「南スーダンで砂漠化対処に向けた事業の形成のためのワークショップが行われ、具体的な事業の準備が進んでいます。この事例を弾みに、各国が事業を形成し、資金を得ることができる流れをつくりたい。会合で協議するだけのイニシアティブで絶対に終わりたくないのです」と三浦職員は意気込みを示します。
今年8月に開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の機会には、砂漠化対処に向けた各国の進捗状況を共有する場も設けられる予定です。TICAD7に向けた準備が進むなか、ケニアのAI-CD担当者は、「すべての国が知識を高め、事業の形成や資金を獲得できることが重要」と述べ、今後さらに参加国15ヵ国が足並みを揃えて砂漠化対処に挑むことの必要性を強調します。
三浦職員はすでにTICAD7の先を見据えています。「AI-CDは、2022年のTICAD8で各国が砂漠化対処に向けた事業を具体的に実施していることが目標。さらに、日本の衛星技術などを使った砂塵嵐対策や民間企業との連携なども進めたいと思っています」
砂漠化は、農業、環境、ジェンダーなどあらゆる分野に関係します。「国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)は『誰一人取り残さない』と宣言。貧困の要因とされる「砂漠化」への対処ができなければ、決してSDGsは達成できません」と決意を示す三浦職員の挑戦はこれからも続きます。
砂漠地域に暮らす子どもたち(ブルキナファソ)
三浦 真理(みうら まり)
JICA地球環境部職員。2005年JICA入構。農村開発部、インドネシア事務所、外務省国際協力局(出向)、オーストラリア国立大学(留学)を経て2015年から現職。千葉県出身。